置鍼(ちしん)時間について

置鍼時間の使い分け

置鍼時間・写真2

置鍼(ちしん)とは、身体に鍼を刺した状態で一定時間そのままにして置くことです
ツボへの鍼刺激を、より効果的に発揮させるための鍼の技術のひとつです。

この置鍼時間は、患者さんの状態、主訴、体質、治療目的、そして手技の選択(瀉法・補法)に基づいて総合的に判断しています。
またもちろん、施術者側の「どのような施術スタイルか」によっても、置鍼時間の目安は異なります。

今回は、当院での施術スタイルを念頭に、置鍼時間について解説していきます
※当院では「置鍼+棒灸」や「置鍼+点灸」など合わせて施術することも多く、置鍼時間は基本的に短めとなりますが、総合的に必要な刺激量をツボに与えるように心がけています。

置鍼時間の基本的な考え方

置鍼時間・写真1

置鍼時間は、般的に(教科書的に)「10分から30分程度」が目安とされていますが、これはあくまでも一般的な範囲であり、患者さんの反応を見ながら柔軟に対応します。

以下に、置鍼時間を決定する際の考慮事項を挙げます。

患者さんの状態と主訴

■急性期の症状
急な痛みや炎症など、急性期の症状に対しては、短時間(5~10分程度)で弱い刺激を与えます。
同時にお灸なども併せることで、速効性を狙うことが多いです。

■慢性期の症状
慢性的な肩こり、腰痛、自律神経の不調など、長期にわたる症状に対しては、比較的長めの時間(15分程度)をかけて、じっくりと身体の調整を図ります。

■疲労度・体力
体力が低下している方や、過労、体調不良が顕著な方には、身体への負担を考慮し、短めの置鍼時間とします。
刺激過多にならないよう注意が必要です。

治療目的

■鎮痛・筋緊張緩和
痛みの軽減や筋肉の弛緩が目的の場合、症状の程度にもよりますが、ある程度の置鍼時間(15分)を設けることが多いです。
電気の治療を加えることもあります。

■自律神経調整・リラックス
心身のリラックスや自律神経のバランスを整えることが目的の場合、比較的長めの置鍼時間(20分)で、穏やかな刺激を与えることで、より深いリラックス効果が期待できます。

■臓腑調整・体質改善
臓腑の機能改善や体質そのものを見直すような根本治療では、長めの置鍼時間を取り、身体全体のバランスが整うのを待ちます。

患者さんの感受性

鍼の刺激に対する感受性は個人差が大きいです。
初めて鍼治療を受ける方や、刺激に敏感な方には、短めの時間から開始し、徐々に慣れていただくようにします。

置鍼中に、痛みや不快感、気分が悪くなるなどの異変がないか、常に患者さんの表情や状態を観察し、必要であれば直ちに抜鍼します。

使用する鍼の種類と本数

太い鍼や多くの本数を使用し刺激量を大きくした場合は、置鍼時間は短めにします。

穏やかな刺激を目指す場合は、比較的長めの置鍼時間で対応することもあります。

瀉法(しゃほう)と補法(ほほう)における置鍼時間の違い

置鍼時間・写真3

瀉法と補法では置鍼時間を変えることが一般的です。
これは、それぞれの治療目的と身体への作用が異なるためです。

■瀉法(しゃほう)

身体の「実」(過剰な状態、熱、痛み、炎症、気の滞りなど)を取り除くこと。具体的には、緊張した筋肉を緩める、痛みを和らげる、炎症を鎮める、気の滞りを解消するなどが挙げられます。

鍼を深く刺入したり、雀啄術(じゃくたくじゅつ:鍼を上下に小刻みに動かす手技)や捻鍼術(ねんしんじゅつ:鍼をひねる手技)などで強めの刺激を与えることが多いです。

置鍼時間は「短時間(5分程度)」を基本とします。

強い刺激で「邪」(病気の原因となるもの)を速やかに排除したい場合や、急性の強い痛みがある場合に適用します。

長時間の置鍼は、かえって身体に負担をかけたり、瀉しすぎたりするリスクがあるため、避ける傾向があります。

ただし、深部の頑固な凝りや痛みの場合は、短時間で効果が出ないこともあり、状況によっては少し長めに置くこともあります。

■補法(ほほう)

身体の「虚」(不足した状態、気力低下、冷え、疲労、機能低下など)を補い、身体の機能を高めること。
具体的には、気血の巡りを良くする、温める、機能を賦活させるなどが挙げられます。

鍼を浅く刺入したり、静かに留置したり、ゆっくりと引き抜いたりするなど、比較的穏やかな刺激を与えることが多いです。

置鍼時間は「長め(15分程度)」を基本とします。

身体がじっくりと変化するのを促す目的があるため、ある程度の時間をかけて鍼を置くことで、生体反応が穏やかに、かつ持続的に起こることを期待します。

慢性的な疲労、冷え性、自律神経失調症など、身体全体の調整が必要な場合に有効です。

患者さんがリラックスできる環境を整え、穏やかな時間を提供することも重要です。

まとめ

置鍼時間・写真4

鍼灸師としての経験から、置鍼時間の決定はマニュアル通りに一律で行うのではなく、常に患者さん一人ひとりの状態と反応に細心の注意を払い、オーダーメイドで判断することが最も重要だと考えています。

治療中は、患者さんに「何か変わりはありませんか?」「痛みや不快感はありませんか?」と適宜声かけを行い、安心感を提供することも大切です。

これにより、患者さんの身体が最も良い状態で治療を受け入れ、効果を最大限に引き出すことができると信じています。。