日本と中国での鍼灸と漢方
日本と中国での鍼灸と漢方

同じ「東洋医学」というルーツを持ちながらも、国によってその発展の仕方が大きく異なることを実感しています。
今回は、日本と中国の鍼灸・漢方の違いについて、具体的な例を交えながら、ご紹介したいと思います。
※なお、広大な中国(日本も同様)をひとくくりにして「これだけが唯一の考え方」と言えるものは、じつはありません。
施術者によってもずいぶん考え方に違いがありますし…。今回は話を簡単にステレオタイプの説で書いていきます。
中国の東洋医学:病邪と闘う、力強い治療
鍼灸と漢方薬の起源である中国の東洋医学は、その広大な国土、多様な気候風土、そして悠久の歴史の中で育まれました。
中国では、病気は「身体を侵す病邪との闘い」という明確な認識があり、それを強力に排除し、身体を立て直すことに重きを置きます。
鍼灸:ダイナミックな刺激で病邪を駆逐
■鍼の太さと深さ
中国鍼は、一般的に日本の鍼よりも太く、長く、そして深く刺す傾向があります。
これは、より強い「得気(とっき)」と呼ばれるズーンとした響きや重だるい感覚を得ることで、病邪を直接的に取り除くことを重視する考え方に基づいています。
■手技の多様性
鍼を刺した後に、鍼を上下に動かす「提挿(ていそう)」、鍼を回転させる「捻転(ねんてん)」、雀が啄むように動かす「雀啄(じゃくたく)」など、非常に多様な手技を用いて刺激量を調整します。
これらの手技を組み合わせることで、症状に合わせて最適な刺激を与えます。
例えば、重度の腰痛で来院された患者さんに対して、中国では太めの鍼を深部まで刺入し、強く捻転を加えながら「得気」を追求します。
患者さんからは「ズーンと響いて、奥に効いている感じがする」といった感想が聞かれることが多いです。
これは、腰痛の原因となる「気滞血瘀(きたいけつお:気の滞りや血の滞り)」を、鍼の強い刺激で直接動かし、解消しようとするアプローチです。
■気候風土と国民性
中国は四季の変化が激しく、特に北部では冬の寒さが厳しく、南部では湿気が多いなど、地域によって気候風土が大きく異なります。
このような環境下では、身体もより頑健に、そして変化に対応できるような強さが求められます。
また、一般的に陽気でエネルギッシュな国民性が、鍼灸においても効果を明確に、そして早く実感できるような、直接的で力強い刺激を好む傾向に繋がっていると言えるでしょう。
漢方薬:豊富な薬材と力強い処方で迅速な回復を
■薬材の種類と量
中国は薬草の宝庫であり、非常に多種多様な生薬が用いられます。
処方も複雑で、一服の薬に多くの生薬が配合されることが珍しくありません。
また、個々の生薬の服用量も、日本の漢方薬と比較して多めに設定される傾向があります。
これは、病邪を力強く排除し、身体のバランスを迅速に立て直すことを目的としているためです。
たとえば、風邪をひいて高熱が出た場合、中国では「麻黄湯(まおうとう)」や「銀翹散(ぎんぎょうさん)」など、発汗作用や解熱作用の強い生薬を、比較的多くの量で処方することがあります。
これは、体内の病邪を早く体外に出し切ることで、病状の悪化を防ぎ、早期回復を図ろうとする考え方です。
■煎じ薬が主流
薬効を最大限に引き出すため、生薬を水で煮出す「煎じ薬(せんじやく)」が依然として主流です。
患者さんの状態に合わせて、生薬の配合や量を細かく調整できるのが特徴です。
日本の東洋医学:繊細なアプローチで自然治癒力を引き出す
中国から伝わった東洋医学は、日本独自の文化や国民性、そして穏やかな自然環境に合わせて独自の発展を遂げました。
病気を「身体のバランスの乱れ」と捉え、それを繊細に調整することで、身体が本来持っている自然治癒力を最大限に引き出すことを重視します。
