不眠症には漢方か鍼灸か?
「不眠」には漢方薬か鍼灸か?
毎晩、眠れずに過ごす時間は本当にツラいものですね。
でも、眠れないのは、あなたの心や体が「助けてほしい」と伝えているサインです。
日々のストレスや心配事、食生活の乱れ、季節の変化など、様々な問題が絡んでいるかもしれません。
漢方薬や鍼灸で体を整えることで、自然と眠れるようになることも多いです。
「今日は少しでも休めたらいい」 ぐらいの気持ちで、ご自身をねぎらってあげてください。
西洋医学では、睡眠薬などが用いられます。
東洋医学では、あなたの体質や症状に合わせて、様々なアプローチで不眠の改善を目指します。
漢方薬も鍼灸治療も、自律神経のバランスを整え、睡眠の質を向上させる効果が期待できます。
不眠の原因は一つではありません。
どうか一人で悩まず、私たち東洋医学の治療家も頼ってください。
あなたの不安を和らげ、より快適な日々を送れるよう、全力でサポートさせていただきます。
不眠で悩まれるあなたに、最初に「結論」です。
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です。
それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。
不眠と東洋医学
不眠は、現代社会において多くの人が経験する悩みの一つです。
東洋医学では、不眠は単なる症状として捉えるのではなく、その人の体質や生活習慣、精神状態などが複雑に絡み合って生じると考えます。
以下に、体質別に不眠の原因と特徴を説明します。
肝気鬱結(かんきうっけつ)タイプ
特徴:
イライラしやすい、怒りっぽい、ストレスを感じやすい、胸苦しい、ため息が多い、月経不順など
原因:
ストレスや感情の抑圧により、肝気の流れが滞ることで不眠が生じます。
不眠の特徴:
寝つきが悪い、夢が多い、イライラして眠れない、朝早く目が覚めるなど
心脾両虚(しんぴりょうきょ)タイプ
特徴:
疲れやすい、食欲不振、動悸、息切れ、健忘、不安感、顔色が悪い、手足が冷えるなど
原因:
心と脾の機能が低下し、気血が不足することで不眠が生じます。
不眠の特徴:
寝つきが悪い、眠りが浅い、夜中に何度も目が覚める、夢が多い、疲れると眠れないなど
腎陰虚(じんいんきょ)タイプ
特徴:
のぼせ、ほてり、口渇、喉の渇き、寝汗、腰痛、耳鳴り、めまいなど
原因:
腎の陰液が不足し、熱がこもることで不眠が生じます。
不眠の特徴:
寝つきは良いが、夜中に目が覚める、目が覚めると眠れない、ほてりや寝汗で目が覚めるなど
痰熱擾心(たんねつじょうしん)タイプ
特徴:
胃もたれ、吐き気、食欲不振、口内炎、便秘、落ち着きがないなど
原因:
飲食の不摂生やストレスにより、体内に痰と熱がこもり、心が乱れることで不眠が生じます。
不眠の特徴:
寝つきが悪い、夢が多い、悪夢を見る、頭が重たい、体がだるいなど
瘀血(おけつ)タイプ
特徴:
肩こり、頭痛、生理痛、シミ、クマ、舌の色が暗い
原因:
血の流れが滞り、瘀血が生じることで不眠が生じます。
不眠の特徴:
寝つきが悪い、眠りが浅い、夜中に目が覚める、痛みで眠れないなど
その他
加齢:
加齢に伴い、心身の機能が低下し、不眠が生じやすくなります。
生活習慣:
夜更かし、不規則な睡眠時間、過剰なカフェイン摂取などは、不眠の原因となります。
精神的なストレス:
ストレス、不安、悩みなどは、不眠を引き起こす大きな要因となります。
以上、
これらのタイプは複合的に現れることもあります。
例えば、気滞と血瘀が合併している場合などです。
東洋医学では、これらの体質をしっかりと見極め、根本原因にアプローチすることで、不眠の改善を目指します。
不眠に効く漢方薬の代表例
肝気鬱結(かんきうっけつ)タイプ
特徴:
イライラしやすい、怒りっぽい、ストレスを感じやすい、胸苦しい、ため息が多い、月経不順など
おすすめの漢方薬:
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
肝気の流れを整え、精神安定作用もあります。イライラや不安感が強く、眠れない場合に適しています。
加味逍遥散(かみしょうようさん)
肝気を和らげ、血を補う効果もあります。ストレスによる不眠や月経不順に伴う不眠に効果的です。
選んだ理由:
肝気鬱結タイプは、ストレスや感情の抑圧により肝気の流れが滞り、自律神経が乱れて不眠になることが多いです。
これらの漢方薬は、肝気の流れを整え、高ぶった神経を鎮めることで、不眠を改善します。
心脾両虚(しんぴりょうきょ)タイプ
特徴:
疲れやすい、食欲不振、動悸、息切れ、健忘、不安感、顔色が悪い、手足が冷えるなど
おすすめの漢方薬:
加味帰脾湯(かみきひとう)
心と脾の機能を高め、気血を補う効果があります。不安感や動悸が強く、眠りが浅い場合に適しています。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
