大暑|鍼灸師が教える二十四節気の健康法

大暑の今できる健康法について

大暑の健康法・写真1

今回は、二十四節気の12番目の「大暑(たいしょ)」について、東洋医学の観点から解説していきます

「大暑」は例年7月23日頃から8月6日頃までにあたり、その名の通り「最も暑い」時期です。
2025年は7月22日です。

この頃、日本列島は太平洋高気圧に覆われ、本格的な夏の盛りを迎えます。
気温・湿度ともに最高潮に達し、厳しい日差しが照りつけ、夕立やゲリラ豪雨も発生しやすくなります。

夏の土用と重なることも多く、体力を消耗しやすい時節のため、適切な養生が非常に重要となります。

大暑の頃に起こりうる心身の不調

大暑の時期は、心身ともに様々な不調が現れやすくなります。
東洋医学では、この時期の不調を「暑邪(しょじゃ)」と「湿邪(しつじゃ)」の影響として捉えます。

まず、「暑邪」は、体内の「気(き:エネルギー)」や「水(すい:体液)」を消耗させます。

■気虚(ききょ)
過剰な発汗により、体を巡るエネルギーである「気」が消耗し、全身倦怠感、疲労感、食欲不振、めまい、息切れ、気力減退といった症状が現れます。
これが一般的に「夏バテ」と呼ばれる状態です。

■水の消耗
大量の汗は体に必要な「水(すい)」を失わせ、口の渇き、皮膚の乾燥、便秘、尿量の減少などを引き起こします。
体液バランスが崩れると、熱中症のリスクも高まります。

■心(しん)への影響
東洋医学において、「心」は血脈を主り、精神活動を司るとされます。
暑邪は「心」に影響を与え、「心火(しんか)」が旺盛になることで、不眠、動悸、胸苦しさ、イライラ、不安感といった精神的な不調が現れやすくなります。
夜になっても寝苦しく、睡眠の質が低下することで、さらに疲労が蓄積するという悪循環に陥りがちです。

次に、「湿邪」は、体内に余分な水分や老廃物が滞ることで生じます。

■脾(ひ)への影響
東洋医学の「脾」は消化吸収と水分代謝を司ります。
湿度の高い環境や冷たい飲食物の摂りすぎにより、脾の働きが低下すると、食欲不振、胃もたれ、下痢、軟便、むくみ、体が重だるい、頭がすっきりしないといった症状が現れます。
とくに、冷たい飲み物やアイスクリームなどを多量に摂取すると、脾胃に直接的なダメージを与え、消化機能がさらに低下しやすくなります。

■皮膚トラブル
高温多湿な環境は、あせも、湿疹、かゆみなどの皮膚トラブルを悪化させることがあります。
体内にこもった熱と湿気が皮膚表面に現れると、肌荒れや炎症を引き起こしやすくなります。

これらの不調が複合的に現れることで、大暑の時期は体調を崩しやすくなります。

単なる暑さだけでなく、その裏に潜む「気」や「水」の消耗、「心」や「脾」の機能低下といった東洋医学的な視点から自分の体を理解し、適切なケアを行うことが、この時期を乗り切る鍵となります。

東洋医学的な健康法

大暑の不調を避けるためには、日々の生活の中で東洋医学の養生法を取り入れることが非常に効果的です。
経穴(ツボ)へのアプローチ以外にも、食事や生活習慣を見直すことで、体の中から夏の暑さに負けない体質を作っていきましょう。

下記の要素を意識する生活だと、この時期は健康的に過ごせます。

・熱を冷ます=清熱(せいねつ)
・湿を減らす=利湿(りしつ)
・エネルギーを補う=補気(ほき)
…の3つです。

大暑の頃の食養生

■体を冷ます食材(清熱)
きゅうり、トマト、なす、ゴーヤ、冬瓜などの夏野菜は、体内の余分な熱を冷ます作用があります。
苦味のあるものや瓜類を積極的に摂り入れましょう。
ただし、生野菜や冷たいものの摂りすぎは胃腸に負担をかけるため注意が必要です。

■余分な湿気を排出する食材(利湿)
ハトムギ、緑豆、小豆、トウモロコシのひげ茶などは、体内の湿気を排出する手助けをしてくれます。
むくみや体が重だるいときに特におすすめです。

■気を補う食材(補気)
山芋、鶏肉、もち米、なつめなどは、夏バテで消耗しやすい「気」を補ってくれます。
消化に良い調理法(煮物、スープなど)で摂りましょう。

■消化に良いものを
胃腸の機能が低下しやすい時期なので、脂っこいものや味の濃いものは避け、消化の良いあっさりとした食事を心がけましょう。
冷たい飲み物やアイスは控えめにし、常温の水やお茶、白湯などでこまめに水分補給をすることが大切です。

