鍼灸は交感神経・副交感神経のどちらにどう働いてる?
鍼灸治療は交感神経・副交感神経にどう効くか

鍼灸治療が自律神経系に作用し、心身のバランスを整えることは、現代医学的な研究でも多く示唆されています。
では、具体的に鍼灸は交感神経と副交感神経のどちらに、どのように働きかけるのでしょうか。
今回は、東洋医学的な視点と西洋医学的な視点を融合させながら詳しく解説していきます。
自律神経系とは何か?

まず、自律神経系について簡単に解説します。
自律神経は、私たちの意思とは関係なく、体の生命活動を自動的に調整している神経系です。
具体的には、呼吸、心拍、血圧、消化、体温調節、免疫機能など、あらゆる生理機能を司っています。
自律神経は大きく分けて、「交感神経」と「副交感神経」の2つがあります。
■交感神経
「闘争と逃走の神経」とも呼ばれ、活動時やストレス時に優位になります。
心拍数を上げ、血圧を上昇させ、筋肉への血流を増やし、集中力を高めるなど、体を活動モードに切り替えます。
■副交感神経
「休息と消化の神経」とも呼ばれ、リラックス時や睡眠時に優位になります。
心拍数を下げ、血圧を安定させ、消化吸収を促進し、体を休息・回復モードに切り替えます。
この2つの神経がバランスよく働くことで、私たちの体は最適な状態を保つことができます。
しかし、現代社会ではストレスや不規則な生活習慣により、交感神経が優位になりがちな人が増えています。
これが、いわゆる「自律神経の乱れ」であり、様々な不調の原因となります。
鍼灸治療は自律神経のバランス調整作用
鍼灸治療は、交感神経と副交感神経のどちらか一方を刺激するのではなく、両者のバランスを調整し、乱れた自律神経機能を正常な状態に導くと考えるのが適切です。
「交感神経の過剰な緊張をゆるめ、副交感神経を優位にする」作用の具体的な例を挙げます。
・心拍数が落ち着く
・血圧が安定する
・呼吸が深くなる
・消化機能が改善する
・筋肉の緊張が緩和される
・睡眠の質が良くなる
つまり、リラックス状態を作り、身体の修復力や免疫力を高めるのが鍼灸の特徴です。
次に、もう少し詳しく、これらの結果が引き起こされる理由を説明します。
副交感神経への直接的な作用
鍼灸治療を受けた多くの方が「気持ちが落ち着いた」「リラックスできた」と感じるのは、副交感神経が優位になる作用が強く働いているためと考えられます。
鍼を刺入したり、お灸を施したりすることで、特定のツボが刺激されます。
これらのツボの中には、迷走神経(副交感神経の主要な神経)の活動を促進する効果が報告されているものもあります。
例えば、首や耳、手足の特定のツボへの刺激は、副交感神経を活性化させ、心拍数や血圧の低下、筋肉の弛緩などをもたらします。
また、ストレスや交感神経の緊張は、肩こりや首こりなど筋緊張を引き起こします。
鍼灸は、硬くなった筋肉に直接アプローチし、血流を改善することで筋緊張を緩和させます。
これにより、体全体の緊張が解け、副交感神経が働きやすい状態になります。
鍼刺激は、脳内でエンドルフィンやエンケファリンといった内因性オピオイドの分泌を促進すると考えられています。
これらの物質は、鎮痛作用だけでなく、リラックス効果や幸福感をもたらし、結果として副交感神経の活動を助けます。
交感神経の過剰な興奮の抑制
一方で、鍼灸は過剰に興奮した交感神経の活動を抑制する働きも持ちます。
慢性的な痛みは、交感神経を継続的に刺激し、体の緊張状態を維持させます。
鍼灸による疼痛緩和は、この痛み刺激を取り除くことで、結果的に交感神経の過剰な興奮を抑えることに繋がります。
鍼灸刺激は、脳の特定の領域、特に扁桃体(情動反応に関与)や視床下部(自律神経の中枢)に影響を与え、ストレス応答を調整すると考えられています。
これにより、ストレスに対する体の過剰な反応が抑制され、交感神経の興奮が和らぎます。
慢性的な炎症もまた、交感神経を刺激する要因となります。
鍼灸は、抗炎症作用を持つことが示唆されており、炎症を抑制することで、間接的に交感神経の過活動を鎮めます。
ホメオスタシス(恒常性)の維持
鍼灸治療の真髄は、特定の神経を刺激することに留まらず、体全体のホメオスタシス(恒常性)を維持する能力を高めることにあります。
つまり、体が本来持っている自己治癒力を引き出し、自律神経が自ら最適なバランスを見つけられるようにサポートするのです。
東洋医学では、「気」「血」「水」の巡りや「陰陽」のバランスを重視します。
鍼灸は、これらのバランスの乱れを調整することで、結果的に自律神経のバランスも整うと考えます。
例えば、気が滞っている状態(気滞)はストレスや緊張と関連し、交感神経が優位になりがちです。
鍼灸によって気の巡りを改善することで、自律神経も落ち着くというわけです。
鍼灸治療が効果を発揮しやすい自律神経症状
鍼灸治療は、以下のような自律神経症状に対して効果が期待できます。
■精神神経症状
不眠、めまい、耳鳴り、頭痛、不安感、イライラ、パニック発作など
■循環器症状
動悸、息切れ、立ちくらみ、手足の冷え、のぼせなど
■消化器症状
食欲不振、吐き気、便秘、下痢、胃もたれ、腹部膨満感など
■その他
肩こり、首こり、倦怠感、発汗異常、頻尿、口の渇きなど
これらの症状は、自律神経の乱れが根本にあることが少なくありません。
鍼灸治療は、これらの症状に対して対症療法的にアプローチするだけでなく、自律神経の根本的なバランスを整えることで、症状の改善と再発防止を目指します。
まとめ:鍼灸は自律神経の「調律師」
「鍼灸治療の自律神経系へのアプローチでは、交感・副交感のどちらにどう働いていると考えますか?」という問いに対しては、「特定の状況においては副交感神経を優位にさせ、リラックスを促す作用が強く現れる一方で、過剰な交感神経の興奮を抑制する作用も持ち合わせ、結果的に両者のバランスを整え、ホメオスタシスの維持に貢献する」と答えることができます。
例えるなら、鍼灸師は自律神経というオーケストラの「調律師」のような存在です。
音程がずれた楽器(交感神経や副交感神経の過不足)をひとつひとつ丁寧に調整し、全体として美しいハーモニー(心身の健康)を奏でられるようにサポートするのです。
自律神経の乱れによる不調でお悩みの方は、ぜひ一度、鍼灸治療を検討されてみてはいかがでしょうか。
個々の症状や体質に合わせたオーダーメイドの治療を通じて、本来の心身の調和を取り戻す手助けとなることでしょう。
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