自律神経の乱れには漢方か鍼灸か?
「自律神経失調症」には漢方薬か鍼灸か?
日々の生活の中で、頭痛やめまい、動悸や倦怠感、不眠…自律神経が乱れると、心と体のバランスが崩れ、どこに原因があるのか分からないまま苦しむことも多いでしょう。
病院で「異常なし」と言われても、あなたが感じているつらさは確かに存在します。
どうか「気のせい」だなんて思わないでください。
東洋医学では、自律神経の乱れは「気・血・水」の不調和と捉えます。
ストレスや疲れが積み重なると、体の調和が崩れ、不調が現れるのです。
鍼灸治療では、ツボを刺激することで気血の流れを整え、症状を緩和することができます。
漢方薬は、体質や症状に合わせて処方することで、体質改善を目指します。
西洋医学に加えて、漢方や鍼灸を取り入れることで、より効果的に症状を改善できます。
では、自律神経失調症で悩まれるあなたに、漢方か鍼灸か?の「結論」です。
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です。
それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを以下に解説していきますね。
鍼灸や漢方で体は少しずつ整っていきます。
あなたの不調が和らぎ、穏やかな日々が戻ることを心から願っています。
東洋医学から見た「自律神経失調症」
自律神経失調症は、さまざまな不調を引き起こすものの、検査では異常が見つかりにくい疾患です。
自律神経は、呼吸や消化、体温調節など、生命維持に必要な機能を無意識のうちにコントロールする神経です。
自律神経失調症は、この自律神経のバランスが乱れ、様々な症状を引き起こす状態を指します。
西洋医学では、ストレスや生活習慣の乱れなどが原因と考えられています
東洋医学では、この状態を「気・血・水(き・けつ・すい)」の乱れと捉え、体質ごとにその原因を考えます。
気:生命エネルギー。
血:全身を栄養する体液。
水:体内の水分。
これらの要素がバランスを保ち、スムーズに巡ることで、心身ともに健康な状態を維持できます。
しかし、ストレスや不規則な生活、体質などにより、これらの要素のバランスが崩れると、自律神経が乱れ、様々な症状が現れます。
ここでは、代表的な4つの体質に分けて説明します。
気虚(ききょ)タイプ:エネルギー不足による不調
「気」は生命エネルギーのようなもので、これが不足すると、全身の機能が低下しやすくなります。
気虚の人は、もともと体力がなく疲れやすい傾向があります。
特徴:
すぐに疲れる、無気力
めまいやふらつきが起こりやすい
風邪をひきやすい、胃腸が弱い
動悸や息切れがある
東洋医学的な考え方:
気の不足により、自律神経が適切に働かなくなり、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。
とくに、日常のストレスや過労が続くと、エネルギーが消耗され、さらに不調が悪化しやすくなります。
気滞(きたい)タイプ:ストレスによる滞り
「気滞」は、気の流れが滞っている状態を指します。
ストレスやプレッシャーを受けると、気の流れが悪くなり、自律神経の不調を引き起こします。
特徴:
イライラしやすく、不安感が強い
のどに詰まりを感じる(梅核気)
お腹が張りやすく、げっぷやガスが多い
頭痛や肩こりが起こりやすい
東洋医学的な考え方:
ストレスを感じると「肝(かん)」の働きが乱れます。
肝は気の流れを調節する役割を持ちますが、ストレスが続くとその機能が低下し、気が滞ってしまうのです。
このため、気分が落ち込んだり、のどの詰まりや胃腸の不調が起こります。
血虚(けっきょ)タイプ:血の不足による不調
「血虚」は、血が足りない状態を指し、栄養や酸素の供給が不足することで、自律神経の働きが不安定になります。
特徴:
不眠、夢をよく見る
立ちくらみ、めまい
肌や髪が乾燥しやすい
動悸や冷えを感じる
東洋医学的な考え方:
血は「心(しん)」と関係が深く、血が不足すると心の安定が保てず、不眠や不安感が強くなります。
また、脳への血流が不足することでめまいや立ちくらみが起こることもあります。
女性の場合は、生理不順や経血量の減少もみられます。
水滞(すいたい)タイプ:体内の水の巡りが悪い
「水滞」は、体内の水分代謝がうまくいかず、余分な水が溜まる状態を指します。
これにより、頭が重くなったり、むくみやめまいが生じます。
特徴:
めまい、耳鳴りが起こりやすい
朝起きるのがつらく、だるい
むくみやすい
胃腸の調子が悪く、食欲がない
東洋医学的な考え方:
体内の水分は「脾(ひ)」と「腎(じん)」が管理しています。
脾の働きが弱まると、水分をうまく循環させられず、余分な水が体内に溜まりやすくなります。
その結果、めまいや倦怠感、むくみが生じます。また、腎が関わる耳鳴りや難聴などの症状が出ることもあります。
まとめ
