産後のホルモンバランスの乱れに効くツボ
産後のホルモンバランスの乱れに効くツボ

産後は、慣れない育児や睡眠不足、体力の消耗など、心身ともに大きな負担がかかる時期です。
そのような中で、ホルモンバランスの乱れによる様々な不調を感じていらっしゃる方も少なくないでしょう。
今回は、そのようなホルモンバランスの乱れに効果的なツボをご紹介しますので、セルフケアにご活用ください。
西洋医学からみた産後のホルモンバランスの乱れ
産後のホルモンバランスの乱れは、主にプロゲステロンとエストロゲンという二つの女性ホルモンの急激な変動によって引き起こされます。
妊娠中はこれら二つのホルモンが大量に分泌されますが、出産を終えると胎盤が体外へ排出されることで、これらのホルモン分泌が急激に減少します。
とくにエストロゲンの減少は顕著で、この急激な変化が自律神経の乱れや精神的な不調、身体的な症状を引き起こすと考えられています。
さらに、授乳期にはプロラクチンというホルモンの分泌が促進され、これが排卵を抑制し、生理の再開を遅らせる要因となります。
ホルモンバランスの乱れは、気分の落ち込み、イライラ、不眠、疲労感、頭痛、めまい、肩こり、肌荒れ、抜け毛、乳房の張りや痛み、不正出血など、多岐にわたる症状として現れることがあります。
これらの症状は、心身の疲労と相まって、産後うつへと繋がる可能性も指摘されています。
西洋医学的な治療法
西洋医学における産後のホルモンバランスの乱れに対する治療法は、主に症状の緩和とホルモンバランスの調整が目的となります。
■対症療法
不眠や精神的な不調に対しては、睡眠導入剤や抗不安薬、抗うつ薬などが処方されることがあります。
頭痛や肩こりには鎮痛剤や湿布などが用いられます。
■ホルモン補充療法
ホルモンバランスの乱れが重度で、生活に支障をきたす場合には、ホルモン補充療法が検討されることもありますが、産後の場合は授乳への影響などを考慮し、慎重に判断されます。
■生活指導
規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、生活習慣の改善が指導されます。
■カウンセリング
精神的な負担が大きい場合には、カウンセリングが有効な場合もあります。
東洋医学からみた産後のホルモンバランスの乱れ

東洋医学では、産後のホルモンバランスの乱れを単なるホルモンの問題として捉えるのではなく、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」といった生命活動を支える基本的な要素のバランスの乱れと、臓腑(ぞうふ)の機能低下として捉えます。
出産は大量の出血を伴い、体力を消耗するため、とくに「血」と「気」が不足しやすくなります。
これにより、体全体のバランスが崩れ、様々な不調が現れると考えます。
以下に、産後のホルモンバランスの乱れによく見られる体質と、その東洋医学的な特徴を説明します。
肝鬱気滞(かんうつきたい)タイプ
特徴: ストレスや精神的な緊張によって、「気」の流れが滞っている状態です。
とくに、精神的なストレスが多い産後によく見られます。
症状: イライラ、怒りっぽい、情緒不安定、胸や脇腹の張り、頭痛、ため息が多い、喉のつかえ感、生理不順などが現れやすいです。
気分が落ち込んだり、憂鬱になることもあります。
脾気虚(ひききょ)タイプ
特徴: 消化吸収を司る「脾(ひ)」の機能が低下し、「気」を作り出す力が弱まっている状態です。
産後の疲労や食欲不振が影響していることが多いです。
症状: 疲労感、倦怠感、食欲不振、胃もたれ、下痢や軟便、手足のむくみ、顔色のくすみ、声に力がない、めまい、立ちくらみなどが現れやすいです。
腎陰虚(じんいんきょ)タイプ
特徴: 成長・発育・生殖に関わる「腎(じん)」の「陰(いん)」が不足している状態です。
出産により「精(せい)」を消耗し、「陰」が不足しやすくなります。
症状: のぼせ、ほてり、寝汗、口の渇き、めまい、耳鳴り、腰や膝の痛み、不眠、不安感、髪のパサつきや抜け毛、生理が少ないなどが現れやすいです。
血虚(けっきょ)タイプ
特徴: 「血」が不足している状態です。
出産時の大量出血や、その後の授乳などにより「血」が消耗されることで起こりやすいです。
症状: 顔色や唇の青白さ、めまい、立ちくらみ、動悸、不眠、手足のしびれ、肌の乾燥、髪のパサつき、抜け毛、生理周期が長い、経血量が少ないなどが現れやすいです。
これらの体質は単独で現れることもありますが、複数の体質が複合的に現れることも少なくありません。
