漢方薬の基本と活用|鍼灸師による東洋医学・9

漢方薬の基本

漢方薬・写真1

漢方薬とは、自然由来の生薬を組み合わせた薬で、東洋医学の理論に基づいて作られています。

現代医学の薬が特定の症状や病気に対して即効性を重視するのに対し、漢方薬は体全体のバランスを整え、根本的な体質改善を目指します

例えば、風邪を引いたとき、現代医学では解熱剤や咳止めを処方しますが、漢方では「どのように風邪を引いたのか」に注目します。
寒さが原因なら「身体を温める」生薬を、熱がこもるタイプなら「熱を冷ます」生薬を使います。

このように、漢方では同じ病気でも体質や症状の現れ方に応じて処方が異なるのです。

生薬の基本と効能

漢方薬・写真2

漢方薬の成分は「生薬」と呼ばれる天然の植物や鉱物、動物由来の成分です。

代表的な生薬とその効能を紹介します。

葛根(かっこん):風邪の初期症状に効果的。体を温め、発汗を促します。

生姜(しょうが):胃腸を温め、冷えによる消化不良や風邪に有効。

甘草(かんぞう):炎症を鎮め、喉の痛みや胃の不調を和らげる。

桂皮(けいひ):シナモンの一種。血流を促進し、冷え性や胃腸の調子を整える。

人参(にんじん):体力を補い、疲労回復や免疫力向上に効果。

これらの生薬は単独で使われることもありますが、多くは「方剤(ほうざい)」として組み合わせて用いられます。

方剤の組み合わせと代表的な漢方薬

漢方薬・写真3

漢方薬は単一の生薬ではなく、複数の生薬を組み合わせて作られます。

これを「方剤」と呼びます。

代表的な漢方薬

葛根湯(かっこんとう):風邪の初期症状に。発汗を促し、熱を逃がす。

小青竜湯(しょうせいりゅうとう):鼻水やアレルギー性鼻炎に。水分代謝を整える。

四物湯(しもつとう):貧血や冷え性の改善に。血を補う。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう):胃腸の機能を高め、疲労回復や免疫力向上に。

八味地黄丸(はちみじおうがん):高齢者の足腰の衰えや頻尿に効果。

これらの漢方薬は、それぞれの体質や症状に応じて処方されます。
漢方薬は、医師や薬剤師に相談して選ぶのが最も確実です。

体質に合わせた漢方薬の選び方

東洋医学では「証(しょう)」という概念を使い、体質を見極めます。

大きく分けて以下のようなタイプがあります。

気虚(ききょ)タイプ(エネルギー不足)

特徴:疲れやすい、風邪を引きやすい、食欲がない
適した漢方薬:補中益気湯、人参湯

血虚(けっきょ)タイプ(血が不足)

特徴:顔色が悪い、冷え性、めまい
適した漢方薬:四物湯、当帰芍薬散

陰虚(いんきょ)タイプ(体の潤い不足)

特徴:のどが渇く、ほてり、寝汗
適した漢方薬:六味地黄丸、麦門冬湯

陽虚(ようきょ)タイプ(熱を作る力が弱い)

特徴:冷え性、むくみ、元気がない
適した漢方薬:八味地黄丸、真武湯

漢方薬を服用する際の注意点

漢方薬は自然由来ですが、誤った使い方をすると効果が出にくく、副作用が起こることもあり注意が必要です。

注意点を押さえましょう。

■用法・用量を守る

指示された量を超えて服用すると、副作用が出やすくなります。

■服用のタイミングを守る

空腹時に服用するのが基本ですが、胃が弱い人は食後に飲むのが良い場合も。

■体質に合わない場合は服用を中止する

体質や症状に合わない漢方薬を飲むと、逆効果になることもあります。
漢方薬は体質に合わせて選ぶ必要があります。
合わない場合は、症状が悪化したり、別の不調が現れたりすることがあります。

■他の薬との飲み合わせに注意する

漢方薬と西洋薬を併用する場合は、医師や薬剤師に相談してください。

■妊娠中・授乳中の方は医師に相談する

妊娠中・授乳中は、服用できる漢方薬が限られています。

■長期服用は医師や専門家に相談

効果がない場合、自己判断で長期間続けず、専門家に相談を。

今日からできる東洋医学的な養生法

漢方薬の効果を最大限に引き出すためには、日々の養生も重要です。

1. 食養生(しょくようじょう)

冷え性の人はショウガやシナモンを取り入れる。

貧血気味の人は黒ごまやなつめを食べる。

乾燥しやすい人は梨や白きくらげが良い。

2. 適度な運動

気虚タイプはウォーキングなど軽めの運動。

陰虚タイプはヨガやストレッチがおすすめ。

3. お灸やツボ押し

三陰交(さんいんこう):冷えやむくみに。

合谷(ごうこく):ストレスや頭痛に。

4. 睡眠と休養をしっかり取る

陰虚タイプの人は夜更かしを避け、早めの就寝を。

気虚タイプの人は昼寝を取り入れるのも効果的。

さいごに

漢方薬だけでなく、東洋医学の考え方を日常生活に取り入れることで、より健康な毎日を送ることができます。

たとえば…、
「食事」なら、バランスの取れた食事を心がけ、旬の食材を取り入れる。
「運動」なら、適度な運動を行い、体を動かす。
「睡眠」なら、十分な睡眠時間を確保し、質の高い睡眠をとる。
「ストレス」なら、溜め込まず、自分なりの解消法を見つける。
…などです。

これらの養生法を実践することで、体全体のバランスが整い、病気になりにくい体を作ることができます。

漢方薬は単なる薬ではなく、体質や生活習慣を整えるための大切なツールです。
自分の体質を知り、適切な漢方薬や養生法を取り入れることで、健康を維持しやすくなります。

無理なくできる範囲で、少しずつ東洋医学の知恵を生活に取り入れてみましょう。