小雪|鍼灸師が教える二十四節気の健康法

小雪の今できる健康法について

小雪の健康法・写真1

小雪(しょうせつ)は二十四節気の20番目で、毎年11月22日ごろから12月6日ごろまでの期間を指します。
2025年は11月22日です。

本格的な冬の訪れを前に、ちらほらと雪が舞い始める頃を指します。
まだ積もるほどではないものの、日差しが弱まり、北風が冷たくなり、木々の葉もすっかり落ちて、自然界は静かに冬支度を進めていきます。

私たち人間も、自然のリズムに合わせて心身を整えることが大切になる時期です。

この時期は、東洋医学でいう「陰」が深まり「陽」が衰えていく変化の時。
心身ともに寒さに順応していく準備が大切です。

今回は「小雪(しょうせつ)」の時期を健やかに過ごすためのヒントをお届けしますので、ぜひ最後までお読みください

小雪の頃に起こりうる心身の不調

小雪の頃は、気候の変化が著しく、私たちの心身にもさまざまな影響を及ぼします。

東洋医学では、この時期を「冬の始まり、陰の気が増していく時期」と捉え、腎(じん)や肺(はい)の機能が影響を受けやすいと考えます。

自律神経系への影響

まず、気温の低下と日照時間の減少は、自律神経の乱れを引き起こしやすくなります。

体が寒さに適応しようと交感神経が優位になりがちですが、十分な活動がないとバランスが崩れ、めまいや動悸、倦怠感といった自律神経失調症の症状が出やすくなります。
日中に太陽の光を浴びる機会が減ることで、セロトニンという精神を安定させるホルモンの分泌が減り、気分の落ち込みや不眠につながることも少なくありません。

当院には、まさにこの時期に「何となくやる気が出ない」「寝つきが悪くなった」といったお悩みを抱えて来院される方が多くいらっしゃいます。

冷えの影響

冷えの影響を強く受けやすい時期です。
とくに「手足の冷え」「下半身の冷え」を訴える方が増えてきます。
東洋医学では、寒さは「寒邪(かんじゃ)」という邪気とされ、寒邪は体の陽気(あたためる力)を損ない、気血の巡りを妨げると考えます。
そのため、肩こり・腰痛・関節痛・生理痛などの痛みが悪化しやすくなります。

また、東洋医学でいう「腎」は生命エネルギーの源であり、体を温める働きも担っています。
この時期に腎の機能が低下すると、体の冷えがより顕著になり、婦人科系疾患の悪化にもつながりやすくなります。
生理痛が重くなったり、生理周期が乱れたりするケースも増える傾向にあります。

乾燥の影響

さらに、乾燥した冷たい空気は、「肺(はい)=呼吸器系」に負担をかけます。

喉の乾燥や咳、鼻炎といった症状が出やすくなるだけでなく、抵抗力が落ちることで風邪をひきやすくなります。

東洋医学では、肺は体のバリア機能を司ると考えられており、肺の機能が低下すると、外部からの邪気(風邪やウイルスなど)が侵入しやすくなります。

メンタル面への影響

精神面では、年末に向けて忙しさが増すことや、寒さによる外出の減少などから、ストレスを抱えやすくなるのもこの時期の特徴です。

ストレスは気の巡りを滞らせ、イライラしたり、気分が沈んだり、時には食欲不振や胃腸の不調として現れることもあります。
仕事や家事、育児に追われる30代から50代の女性の患者さんは、心身の疲労が蓄積しやすく、不調を訴える方が増える傾向にあります。

当院にいらっしゃる患者さんの中には、不妊治療と並行して、ストレスによる心身の不調を改善したいと希望される方も少なくありません。

小雪の時期の不調は、単一の症状として現れるのではなく、複数の症状が複雑に絡み合って現れることが多いため、全身のバランスを整える東洋医学的なアプローチが非常に有効です。

小雪の頃の東洋医学的な健康法

小雪の時期の心身の不調を避けるためには、日々の生活に東洋医学的な知恵を取り入れることが非常に有効です。

冷え対策

まず、最も大切なのは「体を冷やさないこと」です。
東洋医学では、「冷えは万病のもと」と考えます。

首、手首、足首の「三首」を温めることが重要です。
外出時はもちろん、室内でも、スカーフやレッグウォーマー、厚手の靴下などを活用し、冷たい空気が直接肌に触れないように心がけましょう。

