着床障害には漢方か鍼灸か?
「着床障害」には漢方薬と鍼灸どちらを選ぶ?
着床障害での悩みは大変つらいお気持ちでしょう。
これまで頑張ってこられたこと、心から労わせていただきます。
着床障害は、受精卵が子宮内膜に着床する過程に何らかの問題がある状態です。
原因は多岐にわたり、子宮内膜の状態、受精卵の質、ホルモンバランス、免疫機能など、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
東洋医学では、着床は「血(けつ)」と「気(き)」の充実、そして「腎(じん)」の力が深く関わると考えます。
「血」は子宮内膜を栄養し、「気」は受精卵の生命力を支え、「腎」は生殖機能を司ります。
これらのバランスが崩れると、着床がうまくいかないことがあります。
漢方薬では、不足している「血」や「気」を補ったり、滞っている血流を改善したり、冷えを温めたりする処方を用います。
鍼灸では、子宮や卵巣の機能を高めるツボ、全身のバランスを整えるツボなどを刺激し、着床しやすい体づくりをサポートします。
焦る気持ち、不安な気持ち、色々な感情があると思いますが、どうかご自身を責めないでください。
あなたは決して一人ではありません。
私たちと一緒に、心と体を整え、赤ちゃんを迎える準備をしていきましょう。
着床障害で悩まれるあなたに、最初に「結論」です。
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です。
それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。
着床障害と東洋医学
東洋医学では、着床障害を婦人科系だけの問題ととらえるのではなく、全身の気・血・水のバランスの乱れが関与すると考えます。
体質別に原因を掘り下げてご説明することで、患者さんご自身の状態をより深く理解していただければと思います。
気血両虚(きけつりょうきょ)タイプ
「気」は生命エネルギー、「血」は体を栄養する物質です。
気血両虚は、この両方が不足した状態です。
慢性的な過労、不規則な生活、偏食、慢性的な病気などで気血が消耗することで起こりやすくなります。
全身倦怠感、めまい、立ちくらみ、顔色不良、動悸、息切れ、不眠、食欲不振、月経不順(経血量少ない、色が薄い)、爪がもろいなどがあわせて起こりやすくなります。
気血両虚だと、子宮内膜が十分に栄養されず着床に適した状態を維持できなかったり、受精卵を育むエネルギーも不足するため質の良い卵自体ができづらくなります。
腎虚(じんきょ)タイプ
「腎」は成長、発育、生殖を司る東洋医学の内臓系のひとつです。
腎虚とは、その腎の機能が低下した状態です。
先天的に腎が弱い体質、慢性的な過労、慢性的な病気、性生活の乱れなどで腎気が消耗することで起こります。
腰痛、足腰の冷え、頻尿、夜間頻尿、耳鳴り、めまい、白髪、抜け毛、性欲減退などがあわせて起こりやすいです。
生殖機能の全般的低下につながり、卵子の質や子宮内膜の状態に影響を与えます。
着床後も妊娠維持が難しくなることがあります。
気滞血瘀(きたいけつお)タイプ
「気」の流れが滞る状態を「気滞」。
「血」の流れが滞り、血行が悪くなっている状態を「瘀血」と言います。
この両方が合わさった状態が気滞血瘀です。
精神的ストレス、緊張、怒りや悲しみなどの感情の抑圧、冷えなどで気の流れが滞り、それが血の流れにも影響することで起こります。
月経痛(刺すような痛み)が強い、月経血に血塊が多い、下腹部痛、肩こり、頭痛、イライラ、便秘、シミ、クマなどがあわせて起こりやすいです。
子宮や卵巣への血流が悪くなり、子宮内膜の状態が悪化したり、卵子の質が低下したりします。
また、子宮内膜に瘀血が停滞することで、受精卵の着床を妨げる可能性があります。
痰湿(たんしつ)タイプ
体内の水分代謝がうまくいかず、余分な水分が停滞した状態を痰湿と言います。
暴飲暴食、脂っこい食事、冷たいものの摂りすぎ、運動不足などで消化機能が低下し、水が滞ることで起こります。
むくみ、肥満、体が重だるい、めまい、吐き気、食欲不振、おりものが多い、舌苔が白いなどがあわせて起こりやすいです。
痰湿が子宮に影響を与え、子宮内膜の状態を悪化させたり、ホルモンバランスを乱したりすることがあります。
また、卵子の質にも影響を与える可能性があります。
以上、
これらの体質は単独で現れるだけでなく、複合的に現れることもあります。
例えば、気血両虚と腎虚が同時に見られる場合や、気滞血瘀と痰湿が同時に見られる場合などです。
東洋医学では、これらの体質を詳しく見極め、それぞれの状態に合わせた漢方薬の処方、鍼灸治療などを組み合わせることで、身体全体のバランスを整え、着床しやすい体づくりをサポートしていきます。
着床障害に効く漢方薬の代表例
着床障害で悩む人に対して体質別に効果が期待できる漢方薬を挙げ、その理由を説明します。
ただし、漢方薬は実際の体質や症状に合わせて処方されるべきものですので、参考程度に留め、必ず専門家に相談してください。
気血両虚(きけつりょうきょ)タイプ
代表的な漢方薬:
・婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
・十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
【婦宝当帰膠】
当帰(とうき)を中心に、血を補う生薬と気を補う生薬が配合されており、気血両虚の改善に効果的です。
特に、月経不順や月経痛、冷え症などを伴う場合に適しています。
【十全大補湯】
気血を強力に補う作用があり、全身の倦怠感や疲労感が強い場合に適しています。
体力が低下している方や、手術後、病後の体力回復にも用いられます。
【当帰芍薬散】
血を補い、血の巡りを改善する効果があります。
冷え症、めまい、むくみなどを伴う場合に適しています。
腎虚(じんきょ)タイプ
代表的な漢方薬:
・八味地黄丸(はちみじおうがん)
・六味丸(ろくみがん)
【八味地黄丸】
腎の陽気を補う作用があり、腰痛、足腰の冷え、頻尿、夜間頻尿などの症状を伴う腎陽虚に適しています。
加齢による生殖機能の低下にも用いられます。
【六味丸】
腎の陰液を補う作用があり、ほてり、のぼせ、口渇などの症状を伴う腎陰虚に適しています。
気滞血瘀(きたいけつお)タイプ
代表的な漢方薬:
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
・桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
【加味逍遙散】
気の巡りを改善し、精神的な安定をもたらす作用があります。
イライラ、憂鬱感、月経前症候群(PMS)などを伴う場合に適しています。
