サウナに向かない人がいる|東洋医学の視点
東洋医学的にサウナに向かない体質・向く体質
皆さんはサウナはお好きでしょうか?
近年、健康や美容、そして「ととのう」感覚を求めて、サウナは老若男女問わず大ブームですね。
しかし、鍼灸師として25年、延べ5万人以上の患者さんと向き合ってきた私の目から見ると、「すべての人にサウナが合うわけではない」というのが正直なところです。
とくに、疲れやすい人、貧血っぽい人、微熱やほてりがある人には不向きです。
今回は、東洋医学的にサウナに向かない体質と向く体質についてご説明します。
サウナの効果効能について
まず、サウナがもたらす一般的な効果効能について触れておきましょう。
■血行促進
高温環境により血管が拡張し、全身の血行が促進されます。これにより、酸素や栄養が体の隅々まで運ばれやすくなります。
■疲労回復
血行促進効果と温熱効果により、筋肉の緊張が和らぎ、疲労物質の排出が促されます。
■デトックス効果
発汗作用により、体内の老廃物や有害物質の排出が促されると言われています。
■リラックス効果
温熱刺激と水風呂によるクールダウン、そして静かな環境が自律神経に働きかけ、心身のリラックスを促します。
■睡眠の質の向上
深部体温が一時的に上昇し、その後下降することで、スムーズな入眠と深い睡眠を促す効果が期待できます。
■美肌効果
発汗により毛穴の汚れが排出され、血行促進により肌のターンオーバーが活性化すると言われています。
■ストレス軽減
高温環境での瞑想的な時間や、水風呂による刺激が、ストレスホルモンの分泌を抑制し、精神的な安定をもたらすことがあります。
以上からも分かる通り、サウナは「心身に溜まった”余計なもの”を出す」ことにメリットがあります。
サウナの「ととのう」とは何か?
サウナ愛好家が口にする「ととのう」という感覚。
これは一体どういう状態なのでしょうか?
一般的には、サウナと水風呂、そして休憩を繰り返すことで得られる、心身が極度にリラックスし、研ぎ澄まされたような感覚を指します。
この「ととのう」のメカニズムは、自律神経の働きと深く関わっています。
サウナで体を温めると、交感神経が優位になり、心拍数や血圧が上昇します。
その後、水風呂に入ると急激な温度変化により、さらに交感神経が強く刺激されます。
そして、休憩時間に移行すると、今度は副交感神経が優位になり、体が深くリラックスする状態に入ります。
この交感神経と副交感神経の急激なスイッチングが、脳内でベータエンドルフィンやオキシトシンといった快感物質の分泌を促し、「ととのう」という独特の多幸感や深いリラックス感、集中力の向上といった状態をもたらすと考えられています。
東洋医学的に人体にサウナが及ぼす影響
さて、ここからが私の専門分野である東洋医学の視点です。
東洋医学では、人間の体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランスを取りながら巡ることで健康が保たれていると考えます。
サウナはこれらの要素にどのように影響を与えるのでしょうか?
■「気」への影響
サウナの熱は「気」の巡りを活発にする効果があります。
とくに、停滞しがちな「気」を動かし、体を温めることで、全身のエネルギーの流れをスムーズにします。
しかし、過度な発汗は「気」を消耗させることにもつながります。
■「血」への影響
温熱効果により「血」の巡りが促進され、体の隅々まで栄養が行き渡りやすくなります。
冷えによる「血」の滞り(瘀血:おけつ)がある方には有効な場合があります。
一方で、もともと「血」が不足している方(血虚:けっきょ)にとっては、発汗による消耗がさらに「血」を失わせる可能性があります。
■「水」への影響
サウナは大量の発汗を促すため、「水」の排出に大きく関わります。
体内の余分な「水」を排出することで、むくみの改善や水の巡りを良くする効果が期待できます。
しかし、必要以上に「水」を失うと、水の不足につながり、様々な不調を引き起こす可能性があります。
サウナは強力な熱刺激を与えること、排出作用が強いことがあり、「各人の体質」によって影響が大きく異なります。
東洋医学的にサウナに向かない体質
経験上、特に以下のような体質の方には、サウナはあまりおすすめできません。
もしくは、注意が必要です。
■陰虚体質(いんきょたいしつ)
特徴:
体を潤す「陰液(いんえき)」や「津液」が不足している体質です。
乾燥肌、のどの渇き、空咳、ほてり、寝汗、微熱、便秘などが現れやすいです。
30代~50代の女性に多い、冷えとストレスが原因で現れる自律神経失調症や婦人科系疾患の方にも見受けられます。
サウナの影響:
サウナによる大量の発汗は、すでに不足している「陰液」をさらに消耗させます。
これにより、乾燥やほてりが悪化したり、のぼせ、動悸、めまい、不眠などの症状が強くなる可能性があります。
とくに、自律神経失調症でめまいや動悸が起こりやすい方は注意が必要です。
対策:
どうしてもサウナに入りたい場合は、短時間にし、水分補給をこまめに行い、水風呂も軽く済ませるなど、無理のない範囲に留めるべきです。
■気虚体質(ききょたいしつ)
特徴:
体のエネルギー源である「気」が不足している体質です。
疲れやすい、だるい、息切れ、声が小さい、食欲不振、風邪をひきやすいなどの症状が見られます。
サウナの影響:
発汗は「気」を消耗させると考えます。
