メニエールには漢方か鍼灸か?
「メニエール」には漢方薬と鍼灸どちらを選ぶ?
メニエール病でおツラい日々をお過ごしのことと存じます。
めまい、耳鳴り、難聴といった症状は、日常生活に大きな支障をきたし、心身ともに大きな負担となりますね。
長年の経験から、メニエール病は単なる耳の病気ではなく、心身全体のバランスの崩れが大きく関与していると考えています。
西洋医学的な治療に加えて、東洋医学の視点から心身両面へのアプローチも有効です。
東洋医学では、メニエール病は「水滞(すいたい)」や「気滞(きたい)」といった状態と捉え、体内の水分代謝の乱れや気の巡りの滞りを改善する漢方薬や鍼灸で治療します。
気の流れを整え、自律神経のバランスを調整する効果が期待できます。
大切なのは、焦らずじっくりと向き合うことです。
症状の波に合わせて、無理のない生活を心がけ、心身のリラックスを意識してください。
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、自然治癒力を高める上で重要です。
当院では、患者さん一人ひとりに寄り添った治療を行っております。
つらい症状でお悩みの際は、いつでもご相談ください。必ず力になれると信じております。
メニエールで悩まれるあなたに、最初に「結論」です。
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です。
それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。
メニエールと東洋医学
東洋医学では、メニエール病を単なる内耳の疾患として捉えるのではなく、体全体のバランスの乱れと考えます。
体の中にある「気血水」の量や巡りが適切であると健康でいられ、量の過不足・巡りの滞りがあると病気となると考えています。
メニエールは、とくに「水(すい)」と呼ぶ、水分代謝の異常が原因となる考えています。
さらに、個々の体質も大きく関与しており、体質によって現れる症状も異なると考えます。
以下、東洋医学におけるメニエール病の原因を体質別に分けて説明いたします。
水滞(すいたい)体質
この体質は、体内の水分代謝がうまく行われず、余分な水分が滞っている状態です。
メニエール病においては、内耳の内リンパ液の過剰な貯留と関連付けられます。
むくみやすい、冷えやすい、胃腸が弱い、めまいが起こりやすい、雨の日や湿気の多い日に症状が悪化しやすいなどが起こりやすいタイプです。
メニエール病との関連では、体内に余分な水分が停滞することで、内耳の内リンパ液の吸収が阻害され、内リンパ水腫を引き起こしやすくなります。
症状では、めまいの他に、頭重感、耳鳴り、吐き気などを伴うことが多いです。
気滞(きたい)体質
この体質は、気の巡りが滞っている状態です。
精神的ストレスや過度な緊張によって気の流れが滞りって様々な症状を引き起こします。
ストレスを感じやすい、イライラしやすい、憂鬱になりやすい、胸のつかえや腹部の膨満感を感じやすい、自律神経の乱れが出やすいなどが起こりやすいタイプです。
メニエール病との関連では、ストレスによって自律神経が乱れ、内耳の血流が悪化したり、内リンパ液の産生と吸収のバランスが崩れたりすることが考えられます。
症状ではめまいの他に、耳の閉塞感、耳鳴り、難聴などを伴うことが多いです。
腎虚(じんきょ)体質
東洋医学でいう「腎」は内臓系のひとつで、西洋医学の腎臓の機能だけでなく、成長、発育、生殖、水分代謝など、生命の根本的なエネルギーを司ると考えられています。
腎虚体質は、この「腎のエネルギーが不足した状態」です。
腰や膝のだるさや痛み、足腰の冷え、頻尿や尿漏れ、耳鳴り、聴力低下、老化現象が早いなどが起こりやすいタイプです。
メニエール病との関連では、「腎」は水分の代謝をコントロールする役割も担っているため、腎虚になると水分の代謝異常が生じやすくなります。
また、「腎」は耳とも密接な関係があるとされており、腎虚によって内耳の機能が低下し、メニエール病を発症しやすくなると考えられます。
症状ではめまいの他に、耳鳴り、難聴、ふらつきなどを伴うことが多いです。
肝陽上亢(かんようじょうこう)体質
この体質は、気が過剰に上昇して熱化している状態です。
精神的な興奮やストレス、高血圧などが原因で起こりやすいです。
のぼせやすい、顔が赤くなりやすい、イライラしやすい、怒りっぽい、頭痛、めまい、耳鳴りなどが起こりやすいタイプです。
メニエール病との関連では、気が上にのぼる(肝陽上亢と言います)によって、内耳の血流が過剰になり、内リンパ液のバランスが崩れることが考えられます。
症状ではめまいの他に、耳鳴り、頭痛、目の充血などを伴うことが多いです。
以上、
