大雪|鍼灸師が教える二十四節気の健康法

大雪の今できる健康法について

大雪の健康法・写真1

大雪(たいせつ)は二十四節気の21番目で、例年12月7日頃から12月21日頃までの期間を指します。
2025年は12月7日です。

本格的な冬の到来を告げる時期で、山には雪が降り積もり、平地でも雪が舞う日が増えてきます。
空気は乾燥し、寒さが厳しさを増す頃です。

日照時間も短くなり、自然界の陽の気が一層少なくなるため、私たちの心身も内向きになりがちです。

草木は眠りにつき、動物たちも冬ごもりの準備を整えるように、自然界全体が静かにエネルギーを内側へと蓄える時期です。
人間もこの季節には“冬の養生”が求められ、心と体の内側を整え、春へ向けた準備を始める大切な時期となります。

今回は「大雪(たいせつ)」の時期を健やかに過ごすためのヒントをお届けしますので、ぜひ最後までお読みください

大雪の頃に起こりうる心身の不調

大雪の頃は、気候が厳しくなることで、私たちの心身にも様々な変化が現れやすくなります。

東洋医学では、この時期は「腎(じん)」の働きが重要になると考えられています。
「腎」は生命エネルギーの源であり、体の冷えや水分の代謝、骨や歯、髪の健康、そして生殖機能やホルモンバランスを司る大切な臓器です。
寒さが厳しくなると「腎」に負担がかかり、以下のような心身の不調が起こりやすくなります。

冷えの影響

まず、体の冷えは最も顕著な不調の一つです。

手足の冷えはもちろんのこと、お腹や腰の冷えを感じやすくなります。
女性は、子宮や卵巣がある下腹部が冷えることで、生理痛の悪化や生理不順、不妊といった婦人科系の症状が悪化する可能性があります。

体が冷えると血行が悪くなり、肩こりや腰痛、関節の痛みも増しやすくなります。

消化器系においても、冷えは影響を及ぼします。
体が冷えると消化機能が低下し、下痢や便秘、胃もたれといった症状が出やすくなります。
もともと胃腸が弱い方は、この時期に体調を崩しやすい傾向があります。

自律神経系への影響

また、寒さによる体への負担は、自律神経の乱れにもつながります。

寒さに体が適応しようとすることで交感神経が優位になりがちで、これが続くと、めまい、動悸、倦怠感といった自律神経失調症の症状が現れやすくなります。
急な温度変化にさらされると、血管の収縮・拡張がうまくいかず、頭痛やめまいを引き起こすこともあります。

メンタル面への影響

精神面では、日照時間が短くなることから、気分の落ち込みや意欲の低下を感じやすくなる人もいます。

これは「冬季うつ」とも呼ばれる現象で、日照不足によりセロトニンという気分を安定させる神経伝達物質の分泌が減ることが一因とされています。

漠然とした不安感や、やる気が出ないといった症状が現れることがあります。

乾燥の影響

さらに、この時期は空気の乾燥も進むため、肌の乾燥やのどの痛み、咳といった呼吸器系のトラブルも増えます。

東洋医学では、「肺」は乾燥に弱い臓器とされており、乾燥した空気は「肺」に負担をかけ、風邪を引きやすくなったり、喘息の症状が悪化したりすることがあります。

目の不調もこの時期に増える傾向があります。
寒さや乾燥は、目の筋肉の緊張を引き起こし、眼精疲労やドライアイの原因となることがあります。
また、緑内障など目の疾患を抱えている方は、寒さによる血行不良が症状を悪化させる可能性もあります。

このように、大雪の時期は寒さと乾燥が心身に多大な影響を与え、様々な不調を引き起こしやすくなります。
これらの不調を未然に防ぎ、健やかに冬を過ごすためには、この時期に合わせた養生が非常に重要になります。