大暑の頃の生活習慣

■適切な水分補給と汗のコントロール
喉が渇く前に、こまめに常温の水分を摂りましょう。
冷たい飲み物は胃腸を冷やすため、避けたいところです。

汗は体温調節のために必要ですが、過剰な発汗は「気」や「水」の消耗を招きます。
エアコンを適切に使用し、室温と外気温の差を5℃以内に抑えるなど、体が冷えすぎないように工夫しましょう。
就寝時も、冷房で体を冷やしすぎないよう、薄手の掛け布団や長袖のパジャマなどを利用すると良いでしょう。

■十分な休息と質の良い睡眠
夏は日照時間が長く、活動的になりがちですが、疲労を溜め込まないよう、十分な休息を心がけましょう。
就寝前にぬるめのお風呂(38~40℃程度)にゆっくり浸かることで、全身の血行が良くなり、心身のリラックス効果が高まります。
シャワーだけで済ませず、湯船に浸かることで、体内の湿気を発散させる効果も期待できます。
寝苦しい夜は、アロマオイル(ラベンダーやカモミールなど)を焚いたり、氷枕や冷たいタオルで首元や足元を冷やすなどして、心地よい睡眠環境を整えましょう。

■適度な運動とリフレッシュ
激しい運動は体力を消耗しやすいので、早朝や夕方など涼しい時間帯に、ウォーキングやストレッチ、ヨガ、太極拳など、軽い運動を継続しましょう。
適度な運動は、気の巡りを良くし、新陳代謝を促進します。

ストレスは「肝(かん)」の働きを阻害し、気の滞りやイライラを引き起こします。
趣味に没頭する、自然の中で過ごす、親しい人と語らうなど、気分転換を図り、精神的なストレスを解消することも大切です。

これらの養生法は、日々の生活に取り入れることで、大暑の厳しい暑さから体を守り、健康な状態を維持する手助けとなります。
東洋医学の智慧を借りて、今年の夏を元気に乗り切りましょう。

大暑の頃の不調に効果的なツボ(経穴)

大暑の不調に対して、鍼灸治療では体全体のバランスを整えるアプローチを行います。
ご自身でできるセルフケアとして、これから挙げるツボを優しく押したり、温めたりするのも効果的です。

■足三里(あしさんり)

膝のお皿のすぐ下、外側のくぼみに人差し指を置き、指幅4本揃えて小指が当たっているところにあります。

効果: 足三里は胃経に属し、「胃」の気を補い、消化吸収機能を高める要穴です。
夏バテや食欲不振、胃もたれ、下痢など、大暑の時期に起こりやすい消化器系の不調に非常に有効です。
また、全身の「気」を増強し、疲労回復や免疫力向上にも寄与するため、「夏バテ対策」の代表的なツボとして知られています。
このツボを刺激することで、消耗した気を補い、元気を取り戻す手助けとなります。

■合谷(ごうこく)

手の甲で親指と人さし指の間。

効果: 「万能のツボ」とも呼ばれるほど多岐にわたる効果を持つ重要なツボです。
頭部や顔面部の症状に効果が高く、夏バテで起こりやすい頭痛、眼精疲労、めまいなどに有効です。
東洋医学的には、体表の邪気を発散させ、熱を清める「清熱(せいねつ)」作用や、「気」の巡りをスムーズにする働きがあります。

■陰陵泉(いんりょうせん)

膝の内側、太い骨(脛骨)の下にあるくぼみです。

効果: 陰陵泉は脾経に属し、体内の余分な「湿(しつ)」を取り除く作用に優れています。
大暑の時期は湿度が高く、体内に湿気が溜まりやすいため、むくみ、体が重だるい、下痢、軟便といった「湿邪」による症状が起こりやすくなります。
このツボを刺激することで、脾の運化作用(消化吸収と水分代謝)を助け、体内の水分バランスを整え、湿邪の排出を促進します。
これにより、夏のじめじめした不快感や体の重だるさの改善に繋がります。

これらのツボは、ご自宅で手軽にセルフケアが可能です。
指の腹で優しく、または少し圧をかけて心地よいと感じる程度に押してみてください。
温かいお灸を使うのもおすすめです。

まとめ

大暑は、一年で最も暑さが厳しく、心身ともに疲れやすい時期です。

気を補い(補気)

熱を冷まし(清熱)

湿を排出する(利湿)

…という三本柱の養生を、食事・生活習慣・ツボ刺激の中に取り入れていくことが重要です。

暑いからといって冷たいものを摂りすぎず、適度な運動と十分な休息、そして東洋医学の知恵を活かした日々のセルフケアを心がけることで、夏バテや熱中症を予防し、健やかな夏を過ごすことができます。

ご自身の体調と丁寧に向き合いながら、無理をせず、この大暑の季節を元気に乗り切っていきましょう。

もし不調が続くようであれば、鍼灸による全身調整も大変効果的です。
お気軽にご相談ください。

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