これらの体質は単独で現れるだけでなく、複合的に現れることもあります。
例えば、水滞と気滞の両方の特徴を持つ方もいらっしゃいます。
東洋医学では、これらの体質を見極め、根本原因にアプローチすることで、メニエール病の症状改善を目指します。
メニエールに効く漢方薬の代表例
メニエールで悩む人に対して体質別に効果が期待できる漢方薬を挙げ、その理由を説明します。
ただし、漢方薬は実際の体質や症状に合わせて処方されるべきものですので、参考程度に留め、必ず専門家に相談してください。
水滞(すいたい)体質
代表的な症状:
むくみやすい、冷えやすい、胃腸が弱い、めまいが起こりやすい、雨の日や湿気の多い日に症状が悪化しやすい。
適した漢方薬:
・苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
水分の偏在を改善する代表的な漢方薬です。
めまい、ふらつき、頭重、吐き気などに効果があります。
胃腸の働きを高めて水分の代謝を促し、余分な水分を排出する作用があります。
特に、めまいとともに胃腸の不調を伴う場合に適しています。
・五苓散(ごれいさん)
口渇があり、尿量が少ない場合に適しています。
体内の水分バランスを調整し、水分の偏在を改善します。
急性のめまい発作や、吐き気、嘔吐などを伴う場合に用いられます。
気滞(きたい)体質
代表的な症状:
ストレスを感じやすい、イライラしやすい、憂鬱になりやすい、胸のつかえや腹部の膨満感を感じやすい、自律神経の乱れが出やすい。
適した漢方薬と理由:
・半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
めまい、頭痛、肩こりなどを伴う場合に適しています。
気の巡りを改善し、自律神経のバランスを整える作用があります。
とくに、ストレスが原因でめまいが悪化する場合に効果的です。
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
女性に多く見られる体質で、イライラ、不安、不眠などを伴う場合に適しています。
気の巡りを整え、精神を安定させる作用があります。
更年期の女性のめまいにも用いられます。
腎虚(じんきょ)体質
代表的な症状:
腰や膝のだるさや痛み、足腰の冷え、頻尿や尿漏れ、耳鳴り、聴力低下、老化現象が早い。
適した漢方薬と理由:
・八味地黄丸(はちみじおうがん)
下半身の冷え、腰痛、頻尿などを伴う場合に適しています。
「腎」の機能を補い、水分代謝を改善する作用があります。
高齢者のめまいや、耳鳴り、難聴などに用いられます。
・六味地黄丸(ろくみじおうがん)
八味地黄丸から附子(ぶし)と桂皮(けいひ)を除いた処方で、比較的体力のない方に向いています。
めまいとともに、目の疲れ、かすみ目などを伴う場合に適しています。
肝陽上亢(かんようじょうこう)体質
代表的な症状:
のぼせやすい、顔が赤くなりやすい、イライラしやすい、怒りっぽい、頭痛、めまい、耳鳴り。
適した漢方薬と理由:
・釣藤散(ちょうとうさん)
めまい、頭痛、肩こり、高血圧などを伴う場合に適しています。
肝の興奮を鎮め、血圧を下げる作用があります。
とくに、高血圧傾向のある方のめまいに効果的です。
以上、
あくまで一般的な例であり、個々の体質や症状によって最適な漢方薬は異なります。
また、「メニエール病にはこの薬」のような病名からの処方ではなく、「その人の体質・状態にはこの薬」という体質からの処方が勧められます。
ですので、同じ病名に悩む人にも異なる漢方薬が出ることも少なくありません。
こういう治療の組み立てをするのが東洋医学です。
メニエールに効く鍼灸のツボ
鍼灸も漢方薬と同じく東洋医学の一角ですので、考え方は同様です。
その人の体質・状態から適したツボを選択していきます。
メニエールでお悩みの方向けに、体質別に効果が期待できるツボ(経穴)を解説します。
水滞(すいたい)体質
代表的な症状:
むくみやすい、冷えやすい、胃腸が弱い、めまいが起こりやすい、雨の日や湿気の多い日に症状が悪化しやすい。
適したツボ:
・水分(すいぶん)
体内の水分代謝を調整する作用があり、余分な水分の排出を促します。
とくに、むくみや胃腸の不調を伴う場合に効果的です。
・陰陵泉(いんりょうせん)
水分代謝を調整し、下半身のむくみや冷えを改善する作用があります。
足のむくみや重だるさを伴う場合に適しています。
気滞(きたい)体質
代表的な症状:
ストレスを感じやすい、イライラしやすい、憂鬱になりやすい、胸のつかえや腹部の膨満感を感じやすい、自律神経の乱れが出やすい。
適したツボと理由:
・内関(ないかん)
気の巡りを改善し、精神を安定させる作用があります。
吐き気や動悸を伴うめまいに効果的です。
・太衝(たいしょう)