大雪の頃の東洋医学的な健康法

大雪の時期に起こりやすい心身の不調を避けるためには、東洋医学の知恵を取り入れた健康法が非常に有効です。

東洋医学的な観点からおすすめする養生法は、「温めて、静かに蓄える」ことです。

これには以下のような具体的な実践法があります。

早寝遅起きで「腎」を守る

冬は自然界が静かにエネルギーを蓄える季節。
人もこれに倣い、夜は早めに休み、朝は日の出とともにゆっくり起きることが養生となります。

東洋医学では、「冬は蔵(ぞう)なり」と言い、活動を抑えて内にエネルギーを蓄えることが腎の養生につながるとされています。

黒い食材で腎を養う

腎を補う食材には「黒色」のものが多いとされます。
黒豆、黒ごま、ひじき、昆布、きくらげ、黒米などは、体を内側から温め、腎の働きを助けます。

また、山芋、栗、クルミ、エビ、鶏肉などもおすすめ。
スープや煮込み料理など、温かくて消化に良い調理法を選びましょう。

腹・腰まわりを温める

「腎」は腰のあたりに位置しています。

寒さで腎が冷えると、全身の機能が低下します。
日常的に腹巻きやカイロ、湯たんぽを活用し、下腹部・腰・仙骨周囲を冷やさないように心がけましょう。

お風呂もシャワーだけで済まさず、湯船につかって芯まで温めることが大切です。

過労・過度な運動を避ける

冬は活動のしすぎを避け、無理をしないことが大切です。

腎を傷める原因となるのが「過労」。

現代人は知らず知らずに体を酷使しているため、少し意識してペースを落とすことも必要です。
冬は「省エネモード」でちょうどいいのです。

心を落ち着け、静かな時間を持つ

腎は「恐れ」と関係があります。
不安や恐怖が続くと腎のエネルギーが消耗されます。

意識的に深呼吸をしたり、ゆっくりお茶を飲む時間を持つ、自然の景色を眺めるなど、静かに自分の内面を整える時間をとることも、冬の養生には重要です。

これらの東洋医学的な健康法を日常生活に取り入れることで、大雪の時期特有の心身の不調を未然に防ぎ、健やかな冬を過ごすことができるでしょう。

大雪の頃におススメなツボ(経穴)

上記の東洋医学的な健康法と併せて、以下のツボ(経穴)を活用することで、さらに体調を整える効果が期待できます。

■三陰交(さんいんこう)

内くるぶしのいちばん高いところに小指をおき、指幅4本そろえて、人さし指があたっているところが三陰交です。
肝・脾・腎の三つの経絡が交わるツボで、女性にとって特に重要なツボで、3つの経絡が交わる場所にあります。

効果:三陰交は、脾経、肝経、腎経という3つの陰の経絡が交わる要衝のツボです。
婦人科系疾患や冷え性、むくみなど、下半身の不調に効果的です。大雪の時期に冷えからくる生理不順や不妊でお悩みの方に重要です。
このツボを温めることで、血流が促進され、冷えが改善し、体全体の巡りが良くなります。

■太谿(たいけい)

内くるぶしとアキレス腱のほぼ中央のくぼみにあります。

効果: 太谿は、腎経の原穴(げんけつ)であり、「腎」の働きを直接的に高めるツボです。
「腎」は生命力の源であり、このツボを刺激することで、体の冷え、疲労感、腰痛、生殖機能の低下など、「腎」の弱りからくる症状を和らげることができます。
冬の養生において「腎」を補うことは非常に重要であり、太谿はその要となるツボです。

■関元(かんげん)

指幅4本をそろえて人さし指をおへそにおき、小指があたっているところ。

効果: 関元は、下腹部の中心に位置し、「気」が集まる場所として知られています。
「丹田(たんでん)」とも呼ばれ、生命エネルギーを蓄える重要なポイントです。
このツボを温めることで、全身の冷えを改善し、特に婦人科系の症状や消化器系の不調に効果的です。

また、疲労回復や免疫力向上にも役立ち、大雪の時期の体調管理に欠かせないツボです。

これらのツボは、指圧や温灸(お灸)で刺激することができます。
ご自身で押す場合は、心地よい程度の強さでゆっくりと押し揉みしてください。お灸を使う場合は、市販の台座灸などが手軽で安全です。

ツボを自分で探す時のコツ

より効果的なツボをご自身で探す際は、以下の点を意識してみてください。

ツボの基本位置を確認

鍼灸院での指導や書籍、ウェブサイトなどでツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴の場合、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりに位置します。

押して探す

だいたいの目安の場所の近辺を指で軽く押しながら、周囲を探ります。
「イタ気持ちいい」感覚や、ズーンと響くような感覚がある場所が、ツボの可能性が高いです。
合谷であれば、骨の交わる部分からやや人差し指側を探ると、凹みがあり、圧痛を感じる場所が見つかるはずです。

体の反応をみる

ツボを押すと、血行が良くなったり、体が温まったりする感覚がある場合があります。

ただし、ツボの位置は個人差がありますので、あくまで目安として捉え、無理に強い力で押さないように注意しましょう。
もし不安な場合は、鍼灸師などの専門家にご相談ください。

せんねん灸(台座灸)の使い方と注意点

ご自宅で手軽にできるセルフお灸として、「せんねん灸」の使い方と注意点について解説します。

「せんねん灸」は、ドラッグストアなどで手軽に購入できるお灸の製品名です。
せんねん灸タイプのお灸は「台座灸」と呼びます。

せんねん灸と似たような形の他の商品も多数あり、使用方法などは基本的には同様です。

せんねん灸の使い方

種類を選ぶ

「せんねん灸」には様々な種類があります。
せんねん灸

「ソフト(弱)」「レギュラー(中間)」「あつめ(強)」の3つの種類があります。
せんねん灸種類
初めての方は、熱さが「マイルドなタイプ」から試してみることをお勧めします。

