鍼灸が鎮痛に効果的である理由|末梢神経編
鍼灸が鎮痛に効果的である理由・末梢編
現代医学的な鎮痛機序に焦点を当て、東洋医学の知識がない方にもわかりやすく解説する記事を作成しました。
ここでは「末梢の鎮痛の仕組み」に絞って記述しています。
末梢と中枢の違い
まずは前提として、神経系の末梢と中枢の違いを説明しておきます。
神経系は、身体内外からの情報を収集し、分析・統合し、適切な反応を引き出すための複雑なネットワークです。
この神経系は、大きく「中枢神経系」と「末梢神経系」に分けられます。
■ 中枢神経系
中枢神経系は、「脳」と「脊髄」からなります。
神経系の司令塔としての役割を担っています。
◎脳:
複雑な情報処理、思考、感情、運動の制御など、高次な機能を司ります。
◎脊髄:
脳からの指令を末梢へ伝え、末梢からの情報を脳へ伝える役割を担っています。
また、反射的な運動を制御する中枢でもあります。
■ 末梢神経系
末梢神経系は、中枢神経系から枝分かれし、全身に張り巡らされた神経線維のネットワークです。
中枢神経系と身体の各組織を結びつけ、情報の伝達を担っています。
末梢神経系は、さらに以下の2つに分けられます。
◎ 体性神経系:
運動神経と感覚神経から構成され、意識的な運動や感覚(触覚、痛覚、温度覚など)を伝えます。
◎ 自律神経系:
交感神経と副交感神経から構成され、呼吸、心拍、消化、発汗など、無意識的な身体機能の調節を担います。
鍼灸の末梢神経における鎮痛の仕組み
鍼灸は、中国伝統医学に根ざした治療法であり、その鎮痛効果は広く知られています。
そもそも鍼灸治療は、鍼(はり)や灸(きゅう)を用いて、経穴(けいけつ)と呼ばれる特定の部位を刺激することで、生体の機能調整や症状改善を図るものです。
経穴は、神経や血管、リンパ管などが集中する部位であり、鍼や灸による刺激は、これらの組織に様々な反応を引き起こします。
それら反応は、現代医学的にも解明されてきています。
その中でも鍼灸による鎮痛効果は、末梢、脊髄、中枢(脳)の各レベルで生じますが、ここでは、末梢における鎮痛機序について詳しく解説します。
侵害受容器の抑制
侵害受容器は、痛み刺激を感知する神経終末です。
ようは「痛みを感知するセンサー」です。
鍼刺激によって、組織内で「アデノシン」という物質が生成されます。
このアデノシンは、神経終末にあるアデノシンA1受容体と結合し、痛みの信号伝達を抑制します。
エンドルフィンやダイノルフィンといった内因性オピオイドなどの神経伝達物質も出るため、侵害受容器の感受性を低下させます。
これらにより、痛みの感覚が軽減されます。
鍼灸刺激により「痛みセンサーが働きづらくなる物質」が出るので、局所での痛みが抑えられるわけです。
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神経線維の興奮抑制
鍼刺激は、痛みを伝える神経線維の興奮を抑制する効果もあります。
とくに、Aδ線維と呼ばれる比較的太い神経線維を刺激することで、C線維と呼ばれる細い神経線維の興奮を抑制し、痛みの伝達を遮断する効果があります。
これは、ゲートコントロール理論と呼ばれるメカニズムによって説明されます。
血行改善と炎症抑制
鍼灸刺激は、局所の血流を改善する効果があります。
これにより、酸素や栄養素の供給が増加し、炎症性物質(痛みの原因物質)の除去が促進されます。
結果として、組織の回復が早くなり、痛みの軽減につながります。
また、鍼刺激は、炎症に関与するサイトカインの産生を抑制する効果も報告されています。
これは、「痛みの元(炎症性物質)そのものが作られづらくなる作用」です。
筋緊張の緩和
鍼灸刺激は、筋肉の緊張を緩和する効果があります。
筋肉の緊張は、痛みや不快感の原因となることがありますが、鍼灸によって筋肉が弛緩することで、これらの症状が軽減されます。
まとめ
鍼灸は、末梢、脊髄、中枢の各レベルで鎮痛効果を発揮する複合的な治療法です。
末梢においては、侵害受容器の抑制、神経線維の興奮抑制、血行改善と炎症抑制、筋緊張の緩和などが、鍼灸の鎮痛効果に関与するメカニズムとして考えられています。
内容は少し難しかったかもしれませんが、鍼灸をしたその場所自体で痛みを軽減させる作用が複数働いています。
それが現代医学的にも分かってきた、という内容でした。