突発性難聴には漢方か鍼灸か?
「突発性難聴」には漢方薬か鍼灸か?
突然の聴力の低下や耳鳴りが起こり、心の負担は計り知れないことと思います。
突発性難聴は、早期の適切な治療によって聴力回復の可能性が高まります。
西洋医学的な治療としては、ステロイド薬の投与や高圧酸素療法などが一般的ですが、東洋医学(漢方や鍼灸)も有効な手段の一つです。
重要なこととしては、突発性難聴は早期の治療が大切です。
あやしい症状が現れたら、早めに西洋医学(病院)を受診し、適切な治療を受けるようにしてください。
東洋医学では、突発性難聴の原因を、体内のエネルギーや血液の巡りの乱れ、ストレスや疲労などによる心身のバランスの崩れと捉えます。
そこで、あなたの体質や症状に合わせて、漢方薬を処方したり、鍼灸治療を行うことで、体全体の調子を整え、自然治癒力を高めることを目指します。
まずは無理をせず、ゆっくりと体をいたわることが大切です。
聞こえにくいことは、日常の楽しみを奪われるような感覚かもしれません。
しかし、適切なケアを続ければ、回復の可能性は十分あります。
突発性難聴で悩まれるあなたに、最初に「結論」です。
それはズバリ『両方使うのが最善』です。
それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。
突発性難聴と東洋医学
突発性難聴は、西洋医学的には原因不明の聴力低下とされていますが、東洋医学では、その背景にある様々な要因を考慮し、個々の体質や状態に合わせて病態を捉えます。
東洋医学における突発性難聴の原因を挙げます。
肝気鬱結(かんきうっけつ)
特徴:
ストレスや感情の乱れにより「肝」の働きが滞る。肝は全身の気の流れを調整するため、その働きが悪くなると耳への気血の供給が不安定になり、突発性難聴が発症します。
症状:
耳鳴り、聴力低下、耳の閉塞感、イライラ、怒りやすい、憂鬱感、胸苦しさ、ため息など。
体質:
ストレスを抱えやすい、感情の起伏が激しい、完璧主義者など。
肝火上炎(かんかじょうえん)
特徴:
肝の気(エネルギー)が過剰に高まり、上半身に熱を持たせ、耳に影響を与える。
症状:
耳鳴り、聴力低下、耳の痛み、耳の熱感、顔面紅潮、口渇、イライラ、怒りやすい、頭痛など。
体質:
ストレスを抱えやすい、怒りやすい、興奮しやすい、辛いものや刺激物を好むなど。
腎虚(じんきょ)
特徴:
腎気(生命エネルギー)が不足し、耳の機能が低下する。
症状:
耳鳴り、聴力低下、めまい、ふらつき、腰痛、足腰の冷え、頻尿、老化など。
体質:
加齢、慢性疾患、過労、睡眠不足、冷え性など。
痰濁(たんだく)
特徴:
体内の水分代謝が滞り、痰(老廃物)が耳の機能を阻害する。
症状:
耳鳴り、聴力低下、耳の中に何か詰まったような感じがする、めまい、吐き気、食欲不振、むくみ、肥満など。
体質:
肥満気味、食生活が乱れている、運動不足、湿気の多い場所に住んでいるなど。
気血両虚(きけつりょうきょ)
特徴:
気(エネルギー)と血(血液)がともに不足し、耳へ十分な栄養が渡らず、機能が低下します。
症状:
耳鳴り、聴力低下、めまい、ふらつき、顔色が悪い、疲労感、動悸、息切れなど。
体質:
虚弱体質、慢性疾患、過労、栄養不足、月経不順など。
瘀血(おけつ)
特徴:
血の流れが滞り、耳の血流が阻害される。
症状:
耳鳴り、聴力低下、耳の痛み、肩こり、頭痛、生理痛、シミ、クマなど。
体質:
冷え性、運動不足、ストレス、外傷の既往歴など。
以上、これらの原因は単独で起こるだけでなく、複合的に関与していることもあります。
東洋医学では、突発性難聴の原因(タイプ)を特定し、個々の体質や状態に合わせて、適切な治療法を選択します。
鍼灸治療や漢方薬、生活習慣の改善などを組み合わせることで、症状の緩和や聴力回復を目指します。
突発性難聴に効く漢方薬
突発性難聴は、原因不明の急な聴力低下、耳鳴り、耳の閉塞感などを伴う病気です。
西洋医学的な治療法もありますが、漢方薬も体質によっては有効な選択肢となります。
漢方薬は、体全体のバランスを整えることで、突発性難聴の症状を緩和することを目的としています。
そのため、体質や症状によって適切な漢方薬を選ぶことが重要です。
以下に、体質別に効果が期待できる漢方薬とその理由をまとめました。
肝気鬱結(かんきうっけつ)タイプ
適した漢方薬:
逍遙散(しょうようさん)
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
選んだ理由:
・逍遙散はストレスを緩和し、「肝」の気の流れを整える。特に憂鬱感や胸苦しさが強い場合に適する。
・柴胡加竜骨牡蛎湯は自律神経の乱れを調整し、ストレスによる耳の不調や高ぶった神経を落ち着かせる。
肝火上炎(かんかじょうえん)タイプ
適した漢方薬:
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
選んだ理由:
・竜胆瀉肝湯は「肝」の過剰な熱を冷まし、炎症や耳の熱感、耳鳴りを鎮める。
・黄連解毒湯は「火」を抑え、怒りやすさや興奮を抑制し、響きや耳の痛みに対応する。
腎虚(じんきょ)タイプ
適した漢方薬:
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
耳鳴丸(じめいがん)
選んだ理由:
・六味地黄丸は「腎」を補い、加齢や疲労による耳の機能低下を改善する。
・耳鳴丸は六味地黄丸をベースにしつつ、耳鳴りや聴力低下に特化した処方。
痰濁(たんだく)タイプ
適した漢方薬:
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
沢瀉湯(たくしゃとう)
選んだ理由:
・半夏白朮天麻湯は「痰湿(たんしつ)」を取り除き、耳の恐怖感をやめまいを改善する。
・沢瀉湯は水分代謝を調整し、むくみや耳の閉塞感を軽減する。
気血両虚(きけつりょうきょ)タイプ
適した漢方薬:
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
帰脾湯(きひとう)
選んだ理由:
・十全大補湯は「気」と「血」を補い、虚弱体質の耳鳴りやめまいを改善する。
・帰脾湯は特に「血」を補い、貧血気味で疲れやすい人の耳鳴りに適する。
瘀血(おけつ)タイプ
適した漢方薬:
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
通導散(つうどうさん)
選んだ理由:
