ED(勃起不全)への鍼灸症例|松戸市在住50代男性

ED(勃起不全)への鍼灸症例

EDへの鍼灸症例・写真1

一人で深く悩んでしまうことがある症状がED(勃起不全)です。

今回は、実際に当院にご来院いただいた50代の男性患者様の症例を通して、EDに対する鍼灸治療がどのように行われ、どのような可能性を秘めているのかをご紹介させていただきます

患者さまについて

年齢・性別:
50代男性・松戸市在住

鍼灸院に来るまでの経緯:
ご来院いただく1年ほど前から、ご自身のEDを自覚されるようになったとのことでした。

当初は「たまたまかな」と思っていたそうですが、次第にその頻度が増え、確実性を欠くようになったといいます。
このままではいけないと感じ、まずは泌尿器科を受診されました。
前立腺などの検査を受けられましたが、特に器質的な異常は見つからず、医師からは勃起を補助するお薬を処方されたそうです。

お薬を毎日服用することで、一時的には改善が見られたものの、患者様ご自身は「どうも効果がいまいちな気がする」「期待していたほどの効果が得られていない」と感じていらっしゃいました。
薬だけでは限界があると思い、「他に何かできることはないだろうか」と模索される中で、鍼灸のことを知り、当院にいらっしゃいました。

EDという主訴の他には、以下の症状を訴えられていました。

・手足の冷え
・眠りが浅い
・慢性腰痛
全体が「ズーン」と重だるく感じる痛みで、とくにデスクワークなどで長時間座りっぱなしの時や、同じ姿勢を続けることで痛みが悪化する。
・夜間頻尿:
夜間にも2~3回トイレに起きるため、睡眠がさらに妨げられている。
・肩こり

これらの随伴症状は、一見EDとは直接関係ないように思われるかもしれませんが、東洋医学的な観点から見ると、体全体のバランスの乱れを示す重要なサインとなります。

東洋医学的考察

東洋医学では、私たちの体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素が、五臓六腑(ごぞうろっぷ)という概念を中心にバランスを取りながら、生命活動を営んでいると考えます。
これらの要素のいずれかが不足したり、滞ったり、バランスが崩れたりすることで、様々な体の不調や病気が引き起こされると考えます。

今回の患者様のEDという主訴と、それに伴う様々な随伴症状を東洋医学的な視点から詳しく診ていくと、その根底には「腎(じん)」の機能の低下、すなわち「腎虚(じんきょ)」という状態があると考えられました。

東洋医学でいう「腎」は、西洋医学の腎臓だけでなく、生命エネルギーの源である「精(せい)」を蓄え、成長、発育、生殖、そして老化と深く関わる臓器と考えられています。

また、水分代謝や骨、耳、髪の毛とも関連が深く、下半身の機能全体を司るとも言われます。

「腎」の働きが十分であることは、若々しさや活力、そして生殖機能の維持に不可欠なのです。

今回の患者様の場合、EDという生殖機能に関するお悩みはもちろんですが、それに加えて訴えられていた以下の症状が、「腎虚」の状態を強く示唆していました。

手足の冷え:
「腎」は体を温める力とも関連が深いため、「腎虚」になると体の末端まで温かい「陽気(ようき)」が届きにくくなり、冷えが生じやすくなります。

眠りが浅い、夜間頻尿:
「腎」は水分代謝とも関連し、また夜間の休息とも関係があります。
「腎虚」により水分代謝がうまくいかなかったり、夜間のエネルギー(陰気)が不足したりすると、頻尿や夜間尿、さらには不眠や眠りの浅さにつながることがあります。

慢性腰痛(重だるい):
東洋医学では、腰は「腎」の府(おさめるところ)と考えられています。
「腎虚」になると、腰の骨や筋肉を養う力が弱まり、重だるいような慢性的な腰痛が現れやすくなります。
特に同じ姿勢で悪化するというのも、気血の巡りの滞り(瘀血や気滞)が腎虚と合併している可能性を示唆します。

