夏至|鍼灸師が教える二十四節気の健康法
夏至の今できる健康法について
今回は、二十四節気の10番目の「夏至(げし)」について、東洋医学の観点から解説していきます。
一年の中で最も昼の時間が長く、夜が短い時期です。
太陽が最も高く昇るため、北半球では強い日差しが降り注ぎ、気温が上昇し始めます。
夏至は毎年6月21日頃に訪れ(2025年は6月21日です)、日本では梅雨の時期と重なることが多く、高温多湿の環境となります。
自然界では、万物が勢いよく成長する時期であり、私たちの体も活動的になります。
東洋医学では、陽の気が最も強まる時期とされます。
しかし、同時に暑さや湿気といった邪気の影響を受けやすくなるため、心身のバランスを崩しやすい時期でもあります。
東洋医学の知恵を借りて、夏至を健やかに過ごすためのヒントを、ぜひ日々の生活に取り入れてみてください。
夏至の頃に起こりうる心身の不調
夏至の頃は、自然界の陽気が最も盛んになるのに呼応して、私たちの体内でも陽気が盛んになります。
しかし、過剰な陽気は心身のバランスを乱し、様々な不調を引き起こす可能性があります。
また、高温多湿な気候は、東洋医学でいう「暑邪(しょじゃ)」や「湿邪(しつじゃ)」といった邪気が体に侵入しやすくなり、不調を招く要因となります。
身体の不調
■消化器系の不調(脾胃の失調)
暑さと湿気は、東洋医学で「脾(ひ)」と呼ばれる消化器系の働きを弱らせます。
食欲不振、胃もたれ、腹部の膨満感、下痢などが起こりやすくなります。
冷たいものの摂りすぎは、さらに脾胃を冷やし、機能を低下させる原因となります。
■倦怠感・疲労感(気虚・気滞)
暑さによる発汗過多は、体に必要なエネルギーである「気(き)」を消耗させ、倦怠感や疲労感を引き起こします。
また、湿気が多いと、気の巡りが滞り(気滞)、体が重く感じたり、だるさを感じたりすることがあります。
■頭痛・めまい(肝陽上亢・痰湿)
過剰な陽気は、東洋医学で「肝(かん)」の陽気が高ぶりすぎる(肝陽上亢)ことで、頭痛やめまいを引き起こすことがあります。
また、湿気が体内に停滞すると(痰湿)、頭が重く感じたり、めまいが起こることもあります。
■むくみ(水湿停滞)
湿邪の影響で、体内の水分の巡りが悪くなり(水湿停滞)、むくみやすくなります。
とくに、下半身にむくみを感じることが多いでしょう。
■皮膚トラブル(湿熱蘊積)
高温多湿な環境は、皮膚に湿気と熱がこもりやすい状態(湿熱蘊積)を作り出し、汗疹(あせも)や湿疹などの皮膚トラブルを引き起こしやすくなります。
■関節痛・神経痛(風湿痺痛)
湿邪は、関節や筋肉に侵入しやすく(風湿痺痛)、痛みや重だるさを引き起こすことがあります。
■食欲不振(脾胃虚弱)
暑さや湿気による脾胃の機能低下は、食欲不振を招きます。
栄養不足は、さらに体力を低下させる悪循環に陥ることがあります。
心の不調
■イライラ・焦燥感(心火亢盛)
東洋医学では、夏は「心(しん)」という精神活動を司る臓腑と深い関わりがあります。
過剰な陽気は、心の火を燃え上がらせ(心火亢盛)、イライラや焦燥感、落ち着きのなさなどを引き起こすことがあります。
■憂鬱感・無気力(気滞・痰湿)
湿邪が体内に停滞すると、気の巡りが悪くなり、気分が塞ぎ込んだり、やる気がなくなったりすることがあります。
■不眠(心神不寧)
心の火が過剰になると、精神が不安定になり(心神不寧)、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりすることがあります。
これらの不調は、東洋医学的な視点から見ると、体内の気・血・津液のバランスの乱れや、自然界の邪気の侵入によって引き起こされると考えられます。
東洋医学的な健康法
夏至の頃の心身の不調を避けるためには、東洋医学の考えに基づいた養生法を実践することが大切です。
食養生
■五味のバランスを意識する
東洋医学では、食べ物には五つの味(酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味)があり、それぞれ異なる働きを持つと考えます。
夏は、体内の余分な熱を冷ます苦味のある食材(ゴーヤ、緑茶、苦瓜など)を意識的に摂ると良いでしょう。
ただし、摂りすぎは脾胃を冷やすため、適量を心がけましょう。