また、湯船にゆっくり浸かることも血行促進に効果的です。
38~40℃くらいのぬるめのお湯に20分ほど浸かることで、体の芯から温まり、リラックス効果も高まります。
シャワーだけで済ませず、湯船に浸かる習慣をつけましょう。

食養生

次に、「食養生」も非常に重要です。

この時期は、体を温める食材を積極的に摂り入れましょう。
根菜類(大根、ごぼう、にんじんなど)、生姜、ねぎ、にんにく、唐辛子などの体を温める作用のある食材、そして冬が旬の食材(カニ、カキ、リンゴなど)は、自然の恵みをいただきながら体を養うことができます。

また、体を冷やす作用のある生野菜や、冷たい飲み物は控えめにし、温かいスープやお茶などを摂るようにしましょう。
黒い色の食材(黒豆、黒ごま、ひじき、わかめなど)は、東洋医学で腎を養うとされており、この時期に積極的に摂りたい食材です。

日常生活での工夫

「良質な睡眠」も心身のバランスを保つ上で欠かせません。
日照時間が短くなる冬は、夜が長くなる自然のリズムに合わせて、早めに就寝し、十分な睡眠時間を確保することが大切です。

寝る前にリラックスできる環境を整え、スマートフォンやパソコンの使用は控えめにしましょう。
アロマテラピーや温かいハーブティーなども、心地よい眠りへと誘ってくれます。
睡眠は、体の修復と再生を促し、免疫力を高める上で非常に重要な役割を担っています。

さらに、「適度な運動」も大切です。
寒くなるとどうしても活動量が減りがちですが、全く体を動かさないと、血行が悪くなり、気分も沈みがちになります。
ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。
午前中に太陽の光を浴びながらのウォーキングは、自律神経のバランスを整え、セロトニンの分泌を促す効果も期待できます。

ただし、体が冷えた状態で激しい運動をすると、かえって体を痛める可能性があるので、準備運動をしっかり行い、温かい服装で臨むようにしましょう。

メンタル対策

最後に、「精神的な安定」も心身の健康には不可欠です。

ストレスは、気の巡りを滞らせ、体の不調を引き起こす大きな要因となります。

趣味に没頭する時間を作ったり、友人とのおしゃべりを楽しんだり、瞑想や呼吸法を取り入れたりするなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。
当院にいらっしゃる患者さんの中には、日々の忙しさから自分のケアを後回しにしがちな方が多いのですが、ご自身の心と体の声に耳を傾ける時間を持つことの重要性をお伝えしています。

東洋医学では、心と体は密接に繋がっていると考えますので、心の状態を整えることが、体の健康にも繋がるのです。
これらの健康法は、日々の小さな習慣の積み重ねが、大きな変化を生み出します。

小雪の頃におススメのツボ(経穴)

東洋医学的な健康法と合わせて、鍼灸治療では以下のようなツボを使うことで、小雪の頃の不調に効果的にアプローチできます。

■太谿(たいけい)

内くるぶしとアキレス腱のほぼ中央のくぼみにあります。

効果:腎経の原穴(重要なツボ)です。
腎を補い、冷えを和らげる効果があります。
冷えからくる頻尿・むくみ・倦怠感にも有効で、冬の基本的な養生穴として非常に重宝されます。

■中脘(ちゅうかん)

おへそに小指をあてて、親指までの指幅5本。親指があたっているところを目安にして指でやさしくなでるとへこみがあるところ。

効果:胃腸の働きを整える作用があります。
寒さで弱った「脾胃(ひい)」を助け、食欲不振や胃もたれ、気の不足による疲労感にも効果的です。

■肺兪(はいゆ)

胸椎の3番目と4番目の間でへこんでいる部分から指幅2本分外側です。

効果:肺の働きを整えます。
空気の乾燥や寒さでダメージを受けやすい肺を補い、免疫力を高めたり、咳やのどの違和感を和らげます。

これらのツボは、ご自宅でのお灸や指圧でも効果を期待できますが、鍼灸師による専門的な施術では、患者さんの体質や症状に合わせた最適なアプローチを行うことで、より高い効果を引き出すことができます。

ツボを自分で探す時のコツ

より効果的なツボをご自身で探す際は、以下の点を意識してみてください。

ツボの基本位置を確認

鍼灸院での指導や書籍、ウェブサイトなどでツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴の場合、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりに位置します。