自律神経失調症は、体質によって原因が異なります。
気虚タイプ:エネルギー不足による不調
気滞タイプ:ストレスによる滞り
血虚タイプ:血の不足による不調
水滞タイプ:体内の水の巡りが悪い
このように、東洋医学では「なぜ不調が起こるのか」を体質ごとに考えます。
自分の体質を知ることで、根本的な改善の道が見えてくるでしょう。
自律神経失調症に効果的な漢方薬
自律神経失調症の改善には、体質に合った漢方薬を選ぶことが重要です。
ここでは、先ほどの4つの体質別に適した漢方薬と、その理由を解説します。
気虚(ききょ)タイプ:エネルギー不足による不調
おすすめの漢方薬:
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
理由:
気虚タイプはエネルギー不足により、疲れやすさ・倦怠感・息切れ・胃腸の弱さなどが現れます。
補中益気湯は、「気を補い(補気)、体を元気にする(益気)」作用があり、慢性的な疲労や体力低下を改善します。
また、胃腸の働きを助け、食事からのエネルギー吸収を高めることで、体力回復を促します。
その他の候補:
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):気と血を同時に補う。体力低下が著しい人向け。
人参養栄湯(にんじんようえいとう):消耗が激しく、動悸や息切れがある場合に適応。
気滞(きたい)タイプ:ストレスによる滞り
おすすめの漢方薬:
加味逍遙散(かみしょうようさん)
理由:
ストレスが多く、イライラしやすく、不安感が強い気滞タイプには、気の流れを整えることが重要です。
加味逍遙散は、「肝(かん)」の働きを調整し、ストレスによる気の滞りを解消する作用があります。
とくに、精神的な負担が多い女性の不調(イライラ・不眠・月経不順など)にも効果的です。
その他の候補:
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):緊張が強く、不安や動悸がある場合に適応。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):喉の詰まり(梅核気)がある場合に有効。
血虚(けっきょ)タイプ:血の不足による不調
おすすめの漢方薬:
四物湯(しもつとう)
理由:
血虚タイプは、血が不足することで不眠・立ちくらみ・冷え・肌や髪の乾燥が目立ちます。
四物湯は、血を補い(補血)、血の巡りを良くする作用があり、慢性的な血虚による症状を改善します。
とくに、女性の月経不順や貧血気味の方に適しています。
その他の候補:
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):冷えやむくみを伴う場合に適応。
温経湯(うんけいとう):血の巡りが悪く、冷えや月経不順がある場合に適応。
水滞(すいたい)タイプ:体内の水の巡りが悪い
おすすめの漢方薬:
五苓散(ごれいさん)
理由:
水滞タイプは、体内の水分代謝が悪く、めまい・耳鳴り・むくみ・だるさが現れます。
五苓散は、体内の余分な水分を排出し、水分バランスを調整する作用があります。
とくに、天気の変化で体調を崩しやすい人や、むくみが強い人に適しています。
その他の候補:
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):めまいや立ちくらみがひどい場合に適応。
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):めまいやふらつきを伴う人向け。
上記の漢方薬は、あくまで一般的な例です。
体質や症状は人それぞれ異なるため、専門家(医師や薬剤師)に相談し、適切な漢方薬を選んでもらうことが重要です。
漢方薬は、体質に合わせて選ぶことが大切です。
同じ「自律神経失調症」でも、人によって原因が異なるため、自分に合ったものを見つけることで、より効果的な改善が期待できます。
自律神経失調症に効果的なツボ
自律神経失調症の改善には、体質ごとに適したツボを刺激することが効果的です。ここでは、4つの体質に分けて、それぞれに適したツボを2つずつ紹介し、その理由を説明します。
気虚(ききょ)タイプ:エネルギー不足による不調
気海(きかい)
場所:おへそから指2本分下
理由:気の源である「元気(げんき)」を補うツボ。気海を刺激すると、全身のエネルギーが補われ、倦怠感や疲労感が軽減される。特に、体力が落ちやすい人におすすめ。
足三里(あしさんり)
場所:膝の下、脛の外側のくぼみ
理由:気を補い、胃腸の働きを整えるツボ。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)と同じように、エネルギー不足を改善し、体力を回復させる。疲れやすい人や、食欲が低下している人にも有効。
