生理痛には漢方か鍼灸か?

「生理痛」には漢方薬と鍼灸どちらを選ぶ?

生理痛の漢方と鍼灸・写真1
つらい生理痛、本当に大変ですね。
長年、婦人科系に力を入れる鍼灸師として多くの女性の体と心に向き合ってきましたが、生理痛ほど個人差が大きく、苦しみの度合いを他人に理解してもらいにくいものはないと感じています。

毎月、数日間、日常生活に支障が出るほどの痛みや不快感に耐えているのは、本当に辛いことでしょう。

西洋医学では鎮痛剤などが用いられますが、
東洋医学では、生理痛は「血の巡りの滞り」や、「気の不足」、または体の「冷え」などが原因と考えます。

「痛いのは当たり前」と思わずに、ぜひ一度、東洋医学も試してみてください。
漢方薬や鍼灸で症状を和らげることができます。
一人で悩まず、私たちを頼ってください。

最後に、温かい飲み物を飲んだり、ゆっくり湯船に浸かったり、腹部を温めたりするだけでも、症状が楽になることがあります。
無理せず、心身を休める時間も大切にしてください。あなたは決して一人ではありません。応援しています。

生理痛で悩まれるあなたに、最初に「結論」です
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です

それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。

生理痛と東洋医学

生理痛の漢方と鍼灸・写真2

東洋医学では、生理痛は単に子宮の収縮だけでなく、全身の気・血・水のバランスの乱れが関与すると考えます。
体質別に原因を掘り下げてご説明することで、患者さんご自身の状態をより深く理解していただければと思います。

東洋医学では、生理痛をその原因は大きく「不通則痛(ふつうそくつう)」と「不栄則痛(ふえいそくつう)」の二つに集約されると考えます。

不通則痛(ふつうそくつう)とは、気・血の流れが滞り、スムーズに巡らなくなることで起こる痛み。
不栄則痛(ふえいそくつう)とは、気・血の不足により、子宮や経絡を十分に栄養できずに起こる痛み。

これらを踏まえ、体質別に生理痛の原因を解説します。

気滞血瘀(きたいけつお)タイプ

精神的ストレスによって「気」の流れが滞り(=気滞)、それによって「血」の流れも滞る(=血瘀)状態です。
気の流れが滞ると、とくに東洋医学の内臓系のひとつ「肝」の働きが低下し、イライラや情緒不安定などの精神症状が現れやすくなります。
また、気の滞りは血の流れを阻害し、瘀血を生み出し、生理痛を引き起こします。
ストレスを抱えやすく、イライラしたり、憂鬱になったりしやすい。
生理前になると胸が張ったり、腹部が張ったりする、経血は暗い色で、血塊が混じることがあるタイプです。

寒湿(かんしつ)タイプ

体内に「冷え」や余分な「水分の停滞(=湿)」がある状態です。
それが子宮や経絡に停滞して気血の流れが滞り、生理痛となります。
冷えは凝縮させる性質を持つため、血の流れを滞らせ、痛みを生じさせます。
また、湿気は重く停滞しやすい性質を持つため、気血の流れをさらに阻害します。
冷え性で、手足が冷たい、生理痛は下腹部を冷やすと悪化する、経血は少なく、色が暗いことが多いタイプです。

血虚(けっきょ)タイプ

体内の「血」が不足している状態です。
血は子宮や経絡を栄養する役割を担っていますが、血が不足すると子宮が十分に栄養されず、痛みが生じます。
また、血の不足は全身の栄養不足につながり、めまいや立ちくらみ、疲労感などの症状を伴います。
顔色が青白く、めまいや立ちくらみを起こしやすい、生理後になると疲れやすく、経血は薄く量が少ないことが多いです。

腎虚(じんきょ)タイプ

内臓系のひとつである「腎」は成長、発育、生殖を司る臓腑です。
その「腎の機能が低下する(=腎虚)」状態です。
腎虚では、生殖機能やホルモンバランスが乱れ、生理不順や生理痛を引き起こします。
とくに、腎陽(腎の陽気)が不足すると、体を温める力が弱まり、冷えによる痛みを引き起こしやすくなります。
腰や膝がだるく、足腰が冷える、頻尿や尿漏れの傾向がある、生理痛は重だるい痛みで、生理が終わると楽になることが多いです。

以上、
これらタイプは単独で現れるだけでなく、複合的に現れることもあります。

東洋医学では、これらの原因を総合的に判断し、体質に合わせた養生法や治療法を選択することで、生理痛の根本的な改善を目指します。

生理痛に効く漢方薬の代表例

生理痛の漢方と鍼灸・写真3
生理痛で悩む人に対して体質別に効果が期待できる漢方薬を挙げ、その理由を説明します。
ただし、漢方薬は実際の体質や症状に合わせて処方されるべきものですので、参考程度に留め、必ず専門家に相談してください。

気滞血瘀(きたいけつお)タイプ

おすすめの漢方薬:加味逍遙散(かみしょうようさん)