押して探す

だいたいの目安の場所の近辺を指で軽く押しながら、周囲を探ります。
「イタ気持ちいい」感覚や、ズーンと響くような感覚がある場所が、ツボの可能性が高いです。
合谷であれば、骨の交わる部分からやや人差し指側を探ると、凹みがあり、圧痛を感じる場所が見つかるはずです。

体の反応をみる

ツボを押すと、血行が良くなったり、体が温まったりする感覚がある場合があります。

ただし、ツボの位置は個人差がありますので、あくまで目安として捉え、無理に強い力で押さないように注意しましょう。
もし不安な場合は、鍼灸師などの専門家にご相談ください。

せんねん灸(台座灸)の使い方と注意点

ご自宅で手軽にできるセルフお灸として、「せんねん灸」の使い方と注意点について解説します。

「せんねん灸」は、ドラッグストアなどで手軽に購入できるお灸の製品名です。
せんねん灸タイプのお灸は「台座灸」と呼びます。

せんねん灸と似たような形の他の商品も多数あり、使用方法などは基本的には同様です。

せんねん灸の使い方

種類を選ぶ

「せんねん灸」には様々な種類があります。
せんねん灸

「ソフト(弱)」「レギュラー(中間)」「あつめ(強)」の3つの種類があります。
せんねん灸種類
初めての方は、熱さが「マイルドなタイプ」から試してみることをお勧めします。

ツボの場所を決める

どのツボを使うかはあらかじめ決めておき、ツボの目安を指でさぐりながらより効き目の高いポイントを決めて、ペンなどで印をつけます。

準備

お灸を据える場所を清潔にし、皮膚に異常がないか確認します。

台座の裏紙を剥がす

「せんねん灸」の台座裏についている薄い紙を剥がします。

もぐさに点火

巻きもぐさの先端に線香などで火をつけます。

皮膚に据える

火がついた「せんねん灸」を、ツボに据えます。
熱さを感じたら、無理せずすぐに取り外してください。我慢は禁物です。

取り外す

使用後、完全に火が消えていることを確認してからとりあえずして、捨ててください。

お灸をする上での注意事項

・熱さを我慢しない
熱すぎると感じたら、すぐに取り外してください。無理に我慢すると、やけどの原因になります。

・同じ場所に続けて据えない
皮膚に負担がかかるため、同じ場所に続けてお灸を据えるのは避けましょう。

・顔面、粘膜、傷口、炎症部位への使用は避ける
これらの部位は皮膚がデリケートなため、お灸の使用は避けてください。

・発熱時、飲酒時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける
体調が優れない時は、お灸を控えるようにしましょう。

・皮膚の弱い方、アレルギー体質の方は注意
使用前に必ずパッチテストを行うか、医師や薬剤師に相談してください。

・使用中に異常を感じたら、直ちに使用を中止し、医師に相談
万が一、皮膚に異常が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医師の診察を受けてください。

・乳幼児への使用は避ける
小さなお子様への使用はお控えください。

・火の取り扱いに注意
火を使うため、火災には十分に注意してください。
周囲に燃えやすいものがないことを確認し、換気をしながら行いましょう。

上記に注意して、安全にせんねん灸をご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。

セルフケアのツボ押しの方法と注意点

ご自宅で簡単にできるセルフケアとして、ツボ押し(マッサージ)について解説いたします。
ツボ押しは、体の不調を和らげたり、リラックス効果を高めたりするのに役立ちます。