・枝桂茯苓丸は「血の流れ」を改善し、耳の血流不足による耳鳴りや難聴を改善する。
まとめ
突発性難聴の原因はさまざまで、体質ごとに適した漢方薬が異なります。
・肝気鬱結タイプ→ 逍遙散、柴胡加竜骨牡蛎湯
・肝火上炎タイプ→ 竜胆瀉肝湯、黄連解毒湯
・腎虚タイプ→ 六味地黄丸、耳鳴丸
・痰濁タイプ→ 半夏白朮天麻湯、沢瀉湯
・気血両虚タイプ→ 十全大補湯、帰脾湯
・瘀血タイプ→桂枝茯苓丸、通導散
体質に合った漢方を選び、西洋医学の治療と併用することで改善しやすくなります。
また、上記の情報は、あくまで一般的なものであり、個々の体質や症状によって適切な漢方薬は異なります。
必ず専門家にご相談ください。
突発性難聴に効くツボ
ツボは、体全体のエネルギーの流れを整えることで、突発性難聴の症状を緩和することを目的としています。
そのため、体質や症状によって適切なツボを選ぶことが重要です。
以下に、体質別に効果が期待できるツボとその理由をまとめました。
肝気鬱結(かんきうっけつ)タイプ
適したツボ:
太衝(たいしょう)[足の厥陰肝経]
百会(ひゃくえ)[督脈]
選んだ理由:
・太衝は「肝」の気の流れを改善し、ストレスやイライラによる耳の不調を無意識にする。
・百会は自律神経を調整し、ストレスや緊張を緩和することで耳の血流を変える。
肝火上炎(かんかじょうえん)タイプ
適したツボ:
行間(こうかん)[足の厥陰肝経]
風池(ふうち)[足の少陽胆経]
選んだ理由:
・行間は「肝火(かんか)」を鎮め、興奮しやすさや耳の熱感を選考する。
・風池は頭部の血流を良くし、耳の炎症や充血を改善する。
腎虚(じんきょ)タイプ
適したツボ:
腎兪(じんゆ)[足の太陽膀胱経]
太谿(たいけい)[足の少陰腎経]
選んだ理由:
・腎兪は「腎」を補い、加齢や疲労による耳の機能低下を改善する。
・太谿は腎経を補強し、耳鳴りや難聴に効果がある。
痰濁(たんだく)タイプ
適したツボ:
中脘(ちゅうかん)[任脈]
豊隆(ほうりゅう)[足の陽明胃経]
選んだ理由:
・中脘は腸の機能を整え、「痰湿(たんしつ)」の生成を防ぐ。
・豊隆は「痰湿」を排出し、耳の閉塞感や閉塞感を改善する。
気血両虚(きけつりょうきょ)タイプ
適したツボ:
足三里(あしさんり)[足の陽明胃経]
三陰交(さんいんこう)[足の太陰脾経]
選んだ理由:
・足三里は「気」を補い、全身のエネルギー不足を改善し、耳への栄養供給を助ける。
・三陰交は「血」を補い、めまいや貧血を伴う耳鳴りに効果があります。
瘀血(おけつ)タイプ
適したツボ:
血海(けっかい)[足の太陰脾経]
翳風(えいふう)[足の少陽胆経]
選んだ理由:
・血海は血流を改善し、耳の血行不良による耳鳴りや難聴を緩和する。
・翳風は耳の周囲の血流を改善し、耳の痛みや不安感を軽減する。
まとめ
突発性難聴の体質に応じたツボを刺激することで、症状の改善が期待できます。
肝気鬱結タイプ→ 太衝、百会
肝火上炎タイプ→ 行間、風池
腎虚タイプ→ 腎兪、太渓
痰濁タイプ→ 中脘、豊隆
気血両虚タイプ→ 足三里、三陰交
瘀血タイプ→ 血海、翳風
以上、上記のツボは、あくまで一般的な例です。
漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…
「突発性難聴」でお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。
もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか。
漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。
漢方薬は費用負担が少ない可能性
漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。
ただし、東洋医学的な見立てからの処方ではないのがネックですが…。
他にどんな悩みがあるか?で決める
「突発性難聴」は様々な原因が考えられますし、「突発性難聴」のみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。
漢方薬は内臓系が得意ですので、貧血や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。
通院の負担と服用の負担から考える
たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。
どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう。
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。
まとめ
最初の結論にもう一度書きます。
「漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。
漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。
1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。
2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。
3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。
4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「突発性難聴」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。
5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。
以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。
ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。
ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。
『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』
また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。