産後のホルモンバランスの乱れに効くツボ
産後のホルモンバランスの乱れに対して、東洋医学ではその根本的な原因である「血」や「気」の不足、臓腑の機能低下を改善するためのツボを選びます。
全身のツボを組み合わせることで、体全体のバランスを整え、自然治癒力を高めることを目指します。
共通のツボ
どの体質の方にも共通して効果が期待できるツボとして、以下が挙げられます。
これらのツボは、ホルモンバランスの調整だけでなく、産後の疲労回復や精神的な安定にも寄与します。
■三陰交(さんいんこう)
内くるぶしのいちばん高いところに小指をおき、指幅4本そろえて、人さし指があたっているところが三陰交です。
効果: 婦人科疾患に広く用いられる代表的なツボで、脾・腎・肝の3つの経絡が交わるため、血の生成と循環を促進し、ホルモンバランスを整える効果が期待できます。
冷えの改善や生理不順、更年期症状にも有効です。
■関元(かんげん)
指幅4本をそろえて人さし指をおへそにおき、小指があたっているところ。
効果: 丹田と呼ばれる下腹部の中心に位置し、生命エネルギーである「気」を補い、体を温める効果があります。
とくに、産後の体力回復や冷え、婦人科系の不調に有効です。
■足三里(あしさんり)
膝のお皿のすぐ下、外側のくぼみに人差し指を置き、指幅4本揃えて小指が当たっているところにあります。
効果: 全身の「気」を補い、消化吸収を促進して体力を回復させる効果があります。
疲労回復、胃腸の不調、免疫力向上にも役立ちます。
■百会(ひゃくえ)
耳のいちばん高いとこりに親指をあて中指を頭のてっぺんにあててそこから前げ押しながら移動し、気持ちよく感じるところ。
効果: 全身の「気」の流れを整え、自律神経のバランスを調整し、精神的な安定をもたらします。
不眠や頭痛、めまい、ストレス軽減にも有効です。
体質別のツボ
上記に加えて、個々の体質に合わせたツボを組み合わせることで、より効果的な施術が期待できます。
肝鬱気滞(かんうつきたい)タイプ
■太衝(たいしょう)
足の甲にあります。足の親指と人差し指の骨が交わる所です。
効果: 肝経の重要なツボで、気の滞りを解消し、ストレスを緩和する効果があります。
イライラや頭痛、不眠にも有効です。
■期門(きもん)
みぞおちから肋骨の下縁をたどり、鎖骨の下で、乳首と同じ線上にある。
もしくは、みぞおちから肋骨へ指を移動し、肋骨と肋骨の間を押して痛みを感じるところが期門です。
効果: 肝経の募穴(ぼけつ)で、肝の気の巡りを促進し、胸や脇腹の張りを和らげる効果があります。
脾気虚(ひききょ)タイプ
■中脘(ちゅうかん)
おへそに小指をあてて、親指までの指幅5本。親指があたっているところを目安にして指でやさしくなでるとへこみがあるところ。
効果: 胃腸の機能を高め、消化吸収を促進し、「気」の生成を助ける効果があります。
胃もたれ、食欲不振、疲労感に有効です。
■陰陵泉(いんりょうせん)
膝の内側、太い骨(脛骨)の下にあるくぼみです。
効果: 脾経の重要なツボで、体の余分な水分を排出し、むくみを改善し、脾の働きを助ける効果があります。
腎陰虚(じんいんきょ)タイプ
■復溜(ふくりゅう)
内くるぶしのいちばん高いところに薬指をおき、指幅3本そろえて人さし指があたっているアキレス腱の前。
効果: 腎経のツボで、腎の働きを強め、「陰」を補う効果があります。
体内の水分バランスを整える働きもあります。
血虚(けっきょ)タイプ
■膈兪(かくゆ)
肩甲骨の下端と同じ高さで、背骨から外側へ指幅2本よこが膈兪です。
効果: 「血」に関する重要なツボで、「血」の生成を促進し、補血作用を高める効果があります。
ツボを自分で探す時のコツ
より効果的なツボをご自身で探す際は、以下の点を意識してみてください。
ツボの基本位置を確認
鍼灸院での指導や書籍、ウェブサイトなどでツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴の場合、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりに位置します。
押して探す
だいたいの目安の場所の近辺を指で軽く押しながら、周囲を探ります。
「イタ気持ちいい」感覚や、ズーンと響くような感覚がある場所が、ツボの可能性が高いです。
合谷であれば、骨の交わる部分からやや人差し指側を探ると、凹みがあり、圧痛を感じる場所が見つかるはずです。
体の反応をみる
