血液透析患者のかゆみへの鍼治療の効果

透析掻痒症が鍼治療で改善

透析のかゆみへの鍼灸・写真1

血液透析を続けるうちに、全身のかゆみに悩まされていませんか?
透析患者の約4~7割が経験するといわれる「透析掻痒症」。

なかなか治らず、夜も眠れないほどつらい方も多いです。

しかし、鍼治療がこの掻痒感を軽減する可能性があることをご存じでしょうか?
実際に、鍼が透析患者のかゆみを和らげたという研究報告もあります。

今回は、血液透析とその副作用であるかゆみに鍼灸がどう良いのかについてご紹介します

血液透析とは何か?どういう人が受けるのか?

透析のかゆみへの鍼灸・写真2

腎臓は本来、血液をろ過し、老廃物や余分な水分を尿として排出する働きを持っています。

しかし、腎臓がうまく働かなくなると、これらの老廃物が体内に蓄積し、健康を害してしまいます。
そこで、人工的に血液を浄化するのが血液透析です。

血液透析は、腎臓の機能が大きく低下し、体内の老廃物や余分な水分を排出できなくなった人が受ける治療です。

具体的には、患者さんの血液を体外に取り出し、ダイアライザーと呼ばれる特殊な機械を通して老廃物や余分な水分を取り除き、きれいになった血液を再び体内に戻すという仕組みで行われます。

慢性腎不全や糖尿病性腎症などで腎機能が低下した方に行われ、日常生活を送る上で支障が出てきた方や、生命維持が困難になった方が対象となります。
週に2~3回、1回あたり数時間かけて行われることが一般的で、患者さんにとっては生活の一部となる、非常に重要な治療法です。

血液透析が続くと起こる副作用について

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血液透析は、生命を維持するために不可欠な治療法ですが、長く続けていると様々な副作用が現れることがあります。

■透析掻痒症(とうせきそうようしょう)

患者さんを悩ませる症状の一つが「掻痒感(そうようかん)」、つまり「かゆみ」です。

透析患者さんの約40~70%が経験すると言われるこのかゆみは、その原因が一つではなく、複合的な要因によって引き起こされると考えられています。

主な原因としては、

体内に蓄積した老廃物: 尿として排出されるはずだった老廃物が、透析だけでは十分に除去しきれず、皮膚に刺激を与えることがあります。

リンの蓄積: 腎臓機能の低下により、血液中のリンのバランスが崩れ、かゆみを引き起こすことがあります。

ドライスキン: 透析によって体内の水分量が変動しやすく、皮膚が乾燥しやすくなることがあります。

免疫系の異常: 腎不全によって免疫系のバランスが崩れ、かゆみが生じることがあります。

末梢神経障害: 透析によって末梢神経が障害され、かゆみを感じやすくなることがあります。

これらの要因が複雑に絡み合い、透析患者さんを慢性的なかゆみに苦しめているのです。
このかゆみは、日常生活に大きな支障をきたし、睡眠不足や精神的なストレスの原因となることも少なくありません。

■低血圧やめまい

透析中に血圧が急低下し、ふらつきや気分不快を感じる。

■こむら返り

足やふくらはぎの筋肉が急にけいれんする。

■だるさや疲労感

透析後に強い倦怠感を感じる人も多い。

とくに透析掻痒症は、日常生活の質(QOL)を著しく低下させ、睡眠障害やストレスの原因にもなります。

東洋医学的に血液透析を受ける人たちをどう見るか?

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東洋医学では、体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素によって構成されていると考えます。
これらの要素がバランス良く体内を巡ることで、私たちは健康な状態を維持できます。

腎臓は、東洋医学では「腎(じん)」と呼ばれ、生命エネルギーの源である「精(せい)」を貯蔵し、水分代謝を司る重要な臓器と考えられています。

腎不全により腎の機能が低下すると、この「腎」の働き低下し、「気」「血」「水」の流れも滞りやすくなります。

透析治療を受けている状態は、東洋医学的に見ると、体内の老廃物である「瘀血(おけつ)」や余分な水分である「痰湿(たんしつ)」が蓄積しやすく、「気血(きけつ)不足」の状態に陥っていると考えられます

とくに、透析患者さんの多くが訴えるかゆみは、この「瘀血」や「痰湿」が皮膚に滞り、気の巡りを阻害することで引き起こされると捉えられます。

また、皮膚の乾燥は「血虚(けっきょ)」、つまり血の不足によって皮膚が十分に潤されないために起こるとも考えられます。

当院では、患者さんの脈の状態、舌の状態、お腹の状態などを詳しく観察し、東洋医学的な視診・聞診・問診・切診を行うことで、一人ひとりの体の状態を丁寧に把握します。

そして、その方の体質や症状に合わせて、最適な鍼灸治療を組み立てていきます。

鍼灸ができることはなにか?