これらの症状は、まさに東洋医学で言うところの「腎虚」の典型的な兆候と言えます。
加齢に伴い「腎」の機能が徐々に衰えていくことは自然なことでもありますが、日々の疲労やストレス、不規則な生活などが加わることで、その衰えが加速し、様々な不調として現れることがあります。

この患者様の場合、EDという症状は単にその部分だけの問題ではなく、「腎虚」を核とした体全体のエネルギー不足やバランスの乱れが表面化したものと考えられました。

治療方針

東洋医学的な考察に基づき、この患者様に対する治療方針は、以下の柱を中心に組み立てました。

「腎」のエネルギーを補う:
患者様の最も根本的な問題である「腎虚」の改善を最優先としました。
「腎」の働きを高めることで、生殖機能の回復はもちろん、全身の活力やスタミナの向上を目指します。

気血の巡りを改善し、滞りを解消する:
冷えや腰痛、肩こりといった症状は、気血の巡りが悪くなっていることによっても引き起こされます。
全身の気血の巡りをスムーズにすることで、体の隅々まで栄養と酸素が行き渡るように促し、組織の機能回復を図ります。
特に下半身への血流改善は、EDの改善に不可欠です。

また、EDだけでなく、患者様が日常的に悩まされている手足の冷え、眠りの浅さ、慢性腰痛、頻尿、夜間頻尿といった症状一つ一つに対しても丁寧にアプローチします。

これらの症状が改善することで、患者様のQOL(生活の質)が向上し、精神的な負担も軽減されることは、EDの改善にも良い影響を与えます。

治療経過

1回目:
仰向けで、手足にある全身の調子を整える代表的なツボ(曲池(きょくち)、足三里(あしさんり))や、「腎」の働きを助けるツボ(太谿(たいけい))、に置鍼(鍼を刺したまましばらく置いておくこと)を行いました。

また、頭部のリラックス効果を高めるツボとして太陽(たいよう)にも置鍼しました。

お腹のツボである中脘(ちゅうかん)と関元(かんげん)には、棒温灸(棒状のお灸)を使ってじんわりと温めました。

この中脘は胃腸の働きを整え、関元はお腹の冷えを取り除き、生命エネルギーを高める重要なツボです。
温灸の心地よい温熱は、患者様の体全体をリラックスさせ、内臓の働きを活性化させる効果が期待できます。
その後、これらのツボの周辺や、特に冷えを感じる下腹部に対して、米粒大の小さなお灸を直接肌に乗せる点灸(てんきゅう)を数壮施しました。
チクッとした刺激の後にじんわりと温かさが広がる点灸は、血行促進や組織の活性化に効果的です。

うつ伏せで、背中や腰にあるツボにアプローチしました。
首や肩の緊張を和らげる風池(ふうち)、精神的な緊張を和らげ血行を促進する心兪(しんゆ)、血の巡りを改善する膈兪(かくゆ)、消化器系の働きを整える脾兪(ひゆ)などに置鍼を行いました。

そして、重だるい腰痛がある部分と、「腎」の気を補う重要なツボである腎兪(じんゆ)、そして便通とも関連が深い大腸兪(だいちょうゆ)に対しては、電気鍼(パルス鍼)を使用しました。

電気鍼は、筋肉の緊張を和らげ、深部の血行を促進するのに効果的です。

2回目~4回目(1週間に2回ペース):
週に2回のペースで集中的に治療を継続しました。

とくに、患者様の主訴であるEDと関連の深い「腎虚」や下半身の冷えに対して、お腹や腰へのアプローチを重視しました。

これらの治療で、つらい症状の一つとして挙げていた腰の重だるさの改善を実感されました。
「座っていても以前ほど腰がつらくなくなった」と改善をご報告くださいました。

EDに関しては、お薬との併用ではありましたが、患者様ご自身からは「以前よりは少し好転しているようだ」といったお言葉をいただくことができました。

鍼灸治療によって体全体の血行が促進され、自律神経のバランスが整えられたことで、お薬の効果も出やすくなった、あるいは体自身の反応性が高まってきた可能性が考えられました。