気血を補い、体力を回復させる効果があります。疲労感が強く、眠れない場合に効果的です。
選んだ理由:
心脾両虚タイプは、心と脾の機能が低下し、気血が不足することで不眠が生じます。
これらの漢方薬は、心と脾の機能を高め、気血を補うことで、不眠を改善します。
腎陰虚(じんいんきょ)タイプ
特徴:
のぼせ、ほてり、口渇、喉の渇き、寝汗、腰痛、耳鳴り、めまいなど
おすすめの漢方薬:
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
腎陰を補い、体の熱を下げる効果があります。ほてりや寝汗が強く、夜中に目が覚める場合に適しています。
知柏地黄丸(ちばくじおうがん)
六味地黄丸に、熱を冷ます生薬を加えたものです。のぼせや口渇が特に強い場合に効果的です。
選んだ理由:
腎陰虚タイプは、腎の陰液が不足し、熱がこもることで不眠が生じます。これらの漢方薬は、腎陰を補い、体の熱を下げることで、不眠を改善します。
痰熱擾心(たんねつじょうしん)タイプ
特徴:
胃もたれ、吐き気、食欲不振、口内炎、便秘、イライラしやすい、落ち着きがないなど
おすすめの漢方薬:
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
体内の熱と毒を取り除く効果があります。イライラや不眠が強く、口内炎や便秘を伴う場合に適しています。
温胆湯(うんたんとう)
痰を取り除き、精神安定作用もあります。胃もたれや吐き気があり、夢が多い場合に効果的です。
選んだ理由:
痰熱擾心タイプは、体内に痰と熱がこもり、心が乱れることで不眠が生じます。これらの漢方薬は、体内の熱と毒を取り除き、痰を取り除くことで、不眠を改善します。
瘀血(おけつ)タイプ
特徴:
肩こり、頭痛、生理痛、シミ、クマ、舌の色が暗い、脈が滞るなど
おすすめの漢方薬:
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血の巡りを良くし、瘀血を取り除く効果があります。肩こりや頭痛があり、生理痛を伴う不眠に効果的です。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
血の巡りを強力に改善する効果があります。便秘がちで、イライラしやすい場合に適しています。
選んだ理由:
瘀血タイプは、血の流れが滞り、瘀血が生じることで不眠が生じます。これらの漢方薬は、血の巡りを良くし、瘀血を取り除くことで、不眠を改善します。
上記の漢方薬は、あくまで一般的な体質別の例です。
不眠でお悩みの場合は、専門家にご相談いただき、ご自身の体質や症状に合わせた適切な漢方薬を服用することをお勧めします。
不眠に効く鍼灸のツボ
鍼灸も漢方薬と同じく東洋医学の一角ですので、考え方は同様です。
その人の体質・状態から適したツボを選択していきます。
不眠でお悩みの方向けに、体質別に効果が期待できるツボ(経穴)を解説します。
肝気鬱結(かんきうっけつ)タイプ
おすすめのツボ:
太衝(たいしょう)
足の甲にあるツボで、肝経の気を行き渡らせる効果があります。イライラや怒り、ストレスを和らげ、精神を安定させる効果が期待できます。
合谷(ごうこく)
手の甲にあるツボで、気の巡りを良くし、自律神経を整える効果があります。ストレスによる不眠や頭痛、肩こりなどに効果的です。
選んだ理由:
肝気鬱結タイプは、ストレスや感情の抑圧により肝気の流れが滞り、自律神経が乱れて不眠になることが多いです。これらのツボは、肝気の流れを整え、高ぶった神経を鎮めることで、不眠を改善します。
心脾両虚(しんぴりょうきょ)タイプ
おすすめのツボ:
神門(しんもん)
手首にあるツボで、精神安定作用があり、不安感や動悸を和らげる効果があります。眠りが浅い、夜中に目が覚めるなどの不眠に効果的です。
足三里(あしさんり)
膝下にあるツボで、消化機能を高め、気血を補う効果があります。疲労感や食欲不振を伴う不眠に効果的です。
選んだ理由:
心脾両虚タイプは、心と脾の機能が低下し、気血が不足することで不眠が生じます。これらのツボは、心と脾の機能を高め、気血を補うことで、不眠を改善します。
腎陰虚(じんいんきょ)タイプ
おすすめのツボ:
太谿(たいけい)
足首にあるツボで、腎気を補い、体の熱を下げる効果があります。ほてりや寝汗、口渇などを伴う不眠に効果的です。
湧泉(ゆうせん)
足の裏にあるツボで、腎の機能を高め、リラックス効果があります。のぼせや不眠、イライラなどに効果的です。
選んだ理由:
腎陰虚タイプは、腎の陰液が不足し、熱がこもることで不眠が生じます。これらのツボは、腎陰を補い、体の熱を下げることで、不眠を改善します。
痰熱擾心(たんねつじょうしん)タイプ
