立冬|鍼灸師が教える二十四節気の健康法

立冬の今できる健康法について

立冬の健康法・写真1

立冬(りっとう)は二十四節気の19番目で、例年11月7日頃にあたります。
2025年は11月7日です。

朝晩の冷え込みが増し、街路樹の葉も色づき始める頃です。
この日を境に暦の上では冬に入り、朝夕の冷え込みが一層厳しくなってきます。

自然界では、動物たちが冬ごもりの準備を始め、植物も生長を止め、地中深くへとエネルギーを蓄える時期です。
冬は「蔵(ぞう)」の季節ともいわれ、東洋医学ではエネルギーを内側に蓄え、身体を休めることが重要とされます。

冷えによって体調を崩しやすくなる時期でもあり、内臓や心身を守る生活が求められます。

今回は「立冬(りっとう)」の時期を健やかに過ごすためのヒントをお届けしますので、ぜひ最後までお読みください

立冬の頃に起こりうる心身の不調

立冬を迎えるこの時期は、日照時間の減少と気温の低下が顕著になり、私たちの心身に様々な影響を及ぼします。

東洋医学では、冬は「腎(じん)」の働きが重要になると考えられており、この腎のバランスが崩れることで、様々な不調が現れやすくなります。

冷えの影響

まず、冷え性の悪化は、立冬の代表的な不調の一つです。

寒さとともに「陽気(ようき)」が内にこもり、血行が滞りがちになることで、肩こりや頭痛、冷え症、不眠、肌の乾燥などのトラブルも起こりやすくなります

女性は、この冷えが婦人科系の不調、例えば生理不順の悪化や、生理痛の増強につながることが少なくありません。
子宮や卵巣の血流が悪くなることで、これらの症状が顕著に出やすくなります。

腎(じん)への影響

また、東洋医学において「腎」は生命エネルギーの源とされ、骨や髪、耳、生殖器と密接に関わっています。

腎の機能が低下すると、耳鳴りや難聴といった耳の不調、抜け毛の増加や白髪の進行、そして足腰の重だるさや膝の痛みといった症状が現れやすくなります。

メンタル面への影響

精神面では、日照時間の減少が気分の落ち込みや意欲の低下を引き起こしやすくなります。

日照量が減ると、精神の安定に寄与するセロトニンの分泌が抑制されがちです。

これにより、自律神経のバランスが乱れやすくなり、不眠や目覚めの悪さ、めまい、動悸、倦怠感といった自律神経失調症の症状が悪化することがあります。

また、ストレスやプレッシャーを感じやすい現代社会において、冬の寒さはさらに心に負担をかけ、漠然とした不安感や焦燥感を感じる方も少なくありません。
仕事や家事、育児に追われる30代から50代の女性は、常に気が張り詰めている状態になりやすく、自律神経の乱れからくる様々な不調に悩まされがちです。

これら「冬季うつ」のような傾向が出てくるのは、東洋医学でいう「腎気」の低下により、心身の活力が不足している状態とも解釈されます。

免疫への影響

さらに、寒さによって体の防御機能が低下し、風邪を引きやすくなることも挙げられます。

空気が乾燥し、インフルエンザなどのウイルスが活発になるこの時期は、免疫力の低下がそのまま感染症のリスクを高めます。

これらの不調は、一見するとそれぞれが独立しているように見えますが、東洋医学的には「腎」のバランスの乱れや「冷え」が根本的な原因となっていることが少なくありません。

心身のサインに耳を傾け、早めに対処することが、健やかな冬を過ごす鍵となります。

立冬の頃の東洋医学的な健康法

立冬の時期に起こりやすい心身の不調を避けるためには、東洋医学の知恵を活かした日々の養生が非常に重要です。

冷えから体を守る「温活」の徹底

立冬以降は本格的に寒くなるため、体を温めることが何よりも大切です。

■服装の工夫
首、手首、足首の「三首」を温めることが特に重要です。
ここには太い血管が通っており、温めることで全身の血行が良くなります。
マフラーや手袋、レッグウォーマーなどを活用し、外出時はもちろん、室内でも冷やさない工夫をしましょう。
腹巻やカイロをお腹や仙骨(お尻の上部)に貼るのも効果的です。