ツボ押しの方法

リラックスできる環境を整える

静かな場所で、楽な姿勢で行いましょう。

ツボの位置を確認

書籍やウェブサイトなどで、目的のツボの位置を確認します。
たとえば「合谷(ごうこく)」穴は、手の甲、親指と人差し指の骨が交わるあたりです。

指の腹で押す

親指や人差し指の腹を使い、ツボを垂直に押します。爪を立てないように注意しましょう。

適度な力で押す

「イタ気持ちいい」と感じる程度の力で、ゆっくりと押します。
強く押しすぎると、痛みを感じたり、皮膚を傷めたりする可能性があります。

時間をかけて押す

1つのツボにつき、5秒から10秒程度、ゆっくりと押したり離したりを繰り返します。数回繰り返すと効果的です。

呼吸を意識する

力を入れる時に息を吐き、力を抜く時に息を吸うと、よりリラックスできます。

温めてから行うと効果的

入浴後など、体が温まっている状態で行うと、血行が促進され、より効果を感じやすくなります。

ツボ押しをする上での注意事項

・食直後、飲酒時、発熱時、妊娠中、体力が著しく低下している時は避ける:
体調が優れない時は、ツボ押しを控えましょう。

・皮膚に炎症や傷がある場合は避ける:
患部を刺激することで、症状が悪化する可能性があります。

・強く押しすぎない:
強い力で押すと、筋肉や血管を傷つける可能性があります。あくまで「イタ気持ちいい」程度の力で行いましょう。

・長時間同じ場所を押さない:
皮膚に負担がかかるため、長時間同じ場所を押すのは避けましょう。

・力を抜くことを意識する:
力を入れっぱなしにすると、筋肉が緊張してしまい、効果が得られにくくなります。

・体調に異変を感じたら中止する:
ツボ押し中に体調が悪くなった場合は、直ちに中止し、必要に応じて医師に相談してください。

・乳幼児へは避ける:
小さなお子様へはお控えください。

・持病のある方は医師に相談:
心臓疾患や高血圧など、持病のある方は、ツボ押しを行う前に医師に相談してください。

上記に注意して、安全にツボ押しをご活用ください。
ご不明な点があれば、お近くの鍼灸師にご相談ください。

ドライヤーお灸のやり方と注意事項

ドライヤーお灸は、火を使わずにドライヤーの温風を利用してツボを温める、手軽で安全な方法です。
広い範囲を温める場合や、火を使うお灸に抵抗がある方や、初めてお灸を試す方におすすめです。

ドライヤーお灸のやり方

準備

ドライヤーと、もしあればですが、姿見もしくは手鏡を用意します。
手鏡があると、背中など見えにくい部分のツボを温める際に便利です。

温風の当て方

ドライヤーを肌から5~10cmほど離します。
近すぎると熱くなりすぎるため、必ず距離を保ってください。

温風の温度は、低温(50~60度程度)に設定します。
ドライヤーに温度調節機能がない場合は、ドライヤーと肌の距離を調整することで熱さを調節します。
熱く感じたらすぐにドライヤーを離すようにしてください。

温風を当てる時間は、1つのツボにつき、熱いと感じたら離す、を5回程度繰り返します。
連続して長時間当て続けるのは避けましょう。

温める場所

特定のツボを意識する必要はありますが、厳密な位置にこだわる必要はありません。
ドライヤーの温風は比較的広い範囲に当たるため、「面」で温めるイメージで大丈夫です。
ツボの周辺をじんわりと温めることで、効果が期待できます。

行う頻度

朝晩2回程度行うのがおすすめです。
ご自身の体調や生活に合わせて、無理のない範囲で行ってください。

ドライヤーお灸の注意事項

・怪我や炎症、痛みなどで熱を持っている部位には使用しないでください。症状が悪化する可能性があります。

・泥酔時や発熱時など、体調がすぐれない場合は使用を控えましょう。

・他人にドライヤーお灸を行うのは避けてください。
温度の感じ方には個人差があり、火傷をさせてしまう可能性があります。

・使用中に皮膚に異常(赤み、かゆみ、痛みなど)が現れた場合は、直ちに使用を中止し、必要に応じて医師に相談してください。

・同じ部位に長時間当て続けないように注意してください。
低温火傷の原因となることがあります。

まとめ

小雪は冬の入り口にあたる節気で、寒さと乾燥、日照不足といった環境の変化が心身に影響を与える時期です。

この時期を健やかに過ごすには、「冷えの予防」「肺と腎の養生」「規則正しい生活リズム」がとても大切です。

東洋医学では、自然と調和しながら無理なく生活することが健康の基本とされています。
体の声に耳を傾け、早めの養生を心がけることで、冬本番を元気に乗り越える力が育まれていきます。

ただし、セルフケアだけは改善の難しい不調にお悩みでしたら、ぜひ当院へお気軽にご相談ください。
東洋医学の智慧を活かし、あなたの健康を全力でサポートいたします。

ご自身の体と心の声に耳を傾け、健康で充実した毎日を送るために、鍼灸治療を生活に取り入れてみてください。