おすすめのツボ:
内関(ないかん)
手首にあるツボで、胸苦しさや吐き気、イライラなどを和らげる効果があります。胃もたれや吐き気を伴う不眠に効果的です。
豊隆(ほうりゅう)
足にあるツボで、痰を取り除き、消化機能を高める効果があります。胃もたれや便秘を伴う不眠に効果的です。
選んだ理由:
痰熱擾心タイプは、体内に痰と熱がこもり、心が乱れることで不眠が生じます。これらのツボは、体内の熱と毒を取り除き、痰を取り除くことで、不眠を改善します。
瘀血(おけつ)タイプ
おすすめのツボ:
血海(けっかい)
膝の内側にあるツボで、血の巡りを良くし、瘀血を取り除く効果があります。生理痛や肩こりを伴う不眠に効果的です。
三陰交(さんいんこう)
内くるぶしの上にあるツボで、血の巡りを整え、婦人科系の症状を改善する効果があります。生理不順や更年期障害に伴う不眠に効果的です。
選んだ理由:
瘀血タイプは、血の流れが滞り、瘀血が生じることで不眠が生じます。これらのツボは、血の巡りを良くし、瘀血を取り除くことで、不眠を改善します。
上記のツボは、あくまで一般的な体質別の例です。
実際には、複数の要因が複合的に関わっていることもあります。
「不眠に良いツボ」は全身のあちこちにあります。
それは「不眠=頭」という考えでなく「体質の異常=全身の問題」と捉えるためで、それを改善するツボは全身にあります。
漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…
不眠でお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。
もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか。
漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。
漢方薬は費用負担が少ない可能性
漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。
他にどんな悩みがあるか?で決める
「不眠」は様々な原因が考えられますし、「不眠」のみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。
漢方薬は内臓系が得意ですので、更年期などホルモンバランスの変化や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・しびれ・自律神経の乱れなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。
通院の負担と服用の負担から考える
たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。
どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう。
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。
まとめ
最初の結論にもう一度書きます。
「不眠には漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。
漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。
1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。
2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。
3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。
4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「不眠」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。
5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。
以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。
ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。
ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。
『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』
また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。