気の巡りを良くし、精神的なイライラや不安を和らげる効果があります。
また、血の巡りも改善するため、生理痛だけでなく、PMS(月経前症候群)の症状にも効果が期待できます。

おすすめの漢方薬:桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血の巡りを改善し、瘀血(おけつ)を改善する効果があります。
下腹部の痛みや重だるさ、経血の塊などに効果が期待できます。

寒湿(かんしつ)タイプ

おすすめの漢方薬:当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

血行を促進し、体を温める効果があります。
冷えによる生理痛や、むくみ、めまいなどにも効果が期待できます。

おすすめの漢方薬:呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

体を温める作用が強く、冷えによる痛みに効果を発揮します。
とくに、下腹部の冷えが強く、吐き気を伴うような場合に適しています。

血虚(けっきょ)タイプ

おすすめの漢方薬:当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

血を補い、血行を促進する効果があります。血虚による生理痛だけでなく、貧血気味の方にも適しています。

おすすめの漢方薬:芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)

出血を伴う生理痛に適しています。出血が多く、貧血傾向がある場合に用いられます。

腎虚(じんきょ)タイプ

おすすめの漢方薬:八味地黄丸(はちみじおうがん)

体を温める作用があり、特に腎陽(腎の陽気)不足による冷えや腰痛に効果を発揮します。

以上、
あくまで一般的な例であり、個々の体質や症状によって最適な漢方薬は異なります。

また、「生理痛にはこの薬」のような病名からの処方ではなく、「その人の体質・状態にはこの薬」という体質からの処方が勧められます
ですので、同じ病名に悩む人にも異なる漢方薬が出ることも少なくありません。
こういう治療の組み立てをするのが東洋医学です。

生理痛に効く鍼灸のツボ

生理痛の漢方と鍼灸・写真4
鍼灸も漢方薬と同じく東洋医学の一角ですので、考え方は同様です。
その人の体質・状態から適したツボを選択していきます。

生理痛でお悩みの方向けに、体質別に効果が期待できるツボ(経穴)を解説します。

気滞血瘀(きたいけつお)タイプ

特徴:ストレスを抱えやすく、イライラしたり、憂鬱になったりしやすい。生理前になると胸が張ったり、腹部が張ったりする。経血は暗い色で、血塊が混じることがある。

おすすめのツボ:太衝(たいしょう)

気の巡りをスムーズにする効果があります。
ストレスによる気の滞りを解消し、イライラや情緒不安定を和らげます。

おすすめのツボ:血海(けっかい)

血の巡りを改善する効果があり、瘀血(おけつ)による痛みを和らげます。

寒湿(かんしつ)タイプ

特徴: 冷え性で、手足が冷たい。生理痛は下腹部を冷やすと悪化する。経血は少なく、色が暗い。

おすすめのツボ:関元(かんげん)

下腹部を温め、気を補う効果があります。冷えによる痛みを和らげ、生理不順にも効果が期待できます。

おすすめのツボ:・命門(めいもん)

命門は、体の陽気を補い、全身の冷えを改善するツボです。

血虚(けっきょ)タイプ

特徴: 顔色が青白く、めまいや立ちくらみを起こしやすい。生理後になると疲れやすい。経血は薄く、量が少ない。

おすすめのツボ:足三里(あしさんり)

胃腸の働きを整え、気を補う効果があります。血を作るためには栄養をしっかりと吸収することが大切なので、足三里を刺激することで血の生成を助けます。

おすすめのツボ:三陰交(さんいんこう)

肝・脾・腎の経絡が交わる場所であり、血を補い、血行を促進する効果があります。
血虚による生理痛だけでなく、冷え性やむくみにも効果が期待できます。

腎虚(じんきょ)タイプ

特徴: 腰や膝がだるく、足腰が冷える。頻尿や尿漏れの傾向がある。生理痛は重だるい痛みで、生理が終わると楽になる。

おすすめのツボ:腎兪(じんゆ)

腎の機能を高め、腰や足腰の冷えを改善する効果があります。
腎虚による腰痛や生理痛に効果的です。

おすすめのツボ:太谿(たいけい)

腎経の原穴であり、腎の機能を高める効果があります。腎虚による冷えや足腰のだるさに効果が期待できます。

以上、
「生理痛に良いツボ」も全身のあちこちにあります。
それは「婦人科系=下腹部や腰のみ」という考えでなく「体質の異常=全身の問題」と捉えるためで、それを改善するツボは全身にあります

漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…

生理痛でお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。

もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか

漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。

漢方薬は費用負担が少ない可能性

漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。

他にどんな悩みがあるか?で決める

「生理痛」は様々な原因が考えられますし、「生理痛」のみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。

漢方薬は内臓系が得意ですので、更年期などホルモンバランスの変化や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれ・自律神経の乱れなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。

通院の負担と服用の負担から考える

たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。

どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。

まとめ

最初の結論にもう一度書きます。

「生理痛には漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。

漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。

1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。

2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。

3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。

4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「生理痛」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。

5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。

以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。

ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。

ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。

『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』

漢方薬と鍼灸の違いってなに?

また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。

生理痛(月経痛)