お灸の最前線

『医道の日本』お灸特集

『医道の日本』

鍼灸師にはおなじみの業界誌『医道の日本』。
今月の特集は「お灸」ということで、同誌に時々出るスマッシュヒットだった気がします。
(※あくまで一個人の見解です)

雑誌の特集にありがちな「トピックを紹介するだけで深めることはできない」のは仕方ないことではあります。
…が、切り口がよくある「施術法としてのお灸」ネタだけでなく、「もぐさ(艾)」と「国際的な動き」と「お灸の効能(科学化)」を取り上げていて勉強になりました。

もぐさの製造方法

もぐさ
日中韓でもぐさの製造方法が異なるのは、あまり業界的には知られていない印象でしたので、その辺に軽くでも触れられていたのは良かったです。
いやしかし、ヨモギやモグサの寝かす時間でお灸のクオリティが変わるのかね!?
…と書くと「違いの分からない人」の発言になってしましますが、実際のところどうなんでしょう。
おそらくこの辺の研究は「ない」のではと思います。

仮に製造方法によって何かしらの違いがあるとしても、施術を形成する「大枠」(見立て・選穴・取穴・鍼かお灸かの選定・それをどう使うか…等々)の中ではほんの小さなパーツに過ぎないとは感じます。
モグサの違いに神経質になるより、もっとしなきゃイカンことが多々あろうというのが平凡鍼灸師である私自身のスタンスです。

ただ今回、日本式製造方法では「モグサになる頃にはシネオールがなくなってる」という話にはちょっと笑えました。
シネオールと言うのはチネオールと同じでしょうが、鍼灸学校で習う教科書にも『(モグサには)揮発性の精油が含まれており、精油の成分はチネオールで、燃焼によりモグサ独特の芳香を発する』って書いてあるのに…「不都合な真実」出ちゃったな、と(笑)
こういうのはドンドン研究してもらって、色々と真相を開示して欲しいです。

今回は触れられませんでしたが、煙の問題は知りたい。
お灸の煙は、どの程度の限度で安全性が確保されるのか。
何をどのくらいどういう環境で使うかなど想定される変数が複雑ですが、誰か頑張って研究してほしいです。
この辺も業界のブラックボックスな印象です。
特集記事でも煙の安全性(危険性?)の話が出ることを期待して読んでいましたが、惜しいところまで行って無煙灸の話にスライドしてしまいましたね(残念)。

お灸の科学化

お灸のEBM

製品としてのモグサは、今後、国際的にグローバルスタンダード争いが醜くも必然的に激しくなるだろうことが示唆されています。
政治がらみの臭いもしつつイヤな話です。
治療の世界に政治が入るのは異物感が半端ないですが、それでもそれが現実ですから、これまた平凡な一鍼灸師である自分としては進行状況をウォッチし続けたいテーマではあります。
(※なにもできませんが…。)

現代科学的なお灸の効能研究は、はっきり言うと「危機感」しかない。
お灸は世界的には無視されている感が強いです。
日本ではワンセットで「鍼灸治療」ですが、海外ではあくまで「鍼治療(Acupuncture Treatment)」。
「だってお灸は熱いし痕になるじゃん」ということらしい。
なので、使われない→研究されない→効能が分からない→使われない、という負のスパイラル状態。

お灸好きな私としては、お灸の気持ち良さや効果を日々実感しているのですが、たしかに科学的な証拠は少ないですね。
逆子のお灸は実際よく効きますし、これくらいですかね、わりと研究が進んでいるのは。
棒灸とか台座灸とか、痕にならないやつで研究が進むことを期待します。

まとめ

今回の特集には、「家伝の灸」的なものの紹介もあり、これはこれでとても興味深く拝見しました。
痔核に直接灸をすえる話とか、妙に興奮いたしました(^^;)
特殊な施術法は物珍しさがあり、たしかに面白いのですが、それ以上にありきたりの「普通の施術」のエビデンスや、「普通に使う道具」の最新知見、のほうがよほど興味深いのは事実です。
『医道の日本』の今回の号はそこまで踏み込んだ感がありスマッシュヒットだったかな、と(あくまで個人的には)感じました。

研究例の少なさなどを鑑みるに、世界レベルではお灸は廃れていくかもしれない、といううっすらとした危機感も感じました。
(※“保健艾灸師”のような生き残り方も考えられますが…)
…とは言え、あまり大きな話(天下国家を論じるような)をしても仕方ないので、日本でお灸が求められている限り、地道に地域密着で、お灸の良さを実践していきたいと思う次第です。
お灸の良さを提案し続けることですね。

さて、自分の足に健康増進のお灸でもすえますかね(^^)/