■入浴で温める
シャワーで済ませず、湯船に浸かる習慣をつけましょう。
38~40℃程度のぬるめのお湯に15~20分程度ゆっくり浸かることで、体の芯から温まり、リラックス効果も高まります。
生姜や柚子、日本酒などを少量お風呂に入れると、血行促進効果や香りのリラックス効果が期待できます。

■温かい飲食物を摂る
冷たい飲み物や生野菜は体を冷やすため、控えめにしましょう。
温かいお茶(ほうじ茶、番茶、生姜湯など)やスープ、煮込み料理などを積極的に摂りましょう。
体を温める性質のある食材(根菜類、生姜、にんにく、ネギ、シナモンなど)を意識して取り入れると良いでしょう。

「貯蔵」と「休息」を意識した生活習慣

冬は自然界が活動を控え、エネルギーを蓄える時期です。
私たちもこの自然のリズムに合わせ、無理なく過ごすことが大切です。

■十分な睡眠の確保
早寝早起きを心がけ、質の良い睡眠をたっぷりとることが重要です。
夜更かしはエネルギーを消耗し、腎の負担となります。
就寝前はデジタルデバイスの使用を控え、リラックスできる環境を整えましょう。

■適度な運動
冬は活動量が減りがちですが、全く体を動かさないのは血行不良を招きます。
激しい運動は避け、ウォーキングや軽いストレッチ、ヨガなど、無理なく続けられる運動を日中に取り入れましょう。
午前中に日光を浴びながら行うことで、セロトニンの分泌を促し、気分の安定にもつながります。

■ストレス管理
仕事、家事、育児と忙しい毎日の中で、ストレスは心身のバランスを大きく崩します。
意識的に休息をとり、好きな音楽を聴く、アロマを焚く、友人と話すなど、自分なりのストレス解消法を見つけて実践しましょう。
完璧を求めすぎず、時には「まあいいか」と自分を許すことも大切です。

「腎」を養う食生活

東洋医学で冬の養生と深く関わる「腎」は、生命力や生殖能力、骨、髪、耳などと関連しています。
腎を養う食材を意識して取り入れましょう。

■黒い食材
黒豆、黒ごま、ひじき、わかめ、昆布、のり、きくらげなど、黒い色の食材は腎を補うとされています。

■粘り気のある食材
山芋、蓮根、オクラ、納豆など、粘り気のある食材も腎を潤すと考えられています。

■滋養強壮に良い食材
くるみ、栗、卵、エビ、豚肉、鶏肉なども、体を温め、腎の働きを助ける効果が期待できます。

■香辛料
生姜、ネギ、唐辛子、山椒など、体を温める香辛料を料理に活用しましょう。

■塩分は控えめに
過度な塩分摂取は腎に負担をかけるとされています。
味付けは薄めにし、素材の味を活かした料理を心がけましょう。

これらの健康法は、日々の少しの意識と工夫で実践できるものです。

全てを一度に行う必要はありません。
ご自身のライフスタイルに合ったものから、少しずつ取り入れてみてください。

継続することで、冬の不調に負けない、健やかな心身を育むことができるでしょう。

立冬の頃におススメのツボ

上記の健康法に加え、鍼灸施術では不調に合わせたツボ(経穴)を使って、体質改善を促します。
ここでは、立冬の時期の不調に効果的なツボを3つご紹介します。

■三陰交(さんいんこう)