ツボの場所を決める

どのツボを使うかはあらかじめ決めておき、ツボの目安を指でさぐりながらより効き目の高いポイントを決めて、ペンなどで印をつけます。

準備

お灸を据える場所を清潔にし、皮膚に異常がないか確認します。

台座の裏紙を剥がす

「せんねん灸」の台座裏についている薄い紙を剥がします。

もぐさに点火

巻きもぐさの先端に線香などで火をつけます。

皮膚に据える

火がついた「せんねん灸」を、ツボに据えます。
熱さを感じたら、無理せずすぐに取り外してください。我慢は禁物です。

取り外す

使用後、完全に火が消えていることを確認してからとりあえずして、捨ててください。

お灸をする上での注意事項

・熱さを我慢しない
熱すぎると感じたら、すぐに取り外してください。無理に我慢すると、やけどの原因になります。

・同じ場所に続けて据えない
皮膚に負担がかかるため、同じ場所に続けてお灸を据えるのは避けましょう。

・顔面、粘膜、傷口、炎症部位への使用は避ける
これらの部位は皮膚がデリケートなため、お灸の使用は避けてください。

・発熱時、飲酒時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける
体調が優れない時は、お灸を控えるようにしましょう。

・皮膚の弱い方、アレルギー体質の方は注意
使用前に必ずパッチテストを行うか、医師や薬剤師に相談してください。

・使用中に異常を感じたら、直ちに使用を中止し、医師に相談
万が一、皮膚に異常が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医師の診察を受けてください。

・乳幼児への使用は避ける
小さなお子様への使用はお控えください。

・火の取り扱いに注意
火を使うため、火災には十分に注意してください。
周囲に燃えやすいものがないことを確認し、換気をしながら行いましょう。

上記に注意して、安全にせんねん灸をご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。

セルフケアのツボ押しの方法と注意点

ご自宅で簡単にできるセルフケアとして、ツボ押し(マッサージ)について解説いたします。
ツボ押しは、体の不調を和らげたり、リラックス効果を高めたりするのに役立ちます。

ツボ押しの方法

リラックスできる環境を整える

静かな場所で、楽な姿勢で行いましょう。

ツボの位置を確認

書籍やウェブサイトなどで、目的のツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴は、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりです。

指の腹で押す

親指や人差し指の腹を使い、ツボを垂直に押します。爪を立てないように注意しましょう。

適度な力で押す

「イタ気持ちいい」と感じる程度の力で、ゆっくりと押します。
強く押しすぎると、痛みを感じたり、皮膚を傷めたりする可能性があります。

時間をかけて押す

1つのツボにつき、5秒から10秒程度、ゆっくりと押したり離したりを繰り返します。数回繰り返すと効果的です。

呼吸を意識する

力を入れる時に息を吐き、力を抜く時に息を吸うと、よりリラックスできます。

温めてから行うと効果的

入浴後など、体が温まっている状態で行うと、血行が促進され、より効果を感じやすくなります。

ツボ押しをする上での注意事項

・食直後、飲酒時、発熱時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける:
体調が優れない時は、ツボ押しを控えましょう。

・皮膚に炎症や傷がある場合は避ける:
患部を刺激することで、症状が悪化する可能性があります。

・強く押しすぎない:
強い力で押すと、筋肉や血管を傷つける可能性があります。あくまで「イタ気持ちいい」程度の力で行いましょう。

・長時間同じ場所を押さない:
皮膚に負担がかかるため、長時間同じ場所を押すのは避けましょう。

・力を抜くことを意識する:
力を入れっぱなしにすると、筋肉が緊張してしまい、効果が得られにくくなります。

・体調に異変を感じたら中止する:
ツボ押し中に体調が悪くなった場合は、直ちに中止し、必要に応じて医師に相談してください。

・乳幼児へは避ける:
小さなお子様へはお控えください。

・持病のある方は医師に相談:
心臓疾患や高血圧など、持病のある方は、ツボ押しを行う前に医師に相談してください。

上記に注意して、安全にツボ押しをご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。

まとめ

本格的な冬の入り口である「大雪」の時期は、寒さと乾燥が心身に影響を与えやすい季節です。
東洋医学の観点からは、「腎」の働きを養い、体を芯から温めることが、この時期を健やかに過ごすための鍵となります。

今回ご紹介した食事、体を冷やさない工夫、十分な睡眠、適度な運動、ストレスマネジメントといった養生法を実践することで、冷えや婦人科系の不調、自律神経の乱れ、精神的な落ち込みといった冬特有の不調を乗り越えることができます。

冬の養生は「静」と「温」がキーワード。
無理をせず、黒い食材や温かいお風呂、心を落ち着ける時間を意識することで、春に向けて健やかな体づくりができます。

セルフケアだけでは改善が難しいお悩みがありましたら、ぜひ一度、当院にご相談ください。
完全予約制で、お一人おひとりの時間を大切に、丁寧な説明と分かりやすい対応を心がけております。

大雪の時期を健康に、そして心地よく過ごすために、東洋医学の知恵と鍼灸治療を生活に取り入れてみませんか?