肝の気を巡らせ、イライラや怒りを鎮める作用があります。
ストレス性のめまいに効果的です。
腎虚(じんきょ)体質
代表的な症状:
腰や膝のだるさや痛み、足腰の冷え、頻尿や尿漏れ、耳鳴り、聴力低下、老化現象が早い。
適したツボと理由:
・腎兪(じんゆ)
「腎」の機能を補い、腰痛や足腰の冷えを改善する作用があります。
耳鳴りや聴力低下を伴うめまいに効果的です。
・太谿(たいけい)
「腎」の機能を高め、全身の機能を活性化する作用があります。
足腰の冷えやむくみ、めまい、耳鳴りなどに効果があります。
肝陽上亢(かんようじょうこう)体質
代表的な症状:
のぼせやすい、顔が赤くなりやすい、イライラしやすい、怒りっぽい、頭痛、めまい、耳鳴り。
適したツボと理由:
・風池(ふうち)
肝の興奮を鎮め、頭痛やめまいを和らげる作用があります。
首や肩のこりを伴うめまいに効果的です。
・百会(ひゃくえ)
頭部の血流を改善し、めまいや頭痛を和らげる作用があります。
のぼせやイライラを伴うめまいに効果的です。
以上、
「メニエールに良いツボ」も全身のあちこちにあります。
それは「メニエール病=内耳=顔や頭」という考えでなく「体質の異常=全身の問題」と捉えるためで、それを改善するツボは全身にあります。
漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…
メニエールでお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。
もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか。
漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。
漢方薬は費用負担が少ない可能性
漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。
他にどんな悩みがあるか?で決める
「メニエール病」は様々な原因が考えられますし、「メニエール病」のみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。
漢方薬は内臓系が得意ですので、更年期などホルモンバランスの変化や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれ・自律神経の乱れなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。
通院の負担と服用の負担から考える
たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。
どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう。
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。
まとめ
最初の結論にもう一度書きます。
「メニエールには漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。
漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。
1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。
2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。
3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。
4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「メニエール」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。
5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。
以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。
ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。
ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。
『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』
また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。