30代の不妊、不妊ストレスが強い鍼灸症例

30代の不妊、不妊ストレスへの鍼灸治療

婦人科症例9:一人目不妊

不妊に悩むご夫婦は増加傾向にあります。
不妊治療は身体的な負担はもちろんのこと、精神的なストレスも大きく、心身ともに疲弊してしまう方も少なくありません。

当院では、西洋医学的な不妊治療と並行し、東洋医学の観点から鍼灸治療を行うことで、患者様の心身のバランスを整え、妊娠しやすい体づくりをサポートしております。

今回は、30代女性の不妊と強いストレスに対し、鍼灸治療と体外受精の併用によって妊娠に至った症例をご紹介いたします

この記事を通して、不妊でお悩みの方々、とく不妊ストレスを抱えている方々に、鍼灸治療の可能性をご理解いただければ幸いです。

患者さまについて

年齢・性別:
30代女性。

鍼灸院に来るまでの経緯:
5年前から妊活を開始されましたが、自然妊娠に至りませんでした。

そこで9ヶ月前に不妊治療専門の病院を受診されました。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値が高いと診断され、内服薬の処方を受けながら、人工授精(AIH)を4回試みましたが、結果は得られませんでした。

その後もAIHの継続を希望されながらも、同時に鍼灸での体質改善を目的として当院を受診されました。

不妊のお悩み以外には、強い不妊ストレス・冷えのぼせ・疲れ・肩こり・めまい・アトピー性皮膚炎などを持っています。

これらの症状は、不妊による精神的なストレスが身体に影響を及ぼしている可能性を示唆していました。
とくに「不妊ストレス」は、患者様の心身に大きな負担を与えていることが伺えました。

東洋医学的考察

東洋医学では、心と体は密接に繋がり、互いに影響し合っていると考えます。
この患者様の場合、強い不妊ストレスによって自律神経系のバランスが乱れ、それが様々な身体症状として現れていると捉えました。

具体的には、「気」の滞り(気の流れが滞っている状態)と巡りの悪さ(気の流れがスムーズでない状態)が見られました。

「気」は、身体を構成し、生命活動を維持するエネルギーであり、その流れが滞ると様々な不調を引き起こします。
また、気の量の不足(気虚)も認められ、身体のエネルギー不足が疲労感や冷えに繋がっていると考えられました。

冷えのぼせは、自律神経の乱れによって、上半身に熱がこもり、下半身が冷える状態です。
しかし、この患者様の場合は、冷えよりも熱化する傾向が強いため、温灸などの温める治療は控えめにし、足先など部分的に温める方法を選択する必要がありました。

治療方針

上記の東洋医学的考察に基づき、以下の治療方針を立てました。

気の滞りを解消し、巡りを改善する。
不足している気を補う。
自律神経のバランスを整える。
冷えのぼせを改善する。
精神的なストレスを緩和する。

これらの治療方針に基づき、鍼灸治療を行うことで、患者様の心身のバランスを整え、自然な妊娠力を高めることを目指しました。
また、西洋医学的な不妊治療(AIH、体外受精)との併用により、より高い効果を期待しました。

治療経過

1回目:
仰向けで、「中脘」「関元」「左天枢」にお灸をしました。「合谷」「曲池」「陰陵泉」「太衝」「太谿」に置鍼をしました。
うつ伏せで、「天柱」「心兪」「肝兪」「腎兪」に鍼とお灸を行いました。

その後、週に1回のペースで治療を継続しました。

治療の過程で、肩こりやめまいなどが悪化する時期もありましたが、その都度、治療内容を調整し、患者様の状態に合わせた施術を行いました。

とくに、生理が来るたびに精神的な落ち込みが強いため、精神安定に効果のある耳つぼ治療(特に安心穴を多用)を併用しました。

AIHを計6回行いましたが結果が出なかったため、鍼灸治療開始から3ヶ月後の周期で、体外受精(IVF)にステップアップすることになりました。

初めての採卵で8個の胚盤胞を凍結することができ、その後、移植周期に入りました。

移植周期に入る頃には、肩こりや疲れはあるものの、以前のような身体の不調はほとんど訴えなくなりました。

足の冷えに対しては、ホットパックなどで温めるようにしましたが、熱くなりすぎないように配慮しました。
腹部には虚を補う目的でしっかりとお灸を行いました。

鍼灸18回目の施術の際に、病院の判定日に「陽性反応」が出たことを患者様から伺いました。

その後も妊娠初期の安定期に入るまで、2週間に1回のペースで鍼灸治療を継続しました。
つわりが若干ありましたが、重症化することなく経過し、21回目の施術を終えた時点で妊娠10週目を迎え、その後も妊娠経過は順調です。

使用した主なツボとその代表的な効果

中脘(ちゅうかん):
胃の不調を整え、消化吸収機能を高める。気の巡りを改善。

関元(かんげん):
生殖器系の機能を高め、冷えを改善。

天枢(てんすう):
大腸の働きを整え、便秘や下痢を改善。気の巡りを改善。

合谷(ごうこく):
全身の気の巡りを改善し、痛みを緩和。

曲池(きょくち):
皮膚疾患やアレルギー症状を緩和。

陰陵泉(いんりょうせん):
水分の代謝を改善し、むくみを解消。

太衝(たいしょう):
肝の機能を整え、精神的なストレスを緩和。

太谿(たいけい):
腎の機能を高め、生命力を強化。

天柱(てんちゅう):
首や肩のこりを緩和。

心兪(しんゆ):
心の安定を促し、精神的なストレスを緩和。

肝兪(かんゆ):
肝の機能を整え、気の巡りを改善。

腎兪(じんゆ):
腎の機能を高め、生命力を強化。

これらのツボを組み合わせることで、患者様の症状に合わせた効果的な治療を行いました。

まとめ

この患者様は、物静かな性格で、ストレスを内に溜め込むタイプであったため、表面上はストレスの程度を把握しにくい部分がありました。
しかし、めまいや肩こりなどの身体症状を通して、強いストレスを抱えていることが分かりました。

鍼灸治療によって、身体のコリを和らげ、気を補うことで、精神的にも穏やかに過ごせるようにサポートしました。

また、体外受精にステップアップすることには抵抗があった患者様でしたが、当院での治療を通して体調が整ったことで、体外受精へのステップアップを決意され、初回の採卵で8個の胚盤胞を獲得し、1回の移植で妊娠に至りました。

このケースは、鍼灸治療で体調を整えつつ、西洋医学で最も効果の高い治療法である体外受精を選択したことが奏功したと言えます

何を選択することが最もストレスを軽減するのかは、患者様それぞれによって異なります。

「正解のない問い」ではありますが、ストレスが強い方にとっては、早い段階で最も可能性の高い治療に挑戦し、ストレスを最小限に抑えることを最優先に考えることも一つの選択肢となるでしょう。

当院では、患者様一人ひとりの心身の状態に寄り添い、東洋医学と西洋医学の知識を融合させた最適な治療を提供しています。
不妊でお悩みの方、特に心身の不調を抱えている方は、ぜひ一度当院にご相談ください。

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