治療を継続していくことで、さらなる改善が期待できる状況でしたが、患者様の仕事が忙しく、残念ながらこれ以上の継続が難しくなりました。

「腰はずいぶん楽になったし、EDも少し良くなっている感じはするけれど、まずは処方されている薬でしばらく様子を見てみたい」とのご希望があり、鍼灸治療はいったん終了することとなりました。

短期間の治療ではありましたが、ED自体にも一定の変化が見られ、何よりも長年悩まされていた慢性腰痛が改善したことは、患者様にとって大きな成果だったと考えております。

使用した主なツボとその代表的な効果

足三里(あしさんり):
膝の皿の下から指4本分下がった、向こうずねの外側にあるツボ。
全身の体力を高め、胃腸の働きを整えることで「気」を生み出す源を強化します。
足腰のだるさにも効果的で、活力を高めるために非常に良く用いられます。

太谿(たいけい):
内くるぶしとアキレス腱の間にあるツボ。
「腎」の気が集まる重要なツボであり、「腎虚」によるED、腰痛、頻尿、足腰のだるさ、冷えなどに効果が期待できます。
体の潤いを補う作用もあります。

関元(かんげん):
おへそから指4本分下がった、下腹部の中心にあるツボ。
生命エネルギーである「元気を高め、お腹を温める作用が強いツボです。
ED、頻尿、夜間頻尿、生理不順など、生殖器や泌尿器系の不調、お腹の冷えに効果的です。
お灸で温めるのに最適です。

中脘(ちゅうかん):
みぞおちとおへその真ん中にあるツボ。
胃腸の働きを整え、消化吸収を助けることで、体に必要な「気」や「血」を作り出す力を高めます。
全身のエネルギー不足(気虚)や食欲不振などにも用いられます。

腎兪(じんゆ):
腰骨の一番上の高さで、背骨から指2本分外側にある、左右一対のツボ。
「腎」の気が背中に現れる場所であり、「腎」の働きを直接的に高める効果が期待できます。
「腎虚」によるED、腰痛、頻尿、耳鳴り、精力減退などに良く用いられます。
腰痛に対しても重要なツボです。

大腸兪(だいちょうゆ):
腎兪の少し下、骨盤の上の高さで背骨から指2本分外側にあるツボ。
大腸の働きを整え、便通異常(便秘や下痢)に効果的です。腰痛にも関連が深いツボです。

風池(ふうち):
首の後ろ、髪の生え際で、二本の太い筋肉の外側にあるくぼみ。
首や肩の凝り、頭痛、眼精疲労などに効果的ですが、自律神経のバランスを整え、リラックス効果も高いツボです。

心兪(しんゆ):
左右の肩甲骨の間、背骨から指2本分外側にあるツボ。
精神的な緊張やストレスを和らげ、動悸や不眠など、心の不調に関わる症状に効果が期待できます。

膈兪(かくゆ):
心兪から指2本分下がった背骨の高さで、背骨から指2本分外側にあるツボ。
「血」の巡りを改善する効果が高いツボです。
瘀血(血の滞り)による様々な痛みに用いられます。

これらのツボは、それぞれ単独でも効果がありますが、東洋医学ではお一人おひとりの体の状態に合わせてこれらのツボを組み合わせて使用することで、より相乗効果が生まれ、体全体のバランスを効果的に整えることができると考えます。

まとめ

EDというお悩みに対して、鍼灸治療が有効な選択肢の一つとなり得ることをご紹介いたしました

短期間の治療ではありましたが、お腹や腰を中心に、患者様の状態に合わせたきめ細やかなツボ選びと手技を施した結果、長年お悩みだった慢性腰痛は早い段階で明確な改善が見られ、EDに関しても、お薬との併用ではありましたが、以前より好転の兆しが見られました。

これは、鍼灸治療が単に症状を抑えるだけでなく、体全体の機能向上や血行促進、自律神経のバランス調整といった根本的な改善を促す力を持っていることの証と言えるでしょう。

もしあなたが、EDの悩みはもちろん、体のあちこちに不調を感じているのであれば、それは体が発している大切なサインかもしれません。

一人で抱え込まず、ぜひ一度、東洋医学の視点から体全体を診ることができる鍼灸治療をご検討ください。

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