ツボを押すと、血行が良くなったり、体が温まったりする感覚がある場合があります。
ただし、ツボの位置は個人差がありますので、あくまで目安として捉え、無理に強い力で押さないように注意しましょう。
もし不安な場合は、鍼灸師などの専門家にご相談ください。
せんねん灸(台座灸)の使い方と注意点
ご自宅で手軽にできるセルフお灸として、「せんねん灸」の使い方と注意点について解説します。
「せんねん灸」は、ドラッグストアなどで手軽に購入できるお灸の製品名です。
せんねん灸タイプのお灸は「台座灸」と呼びます。
せんねん灸と似たような形の他の商品も多数あり、使用方法などは基本的には同様です。
せんねん灸の使い方
種類を選ぶ
「せんねん灸」には様々な種類があります。

「ソフト(弱)」「レギュラー(中間)」「あつめ(強)」の3つの種類があります。

初めての方は、熱さが「マイルドなタイプ」から試してみることをお勧めします。
ツボの場所を決める
どのツボを使うかはあらかじめ決めておき、ツボの目安を指でさぐりながらより効き目の高いポイントを決めて、ペンなどで印をつけます。
準備
お灸を据える場所を清潔にし、皮膚に異常がないか確認します。
台座の裏紙を剥がす
「せんねん灸」の台座裏についている薄い紙を剥がします。
もぐさに点火
巻きもぐさの先端に線香などで火をつけます。
皮膚に据える
火がついた「せんねん灸」を、ツボに据えます。
熱さを感じたら、無理せずすぐに取り外してください。我慢は禁物です。
取り外す
使用後、完全に火が消えていることを確認してからとりあえずして、捨ててください。
お灸をする上での注意事項
・熱さを我慢しない
熱すぎると感じたら、すぐに取り外してください。無理に我慢すると、やけどの原因になります。
・同じ場所に続けて据えない
皮膚に負担がかかるため、同じ場所に続けてお灸を据えるのは避けましょう。
・顔面、粘膜、傷口、炎症部位への使用は避ける
これらの部位は皮膚がデリケートなため、お灸の使用は避けてください。
・発熱時、飲酒時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける
体調が優れない時は、お灸を控えるようにしましょう。
・皮膚の弱い方、アレルギー体質の方は注意
使用前に必ずパッチテストを行うか、医師や薬剤師に相談してください。
・使用中に異常を感じたら、直ちに使用を中止し、医師に相談
万が一、皮膚に異常が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医師の診察を受けてください。
・乳幼児への使用は避ける
小さなお子様への使用はお控えください。
・火の取り扱いに注意
火を使うため、火災には十分に注意してください。
周囲に燃えやすいものがないことを確認し、換気をしながら行いましょう。
上記に注意して、安全にせんねん灸をご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。
セルフケアのツボ押しの方法と注意点
ご自宅で簡単にできるセルフケアとして、ツボ押し(マッサージ)について解説いたします。
ツボ押しは、体の不調を和らげたり、リラックス効果を高めたりするのに役立ちます。
ツボ押しの方法
リラックスできる環境を整える
静かな場所で、楽な姿勢で行いましょう。
ツボの位置を確認
書籍やウェブサイトなどで、目的のツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴は、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりです。
指の腹で押す
親指や人差し指の腹を使い、ツボを垂直に押します。爪を立てないように注意しましょう。
適度な力で押す
「イタ気持ちいい」と感じる程度の力で、ゆっくりと押します。
強く押しすぎると、痛みを感じたり、皮膚を傷めたりする可能性があります。
時間をかけて押す
1つのツボにつき、5秒から10秒程度、ゆっくりと押したり離したりを繰り返します。数回繰り返すと効果的です。
呼吸を意識する
力を入れる時に息を吐き、力を抜く時に息を吸うと、よりリラックスできます。
温めてから行うと効果的
入浴後など、体が温まっている状態で行うと、血行が促進され、より効果を感じやすくなります。
ツボ押しをする上での注意事項
・食直後、飲酒時、発熱時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける:
