体質別で異なる鍼灸の施術時間

体質別による鍼灸の施術時間の違い

体質別施術時間・写真1

鍼灸治療を受ける際、「施術時間はどのくらいかかりますか?」という質問をよくいただきます。

実はこの質問に対する答えは一律ではありません。

東洋医学では体質やその日の体の状態によって、施術の組み立て方や時間が変わってきます。
今回は、東洋医学的な体質によって、どのように施術時間を調整しているのかについて詳しく解説します

東洋医学における体質とは

東洋医学では、人の体を単なる物質の集合体として捉えるのではなく、「気」「血」「水(津液)」という3つの要素が体内を巡り、バランスを保つことで健康が維持されていると考えます。

これらのバランスが崩れた状態を「体質(証)」と呼び、その人の生まれ持った体質や生活習慣、現在の健康状態などによって、様々なタイプに分類されます。

当院では、東洋医学の診断法である脈診、舌診、腹診、そして患者様の詳しいお話を伺う問診を通じて、これらの「気」「血」「水」の過不足や滞りを見極め、お一人おひとりの体質を丁寧に判別していきます。

西洋医学的な病名だけでなく、その病気の背景にある「なぜそうなっているのか」という根本的な原因を東洋医学的な体質として捉えることが、鍼灸治療において最も重要だと考えています。

東洋医学では、人の体をいくつかの体質に分類して考えます。
主な体質は以下の通りです。

■気虚(エネルギー不足の体質)
体質別施術時間・写真2
「気」は生命活動のエネルギーであり、不足すると疲れやすい、倦怠感がある、声が小さい、めまいがするといった症状が現れます。
胃腸が弱い方や、病後の回復期にある方にも多く見られます。

■血虚(血が不足している体質)
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「血」は全身に栄養と潤いを供給する役割を担っています。
血が不足すると、顔色が悪い、貧血気味、立ちくらみ、髪や肌の乾燥、生理不順などが現れやすくなります。

■陰虚(体の潤いが不足している体質)
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「陰」は体の潤いや冷却作用を指します。
陰が不足すると、口や喉の渇き、寝汗、微熱、ほてり、目の乾燥などが現れます。
更年期の女性に多く見られる体質です。

■陽虚(体が冷えている体質)
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「陽」は体を温め、活動を促すエネルギーを指します。
陽が不足すると、手足の冷え、頻尿、下痢、むくみなどが現れます。

■気滞(気の巡りが悪い体質)
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「気」の流れが滞ると、イライラ、憂鬱感、胸や脇腹の張り、生理前の不調などが現れます。
ストレスが主な原因となることが多いです。

■血瘀(血の流れが悪い体質)
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「血」の流れが滞ると、生理痛、子宮筋腫、子宮内膜症、肩こり、頭痛、青あざができやすいといった症状が現れます。

■水滞(水分代謝が悪い体質)
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「水」の代謝が滞ると、むくみ、めまい、吐き気、下痢、痰が多いなどが現れます。

これらの体質によって、施術の時間や刺激の強さが異なります。

体質別の施術時間の考え方

東洋医学的な体質(証)が異なれば、体にアプローチすべきツボ(経穴)や鍼の刺激量、お灸の種類と時間も変わってきます。

当院では、それぞれの体質に合わせた最適な施術時間を設定することで、より効果的な治療を目指します。

気虚・血虚・陽虚・陰虚などの虚証タイプ

■施術時間は短めで、穏やかな刺激が基本です。

特徴は、疲れやすい、冷えやすい、顔色が悪い、体力が落ちているなどです。

施術時間の目安は30分分程度。刺激も弱めに設定します。

理由は、虚証タイプの人に長時間の施術や強い刺激を行うと、かえって体がだるくなったり、疲労感が強く出ることがあるためです。
少ないツボで的確にアプローチし、エネルギーを補うことを重視します。