気滞(きたい)タイプ:ストレスによる滞り
太衝(たいしょう)
場所:足の甲、親指と人差し指の骨の間のくぼみ
理由:「肝(かん)」の気を巡らせるツボ。ストレスが原因で気が滞ると、自律神経が乱れやすくなる。太衝を刺激すると、イライラや不安感が和らぎ、気分が落ち着く。
内関(ないかん)
場所:手首の内側、手首のしわから指3本分下
理由:自律神経のバランスを整え、気持ちを安定させるツボ。ストレスによる不安・動悸・胃の不調などを改善する働きがある。乗り物酔いのツボとしても有名。
血虚(けっきょ)タイプ:血の不足による不調
三陰交(さんいんこう)
場所:内くるぶしの上、指4本分の高さ
理由:「血を補う」代表的なツボ。血虚による冷え、貧血、不眠、月経不順などを改善する。特に女性にとって重要なツボで、血の巡りを良くし、全身の栄養状態を改善する。
神門(しんもん)
場所:手首の小指側のくぼみ
理由:血虚による不眠や不安感を和らげるツボ。夢をよく見る、眠りが浅いなどの症状がある人におすすめ。リラックス効果が高く、精神的な安定をもたらす。
水滞(すいたい)タイプ:体内の水の巡りが悪い
陰陵泉(いんりょうせん)
場所:膝の内側、脛の骨の内側のくぼみ
理由:体内の余分な水分を排出し、むくみやだるさを改善するツボ。水滞によるめまいや頭の重さを軽減する効果がある。
耳門(じもん)
場所:耳の前、口を開けたときにできるくぼみ
理由:水滞による耳鳴りやめまいに効果的なツボ。特に、天候の変化で症状が悪化する人におすすめ。耳の周囲を軽くマッサージするだけでも症状が和らぐ。
以上、上記のツボは、あくまで一般的な例です。
漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…
「自律神経失調症」でお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。
もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか。
漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。
漢方薬は費用負担が少ない可能性
漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。
ただし、東洋医学的な見立てからの処方ではないのがネックですが…。
他にどんな悩みがあるか?で決める
「自律神経失調症」は様々な原因が考えられます。
漢方薬は内臓系が得意ですので、貧血や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。
通院の負担と服用の負担から考える
たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。
どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう。
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。
まとめ
最初の結論にもう一度書きます。
「漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。
漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。
1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。
2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。
3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。
4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「自律神経失調症」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。
5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。
以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。
ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。
ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。
『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』
また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。