内くるぶしのいちばん高いところに小指をおき、指幅4本そろえて、人さし指があたっているところが三陰交です。

効果: 三陰交は、足の三つの陰経(脾経、肝経、腎経)が交わる要穴です。
女性にとって非常に重要なツボで、冷え性、生理不順、生理痛、更年期症状といった婦人科系の不調全般に効果的です。
また、消化器系の働きを整えたり、自律神経のバランスを調整する効果も期待できます。
体が温まりにくい冬に、このツボを刺激することで、全身の血行が促進され、冷えの改善に繋がります。
不妊治療中の方にとっても、子宮や卵巣への血流を改善し、着床しやすい環境を整える上で重要なツボです。

■足三里(あしさんり)

膝のお皿のすぐ下、外側のくぼみに人差し指を置き、指幅4本揃えて小指が当たっているところにあります。

効果: 足三里は「胃経」に属するツボで、「胃腸の働きを整える万能ツボ」として知られています。
消化吸収能力を高め、全身のエネルギー(気)の生成を促進します。
冬は体がエネルギーを蓄える時期であり、消化吸収がスムーズに行われることは、冷えにくい体を作る上で不可欠です。
また、気力や体力アップにも繋がり、倦怠感や疲労感の改善にも効果的です。免疫力向上にも寄与するため、風邪予防にも役立ちます。

■湧泉(ゆうせん)

足でグーをした時、足裏でいちばんへこんでいるところが湧泉です。足裏を3等分して約3分の1のところです。

効果: 湧泉は「腎経」の始まりのツボであり、生命エネルギーの源である「腎」の働きを補う非常に重要なツボです。
このツボを刺激することで、足元から体の奥深くまで温め、冷え性の改善に繋がります。
また、腎の機能が補われることで、疲労回復、気力の向上、不眠の改善、自律神経の安定にも効果が期待できます。
足元が冷えてなかなか眠れない方や、慢性的な疲労感がある方におすすめです。

ツボを自分で探す時のコツ

より効果的なツボをご自身で探す際は、以下の点を意識してみてください。

ツボの基本位置を確認

鍼灸院での指導や書籍、ウェブサイトなどでツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴の場合、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりに位置します。

押して探す

だいたいの目安の場所の近辺を指で軽く押しながら、周囲を探ります。
「イタ気持ちいい」感覚や、ズーンと響くような感覚がある場所が、ツボの可能性が高いです。
合谷であれば、骨の交わる部分からやや人差し指側を探ると、凹みがあり、圧痛を感じる場所が見つかるはずです。

体の反応をみる

ツボを押すと、血行が良くなったり、体が温まったりする感覚がある場合があります。

ただし、ツボの位置は個人差がありますので、あくまで目安として捉え、無理に強い力で押さないように注意しましょう。
もし不安な場合は、鍼灸師などの専門家にご相談ください。

せんねん灸(台座灸)の使い方と注意点

ご自宅で手軽にできるセルフお灸として、「せんねん灸」の使い方と注意点について解説します。

「せんねん灸」は、ドラッグストアなどで手軽に購入できるお灸の製品名です。
せんねん灸タイプのお灸は「台座灸」と呼びます。

せんねん灸と似たような形の他の商品も多数あり、使用方法などは基本的には同様です。

せんねん灸の使い方

種類を選ぶ

「せんねん灸」には様々な種類があります。
せんねん灸

「ソフト(弱)」「レギュラー(中間)」「あつめ(強)」の3つの種類があります。
せんねん灸種類
初めての方は、熱さが「マイルドなタイプ」から試してみることをお勧めします。

ツボの場所を決める

どのツボを使うかはあらかじめ決めておき、ツボの目安を指でさぐりながらより効き目の高いポイントを決めて、ペンなどで印をつけます。

準備

お灸を据える場所を清潔にし、皮膚に異常がないか確認します。

台座の裏紙を剥がす

「せんねん灸」の台座裏についている薄い紙を剥がします。

もぐさに点火

巻きもぐさの先端に線香などで火をつけます。

皮膚に据える

火がついた「せんねん灸」を、ツボに据えます。
熱さを感じたら、無理せずすぐに取り外してください。我慢は禁物です。

取り外す

使用後、完全に火が消えていることを確認してからとりあえずして、捨ててください。

お灸をする上での注意事項

・熱さを我慢しない
熱すぎると感じたら、すぐに取り外してください。無理に我慢すると、やけどの原因になります。

・同じ場所に続けて据えない
皮膚に負担がかかるため、同じ場所に続けてお灸を据えるのは避けましょう。

・顔面、粘膜、傷口、炎症部位への使用は避ける
これらの部位は皮膚がデリケートなため、お灸の使用は避けてください。

・発熱時、飲酒時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける
体調が優れない時は、お灸を控えるようにしましょう。