サウナで大量に汗をかくことで、さらに「気」が失われ、疲労感が増したり、だるさ、倦怠感が強くなる可能性があります。
体力が落ちていると感じている方は特に注意が必要です。
対策:
サウナは避けるか、体調が良いときに短時間だけ利用し、無理はしないことが大切です。
温かいお茶などで「気」を補うことを意識しましょう。
■血虚体質(けっきょたいしつ)
特徴:
体を滋養する「血」が不足している体質です。
顔色が悪い、貧血気味、めまい、立ちくらみ、髪や肌の乾燥、爪がもろい、生理不順などが現れやすいです。
サウナの影響:
大量の発汗は「血」の材料である「水」を消耗させるため、「血」の不足をさらに悪化させる可能性があります。
これにより、めまいや動悸、立ちくらみがひどくなる、肌や髪の乾燥が進むなどの症状が悪化することが考えられます。
対策:
サウナは避ける方が賢明です。
日頃から「血」を補う食事(ほうれん草、レバー、黒い食べ物など)を心がけ、ゆっくりと体を温める半身浴や足湯などがおすすめです。
■気滞体質(きたいいたいしつ)
(※サウナが効果的な場合もあり)
特徴:
「気」の巡りが滞っている体質です。
イライラしやすい、憂鬱、ため息が多い、お腹が張る、生理前の不調(PMS)がひどいなどの症状が見られます。
ストレスを抱えやすい正社員やパート勤務の女性に多い体質です。
サウナの影響:
サウナは一時的に「気」の巡りを良くする効果が期待できますが、過度な熱刺激や水風呂による急激な温度変化は、かえって自律神経の乱れを助長し、「気」の滞りを悪化させる場合があります。
とくに精神的なストレスが強く、感情の起伏が激しい時には注意が必要です。
対策:
ストレス性の「気滞」が強い場合は、心身を穏やかにリラックスさせるアロマセラピーや軽い運動の方が適していることがあります。
サウナを利用する際は、水風呂は避け、休憩時間を十分にとるなど、体に負担をかけない工夫が必要です。
過度に感情的になっている時のサウナは控えめに。
東洋医学的にサウナに向く体質
では、逆にサウナが適していると考えられる体質はどのようなものでしょうか。
■湿痰体質(しったんたいしつ)
特徴:
体内に余分な「水」や「痰(たん:体内の病的な水分の停滞)」が溜まっている体質です。
むくみやすい、体が重だるい、食欲不振、下痢しやすい、ニキビができやすいなどの症状が見られます。
サウナの影響:
サウナによる大量の発汗は、体内の余分な「水」を排出し、水の巡りを改善するのに役立ちます。
これにより、むくみの軽減や体が軽くなる感覚を得られるでしょう。
対策:
サウナと水風呂でしっかりデトックスし、爽快感を得やすいタイプです。
■瘀血体質(おけつたいしつ)
特徴:
「血」の巡りが滞っている体質です。
生理痛がひどい、生理の塊がある、手足が冷えやすい、シミやクマができやすい、肩こりや頭痛が慢性的にあるなどの症状が見られます。
婦人科系疾患(子宮筋腫、子宮内膜症など)の方によく見られる体質です。
サウナの影響:
温熱効果により「血」の巡りが促進され、「瘀血」の改善に役立ちます。
体が温まることで、痛みの緩和や冷えの改善が期待できます。
対策:
体を温め、血行を促進するサウナは比較的適していると言えます。
ただし、生理中の過度な利用は避けましょう。
■陽虚体質(ようきょたいしつ)
特徴:
体を温める「陽気(ようき)」が不足している体質です。
冷え性、寒がり、手足が冷たい、元気がない、体がだるい、軟便や下痢をしやすいなどの症状が見られます。
サウナの影響:
体を温める効果は、不足している「陽気」を補い、冷えの改善に役立ちます。
対策:
サウナでしっかり体を温めることで、冷えの症状が和らぐことがあります。
ただし、急激な温度変化は避け、水風呂は控えめにするなど、無理のない範囲で利用しましょう。
どちらかと言えば短時間が良いです。
まとめ
サウナは多くの素晴らしい効果を持つ一方で、東洋医学的に見ると、その人の体質によっては逆効果になることもあります。
とくに、陰虚体質、気虚体質、血虚体質の方は、サウナの利用に慎重になるべきです。
これらの体質の方は、すでに体が乾燥していたり、エネルギーや血液が不足している状態にあるため、大量の発汗や急激な温度変化は、さらなる消耗を招き、体調を悪化させる可能性があるからです。
私の鍼灸院に来られる患者さんの中には、不妊治療中の方、婦人科系の症状でお悩みの方、自律神経失調症でめまいや動悸に悩む方、そして冷えとストレスを抱えている方が多くいらっしゃいます。
これらの症状の背景には、上で述べた「陰虚」「気虚」「血虚」といった体質が潜んでいることが少なくありません。
もしあなたが、
・普段から体が乾燥しやすい、のどが渇きやすい
・疲れやすく、だるさが抜けにくい
・貧血気味で、めまいや立ちくらみが起こりやすい
・冷えとストレスが強い
・婦人科系のトラブルを抱えている
…といったお悩みがあるようでしたら、サウナの利用は控えるか、鍼灸師などの専門家に相談して、ご自身の体質に合った健康法を見つけることを強くお勧めします。
サウナが体に良いと聞いても、ご自身の体質に合っているのか不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
もし、ご自身の体質や健康状態について詳しく知りたい、あるいは適切なケアについて相談したいという場合は、いつでもお気軽にお声がけください。
あなたの体が本当に求めている「ととのう」状態を、東洋医学の視点から一緒に探していきましょう。