鍼灸:最小限の刺激で「気」の流れを整える
■細い鍼と優しい刺激
日本の鍼灸は、その最大の特徴として極めて細い鍼を使用します。
ほとんど痛みを感じさせない、またはごくわずかなチクッとした感覚がある程度で、患者さんに不快な思いをさせないことを重視します。
これは、鍼を皮膚に接触させるだけの「接触鍼(せっしょくしん)」や、鍼管という筒を使って鍼を刺入する「管鍼法(かんしんほう)」といった、日本独自の技術が発展したことにも関係しています。
先ほどの中国の例でだしたのと同じ「腰痛」でも、日本では「脈」や「お腹の張り」などから患者さんの「証(しょう)(体質や病状のタイプ)」を細かく判断します。
冷えが原因の腰痛であれば、細い鍼を数ミリ程度浅く刺入し、ゆっくりと気の流れを整えるような施術を行います。
患者さんからは「いつ刺したのか分からなかった」「温かくなって、じんわりと痛みが引いていく感じ」といった感想が聞かれることが多いです。
■「気」の調整を重視
中国鍼灸が「邪」を取り除くことに重きを置くのに対し、日本鍼灸は「気」の流れを整え、身体のバランスを調和させることに重点を置きます。
そのため、患者さんの身体の状態を繊細に診て、気の滞りや不足を判断し、適切なツボに最小限の刺激でアプローチします。
■気候風土と国民性
日本は温暖湿潤な気候が特徴で、日本人の食生活も魚や野菜、米を中心とした繊細なものです。
体質も比較的穏やかで、刺激に敏感な傾向があると言われます。
また、調和を重んじ、相手への配慮や「おもてなし」の精神が深く根付いている国民性も、痛みを最小限に抑え、心地よさを追求する施術に繋がっています。
漢方薬:穏やかな効き目と「証」に合わせた処方
■服用量と処方
日本の漢方薬は、中国と比較して、生薬の服用量が少なめに設定される傾向があります。
これは、日本人の体質が比較的繊細であること、そして穏やかに身体のバランスを整えることを重視する考え方に基づいています。
■「証」の重視
日本漢方では、患者さんの体質や症状を総合的に判断する「証(しょう)」という概念を非常に重視します。同じ病名でも、患者さんの証が異なれば、処方も変わります。
たとえば、風邪の初期症状で悪寒がする場合でも、中国では強い発汗作用のある麻黄湯をすぐに使うのに対し、日本では体力が低下している方には胃腸に負担の少ない「葛根湯(かっこんとう)」を少量から試したり、体力がない場合には「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」のような滋養強壮作用のある漢方を選ぶこともあります。
これは、身体の状態をじっくり見極め、無理なく回復を促そうとする配慮です。
■エキス剤の普及
煎じ薬だけでなく、手軽に服用できる「エキス剤(顆粒や錠剤)」が広く普及しています。
これは、多忙な現代人のライフスタイルに合わせた変化と言えるでしょう。
まとめ:文化と歴史が育んだ東洋医学の多様性
このように、中国と日本の東洋医学は、それぞれの国の気候風土、国民性、そして医療観が複雑に絡み合って、異なる発展を遂げてきました。
中国の東洋医学は、力強い鍼灸と豊富な漢方薬で、病邪をダイナミックに排除し、身体を立て直すことを得意とします。
日本の東洋医学は、繊細な鍼と優しい刺激、そして穏やかな漢方薬で、身体の調和を整え、自己治癒力を引き出すことを重視します。
どちらが良い、悪いというものではなく、それぞれの文化と歴史の中で、人々の健康を守るために最適な形として発展してきた結果です。
日本でも、強めの刺激を良しとする鍼灸院もあれば、最弱の刺激を良しとする鍼灸院もあります。
東洋医学に興味をお持ちでしたら、ぜひご自身の体質や求める治療に合わせて、それぞれのスタイルの鍼灸や漢方薬を試してみてはいかがでしょうか。