・皮膚の弱い方、アレルギー体質の方は注意
使用前に必ずパッチテストを行うか、医師や薬剤師に相談してください。

・使用中に異常を感じたら、直ちに使用を中止し、医師に相談
万が一、皮膚に異常が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医師の診察を受けてください。

・乳幼児への使用は避ける
小さなお子様への使用はお控えください。

・火の取り扱いに注意
火を使うため、火災には十分に注意してください。
周囲に燃えやすいものがないことを確認し、換気をしながら行いましょう。

上記に注意して、安全にせんねん灸をご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。

セルフケアのツボ押しの方法と注意点

ご自宅で簡単にできるセルフケアとして、ツボ押し(マッサージ)について解説いたします。
ツボ押しは、体の不調を和らげたり、リラックス効果を高めたりするのに役立ちます。

ツボ押しの方法

リラックスできる環境を整える

静かな場所で、楽な姿勢で行いましょう。

ツボの位置を確認

書籍やウェブサイトなどで、目的のツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴は、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりです。

指の腹で押す

親指や人差し指の腹を使い、ツボを垂直に押します。爪を立てないように注意しましょう。

適度な力で押す

「イタ気持ちいい」と感じる程度の力で、ゆっくりと押します。
強く押しすぎると、痛みを感じたり、皮膚を傷めたりする可能性があります。

時間をかけて押す

1つのツボにつき、5秒から10秒程度、ゆっくりと押したり離したりを繰り返します。数回繰り返すと効果的です。

呼吸を意識する

力を入れる時に息を吐き、力を抜く時に息を吸うと、よりリラックスできます。

温めてから行うと効果的

入浴後など、体が温まっている状態で行うと、血行が促進され、より効果を感じやすくなります。

ツボ押しをする上での注意事項

・食直後、飲酒時、発熱時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける:
体調が優れない時は、ツボ押しを控えましょう。

・皮膚に炎症や傷がある場合は避ける:
患部を刺激することで、症状が悪化する可能性があります。

・強く押しすぎない:
強い力で押すと、筋肉や血管を傷つける可能性があります。あくまで「イタ気持ちいい」程度の力で行いましょう。

・長時間同じ場所を押さない:
皮膚に負担がかかるため、長時間同じ場所を押すのは避けましょう。

・力を抜くことを意識する:
力を入れっぱなしにすると、筋肉が緊張してしまい、効果が得られにくくなります。

・体調に異変を感じたら中止する:
ツボ押し中に体調が悪くなった場合は、直ちに中止し、必要に応じて医師に相談してください。

・乳幼児へは避ける:
小さなお子様へはお控えください。

・持病のある方は医師に相談:
心臓疾患や高血圧など、持病のある方は、ツボ押しを行う前に医師に相談してください。

上記に注意して、安全にツボ押しをご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。

まとめ

立冬は、本格的な冬の準備期間であり、私たちの心身が「貯蔵」と「休息」へとシフトしていく大切な時期です。
この時期に起こりやすい冷え、婦人科系の不調、自律神経の乱れ、そして目の疲れなどは、日々の養生と東洋医学の知恵で改善できることがたくさんあります。

このような季節だからこそ、食事・睡眠・生活習慣を通して「温めて養う」ことが何より大切です。

セルフケアで健康な心身を養ってください。

また、セルフケアだけでは改善しないようなお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください。
当院では丁寧なカウンセリングと、本格的な東洋医学鍼灸であなたの健康をサポートいたします。