【桂枝茯苓丸】
血の巡りを改善し、瘀血を取り除く作用があります。
月経痛(刺すような痛み)、月経血に血塊が多い、下腹部痛などを伴う場合に適しています。
【桃核承気湯】
下腹部の瘀血を取り除く作用が強く、便秘を伴う場合に適しています。
痰湿(たんしつ)タイプ
代表的な漢方薬:
・茯苓飲(ぶくりょういん)
・二陳湯(にちんとう)
【茯苓飲】
水分代謝を改善し、胃腸の機能を整える作用があります。
むくみ、めまい、吐き気、食欲不振などを伴う場合に適しています。
【二陳湯】
痰を取り除く作用があり、吐き気、嘔吐、食欲不振などを伴う場合に適しています。
以上、
あくまで一般的な例であり、個々の体質や症状によって最適な漢方薬は異なります。
また、「着床障害にはこの薬」のような病名からの処方ではなく、「その人の体質・状態にはこの薬」という体質からの処方が勧められます。
ですので、同じ病名に悩む人にも異なる漢方薬が出ることも少なくありません。
こういう治療の組み立てをするのが東洋医学です。
着床障害に効く鍼灸のツボ
鍼灸も漢方薬と同じく東洋医学の一角ですので、考え方は同様です。
その人の体質・状態から適したツボを選択していきます。
着床障害でお悩みの方向けに、体質別に効果が期待できるツボ(経穴)を解説します。
気血両虚(きけつりょうきょ)タイプ
おススメのツボ:足三里(あしさんり)
胃腸の働きを整え消化吸収を高めて栄養をしっかり取り込むことで血を増やす作用があります。
全身の倦怠感や食欲不振、消化不良などを伴う場合に有効です。
おすすめのツボ:気海(きかい)
「気」が集まる場所とされ、全身のエネルギー(とくに着床に必要な婦人科系のエネルギー)を補います。
気力不足、疲労感、冷えなどを伴う場合に有効です。
腎虚(じんきょ)タイプ
おすすめのツボ:腎兪(じんゆ)
腎の機能を高める作用があり、腰痛、足腰の冷え、頻尿などを伴う場合に有効です。
おすすめのツボ:太谿(たいけい)
腎の精気を補う作用があります。
足腰の冷え、めまい、耳鳴りなどを伴う場合に有効です。
気滞血瘀(きたいけつお)タイプ
おすすめのツボ:合谷(ごうこく)
合谷は全身の気の巡りを整える万能のツボとも言われ気の巡りを改善し、血流を促進する作用があります。
ストレス、イライラ、肩こり、月経痛などを伴う場合に有効です。
おすすめのツボ:血海(けっかい)
血の巡りを改善し、瘀血を取り除く作用があります。
月経痛、月経不順、下腹部痛などを伴う場合に有効です。
おすすめのツボ:三陰交(さんいんこう)
肝、脾、腎の3つの経絡が交わる場所で、女性特有の症状に効果があるとされています。
ホルモンバランスの乱れ、月経不順、冷えなどを伴う場合に有効です。
痰湿(たんしつ)タイプ
おすすめのツボ:豊隆(ほうりゅう)
水分代謝を改善し、痰湿を取り除く作用があります。
むくみ、体が重だるい、めまいなどを伴う場合に有効です。
おすすめのツボ:陰陵泉(いんりょうせん)
水分代謝を改善する作用があり、むくみ、下痢、おりものが多いなどを伴う場合に有効です。
以上、
「着床障害に良いツボ」も全身のあちこちにあります。
それは「婦人科系=下腹部や腰のみ」という考えでなく「体質の異常=全身の問題」と捉えるためで、それを改善するツボは全身にあります。
漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…
着床障害でお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。
もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか。
漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。
漢方薬は費用負担が少ない可能性
漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。
他にどんな悩みがあるか?で決める
「着床障害」は様々な原因が考えられますし、「着床障害」のみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。
漢方薬は内臓系が得意ですので、更年期などホルモンバランスの変化や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれ・自律神経の乱れなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。
通院の負担と服用の負担から考える
たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。
どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう。
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。
まとめ
最初の結論にもう一度書きます。
「着床障害には漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。
漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。
1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。
2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。
3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。
4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「着床障害」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。
5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。
以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。
ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。
ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。
『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』
また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。