■五臓の働きを助ける
夏は、五臓の「心(しん)」の働きが活発になる季節です。
心は血脈を主ると考えられているため、血を補う赤い色の食材(トマト、スイカ、クコの実など)や、心を落ち着かせる作用のある食材(ハスの実、百合根など)を適度に取り入れると良いでしょう。
■暑邪・湿邪を取り除く食材
夏に侵入しやすい暑邪や湿邪を取り除く食材を積極的に摂りましょう。
例えば、ハトムギは利水作用があり、体内の余分な水分を排出してくれます。
冬瓜やキュウリも体を冷やし、利尿作用があります。
■気を補う食材
暑さで消耗しやすい気を補うために、山芋、米、豆類などをバランス良く摂りましょう。
■消化に良いものを温かくして
脾胃の働きを助けるために、消化の良い食材を選び、できるだけ温かくして食べるようにしましょう。
冷たいものの摂りすぎは控えましょう。
生活習慣
■自然のリズムに合わせた生活
夏は日が長いため、夜更かしを避け、早寝早起きを心がけましょう。
日中の暑い時間帯は無理せず休息を取り、必要であれば昼寝を取り入れるのも良いでしょう。
■適度な運動で気血の巡りを促す
軽いウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすことは、気血の巡りを良くし、倦怠感を解消するのに役立ちます。
ただし、激しい運動は陽気を消耗させるため、控えめにしましょう。
■精神安定を心がける
東洋医学では、感情の過剰な動きは心身のバランスを崩すと考えます。
夏は特に、イライラしたり怒ったりすることを避け、穏やかな気持ちで過ごすように心がけましょう。
■衣類や住環境を整える
吸湿性や通気性の良い自然素材の衣類を選び、汗をかいたらこまめに着替えましょう。
室内の風通しを良くし、除湿などを活用して湿度を適切に保つことも大切です。
■湯浴みでリラックス
ぬるめのお風呂にゆっくりと浸かることは、血行を促進し、心身のリラックスにつながります。
その他
■薬膳茶を取り入れる
体の状態に合わせて、薬膳茶を取り入れるのも良いでしょう。
例えば、ハトムギ茶は利水効果があり、むくみ対策に役立ちます。ドクダミ茶は解毒作用があり、皮膚トラブルの改善に期待できます。
■アロマテラピーを活用する
ペパーミントやレモンなどの清涼感のある香りは、気分をリフレッシュさせ、暑さによる不快感を和らげてくれます。
ラベンダーやカモミールなどのリラックス効果のある香りは、精神的な安定に役立ちます。
■按摩やマッサージなどの手技療法
専門家による按摩やマッサージなどの手技療法を受けることで、気血の巡りを整え、体のこわばりや痛みを和らげることができます。
これらの東洋医学的な養生法を実践することで、夏至の頃に起こりやすい心身の不調を予防し、バランスの取れた健やかな状態を保つことができるでしょう。
夏至の頃の不調に効果的なツボ
上記の東洋医学的な健康法に加えて、特定のツボ(経穴)を刺激することで、さらに効果的に不調を改善することができます。
労宮(ろうきゅう)
手を軽くにぎり指を折り曲げた時、中指の先が手のひらにあたるところが労宮です。
夏至の時期に起こりやすいイライラや焦燥感、不眠などの精神的な不調に効果的です。
手のひらをマッサージするように刺激すると良いでしょう。
合谷(ごうこく)
手の甲で親指と人さし指の間。
全身の気の巡りを良くする効果があり、頭痛や肩こり、便秘など、様々な不調に用いられます。
夏至の時期に起こりやすい頭痛や、消化器系の不調にも効果が期待できます。
足三里(あしさんり)
膝のお皿のすぐ下、外側のくぼみに人差し指を置き、指幅4本揃えて小指が当たっているところにあります。
消化機能の改善や、全身の倦怠感の緩和にも役立ちます。
夏至の時期に起こりやすい食欲不振や胃もたれ、全身の倦怠感の改善に役立ちます。
これらのツボは、指で優しく押したり、セルフお灸で温めたりすることで刺激できます。
ご自身の体調に合わせて、ぜひ試してみてください。
夏至の時期は、暑さと湿気が重なるため、体調管理が重要になります。
日々の生活習慣を見直し、適切な養生を行うことで、快適に過ごせるようにしましょう。
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