気滞・血瘀・水滞などの実証または半実証タイプ

■施術時間はやや長めで、しっかりと流すことが必要です。

特徴は、ストレスが多い、肩こり、頭痛、便秘、お腹が張る、血流が悪いなどです。

施術時間の目安は40分程度。刺激はやや強めに設定します。

理由は、滞りが強い場合は、気や血の流れをしっかり整える必要があるからです。
ツボの数も多くなり、刺鍼の時間も長めにすることで反応が良くなります。

陰陽のバランスが大きく崩れているタイプ

冷えのぼせ、不眠、めまい、動悸、強い疲労感がある人です。

施術時間はその日の体調に合わせて30分から40分の間で調整します。

理由は、体調の変動が大きいため、状態によって必要な刺激量が変わるからです。
調子が良ければややしっかり、疲れているときは短めかつ穏やかに進めます。

症状別の施術時間の違い

■急性の痛みや症状(ぎっくり腰、寝違えなど)

20分から30分程度の短めの施術が効果的です。
必要最小限のツボを使い、症状の鎮静を優先します。

■慢性疾患(不妊症、自律神経失調症、冷え性など)

40分程度が目安です。
体質改善を目的とし、全身のバランスを整えるために十分な時間をかけます。

不妊治療・婦人科系疾患(生理不順、子宮筋腫、子宮内膜症)
これらの症状は、血虚や血瘀、陽虚など複数の体質が絡み合っていることが多く、体質改善にはじっくりと時間をかけた全身調整が必要です。
そのため、40分程度の施術時間を確保し、全身のツボにアプローチして、根本的な体質改善を目指します。

自律神経失調症(めまい、動悸、倦怠感)
ストレスや疲労が原因となることが多く、気滞や気虚、陰虚などの体質が混在します。
心身のリラックスと気の巡りを整えることが重要であり、30分~40分程度で、心地よい刺激を重視した施術を行います。

冷えとストレス
これらは多くの不調の根源となるため、冷えには温めるお灸を時間をかけて施し、ストレスには気の巡りを整える鍼を用いるなど、それぞれの状態に合わせて施術時間を調整します。

緑内障や眼精疲労など目のお悩み
目の症状であっても、単に目だけを診るのではなく、東洋医学では肝(かん)や腎(じん)といった臓腑との関連を重視します。
そのため、目周辺のツボだけでなく、全身のバランスを整えるツボにもアプローチし、40分程度の施術時間を設けて根本的な改善を目指します。

癌の代替療法としての抗がん剤の副作用対策
治療によって体力や免疫力が低下している方が多く、体への負担を考慮した上で、丁寧に気の巡りや血流を整えていきます。
患者さんのその日の体力や体調に合わせて、無理のない範囲で施術時間を調整します。

なぜ施術時間の調整が必要なのか

東洋医学には「過ぎたるは及ばざるがごとし」という考えがあります。

多ければ良い、長ければ良いというものではなく、必要なところに必要なだけの刺激が最も効果的です。

また、治療には「補う」と「瀉す」という二つの方向性があります。
虚証の人には補う施術が必要で、これは短めで穏やか。実証の人には瀉す施術が必要で、やや長めでしっかりとした刺激が効果的です。

さらに、その日の体の状態によっても施術時間は調整が必要です。

例えば、同じ人でも疲れている日と元気な日では、反応の仕方が全く異なります。

そのため、毎回、脈、舌、腹診を行い、その日のベストな施術時間と刺激量を判断しています。

まとめ

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鍼灸はオーダーメイドの医療です。
体質や体の状態、症状によって適切な施術時間が自然と決まってきます。

疲れている人には短めで穏やかな施術を。
滞りが強い人にはやや長めでしっかりとした施術を。
そしてその日の体調に合わせて毎回最適な治療を行います。

当院では、初回にしっかりとお話を伺い、体質を丁寧に見極めた上で、その方に最も合った施術時間と刺激量で進めています。

自分の体に合う鍼灸がどんなものか知りたい方は、ぜひ一度ご相談ください。
あなたの体に合わせた最適な施術をご提案します。

してご相談いただければと思います。