体調が優れない時は、ツボ押しを控えましょう。
・皮膚に炎症や傷がある場合は避ける:
患部を刺激することで、症状が悪化する可能性があります。
・強く押しすぎない:
強い力で押すと、筋肉や血管を傷つける可能性があります。あくまで「イタ気持ちいい」程度の力で行いましょう。
・長時間同じ場所を押さない:
皮膚に負担がかかるため、長時間同じ場所を押すのは避けましょう。
・力を抜くことを意識する:
力を入れっぱなしにすると、筋肉が緊張してしまい、効果が得られにくくなります。
・体調に異変を感じたら中止する:
ツボ押し中に体調が悪くなった場合は、直ちに中止し、必要に応じて医師に相談してください。
・乳幼児へは避ける:
小さなお子様へはお控えください。
・持病のある方は医師に相談:
心臓疾患や高血圧など、持病のある方は、ツボ押しを行う前に医師に相談してください。
上記に注意して、安全にツボ押しをご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。
ドライヤーお灸のやり方と注意事項
ドライヤーお灸は、火を使わずにドライヤーの温風を利用してツボを温める、手軽で安全な方法です。
広い範囲を温める場合や、火を使うお灸に抵抗がある方や、初めてお灸を試す方におすすめです。
ドライヤーお灸のやり方
準備
ドライヤーと、もしあればですが、姿見もしくは手鏡を用意します。
手鏡があると、背中など見えにくい部分のツボを温める際に便利です。
温風の当て方
ドライヤーを肌から5~10cmほど離します。
近すぎると熱くなりすぎるため、必ず距離を保ってください。
温風の温度は、低温(50~60度程度)に設定します。
ドライヤーに温度調節機能がない場合は、ドライヤーと肌の距離を調整することで熱さを調節します。
熱く感じたらすぐにドライヤーを離すようにしてください。
温風を当てる時間は、1つのツボにつき、熱いと感じたら離す、を5回程度繰り返します。
連続して長時間当て続けるのは避けましょう。
温める場所
特定のツボを意識する必要はありますが、厳密な位置にこだわる必要はありません。
ドライヤーの温風は比較的広い範囲に当たるため、「面」で温めるイメージで大丈夫です。
ツボの周辺をじんわりと温めることで、効果が期待できます。
行う頻度
朝晩2回程度行うのがおすすめです。
ご自身の体調や生活に合わせて、無理のない範囲で行ってください。
ドライヤーお灸の注意事項
・怪我や炎症、痛みなどで熱を持っている部位には使用しないでください。症状が悪化する可能性があります。
・泥酔時や発熱時など、体調がすぐれない場合は使用を控えましょう。
・他人にドライヤーお灸を行うのは避けてください。
温度の感じ方には個人差があり、火傷をさせてしまう可能性があります。
・使用中に皮膚に異常(赤み、かゆみ、痛みなど)が現れた場合は、直ちに使用を中止し、必要に応じて医師に相談してください。
・同じ部位に長時間当て続けないように注意してください。
低温火傷の原因となることがあります。
鍼灸院での本格的な施術のススメ
産後のホルモンバランスの乱れに対して、ご自宅でのセルフケアも非常に有効です。
上記のツボを温めたり、優しく指で押したりするだけでも、症状の緩和に繋がります。
市販のお灸や温湿布などを活用するのも良いでしょう。
また、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、そして何よりもストレスを溜めないように心がけることが大切です。
頑張りすぎずに、ご自身の体を労わる時間を作ってくださいね。
しかし、セルフケアだけでは症状がなかなか改善しない場合や、より根本的な体質改善を目指したい場合は、ぜひ当院での本格的な鍼灸施術をご検討ください。
当院では、東洋医学の理論に基づき、脈やお腹、舌の状態を丁寧に診させていただくことで、お一人お一人の体質や症状に合わせた最適なツボを選び、鍼とお灸を使い分けながら施術を行います。
使用する鍼は非常に細く、痛みはほとんど感じませんし、お灸も心地よい温かさでリラックスしていただけます。
産後のデリケートな時期だからこそ、鍼灸師による安心・安全な施術で、心身のバランスを整え、健康な毎日を取り戻しましょう。
産後の心身の不調にお悩みなら、ぜひ鍼灸院での施術をお試しください。
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