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東洋医学に基づく鍼灸では、以下のような方法で透析掻痒症を改善することができます。

■瘀血・痰湿の除去
特定のツボを刺激することで、体内に滞った老廃物や余分な水分を排出しやすくする。

■気血の巡りの改善
全身の気の流れをスムーズにし、血行を促進することで、皮膚への栄養供給を促し、かゆみを和らげる。

■皮膚の潤いを保つ
血を補い、水を生み出すツボを刺激することで、皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を高める。

■自律神経の調整
ストレスや不安を和らげ、自律神経のバランスを整えることで、かゆみの悪化を防ぐ。

■体の深部を温める
温熱刺激によって血行を促進し、冷えによるかゆみを改善する。

■免疫力の向上
体の抵抗力を高め、皮膚の炎症を抑える。

■リラックス効果
心身をリラックスさせ、かゆみによるイライラを鎮める。

このように、鍼灸治療は、透析患者さんの体質や症状に合わせて、様々な角度からかゆみにアプローチすることができるのです。

当院では、マッサージや整体といった手技療法は行わず、鍼とお灸に特化した専門的な施術を提供しています。

鍼は、髪の毛ほどの細い使い捨ての鍼を使用するため、痛みはほとんどありません。お灸も、直接皮膚に触れない温かいお灸を使用するため、熱いと感じることはほとんどありませんので、安心して施術を受けていただけます。

透析患者の掻痒感が鍼で改善する論文の内容紹介

『透析患者の掻痒感に対する鍼治療の効果:準ランダム化比較試験の結果』
https://www.ejim.mhlw.go.jp/doc/pdf/h14.pdf

■目的: 透析患者が抱える慢性的な搔痒感に対する鍼治療の有効性を評価するために実施された。

■研究デザイン: 準ランダム化比較試験(クロスオーバー)

■セッティング: 三重県内のT病院

■参加者: 透析療法を受けている患者18名(男性7名、女性11名、平均年齢64.9±9.8歳)。

■研究方法
患者は2群に分け、A群は最初に鍼治療を受け、その後無治療期間を経て観察。
一方、B群は無治療期間の後に鍼治療を受けた。

鍼治療にはセイリン社製の「パイオネックス 0.6mm」を使用し、12週間の間に24回(セルフケア12回+鍼灸師による治療12回)施術を行った。

■主な評価指標と結果

掻痒感:
鍼治療群では掻痒感が減少。

患者の主観的評価:
治療終了後のアンケートでは、掻痒感・こり感・めまい・イライラ感・だるさの軽減を感じた患者が多かった。
治療形式としては、治療者による施術とセルフケアの併用を希望する患者が最も多かった(9名)。

■結論
セルフケアを含む円皮鍼を用いた鍼治療は、透析患者の掻痒感をはじめとする愁訴に対して有効である可能性が示唆された
とくに、セルフケアを取り入れることで、自宅での管理が可能となり、継続的な治療が期待できる。

当院でも、この研究結果を参考に、患者さんの状態に合わせて鍼治療とセルフケアのアドバイスを行っています。
ご希望の方には、ご自宅で簡単にできるお灸の方法などもお伝えしていますので、お気軽にご相談ください。

まとめ

透析患者の多くが悩む「掻痒感」。
西洋医学ではなかなか解決できないこの症状に、鍼灸が有効である可能性が示されています。

東洋医学では、腎の働きを補い、血流を改善することで、かゆみの根本原因にアプローチします。

さらに、今回紹介した研究では、鍼治療が掻痒感を軽減することが確認されており、セルフケアと併用することで、自宅でもケアが可能になることも示唆されています。

もし透析に伴うかゆみに悩んでいるなら、一度鍼灸を試してみませんか?
あなたの体質に合わせた施術を行い、日々のつらさを軽減するお手伝いをします。

当院では、透析患者さんの症状改善に向けた施術を行っています。

ご興味がある方は、ぜひ一度ご相談ください。

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