立秋|鍼灸師が教える二十四節気の健康法
立秋の今できる健康法について
今回は、二十四節気の13番目の「立秋(りっしゅう)」について、東洋医学の観点から解説していきます。
2025年の立秋は8月7日です。
8月7日から次の二十四節気の次の処暑の8月23日までの15日間ぐらいを指します。
暦の上では秋の始まりとされる「立秋」は、まさに夏の盛り。
この日から暦の上では秋に入りますが、実際にはまだ夏の暑さが続き、「残暑」と呼ばれる時期です。
厳しい暑さが続く中にも、朝晩の風に涼しさが感じられたり、夕焼けの空に秋の気配が感じられたり、少しずつではありますが、季節の移ろいを実感できることから「立秋」と名づけられました。
東洋医学では「秋」は「肺」と関係が深く、乾燥(燥邪)や冷えによる影響が出やすくなります。
夏の盛りの「暑邪(しょじゃ)」がまだ残る中で、「燥邪」が加わることで、身体に様々な影響が出やすくなります。
この時期の過ごし方が、秋から冬にかけての体調に大きく影響するため、身体の声に耳を傾け、適切なケアを行うことが大切です。
立秋の頃に起こりうる心身の不調
立秋の頃は、夏の暑さがピークを迎える一方で、空気の乾燥が徐々に進むため、心身に様々な不調が現れやすくなります。
東洋医学の観点から見ると、この時期は「暑邪」と「燥邪」という二つの邪気が身体に影響を及ぼすため、注意が必要です。
まず、「暑邪」の影響です。
連日の猛暑による熱中症は言わずもがな、身体の内側にも熱がこもりやすくなります。
これにより、以下のような症状が現れやすくなります。
■全身倦怠感、疲労感、だるさ
暑さによって体力が消耗し、気(エネルギー)が不足するため、身体が重く、動きたくないと感じるようになります。
■食欲不振、消化不良
暑さで胃腸の働きが低下し、消化吸収能力が落ちるため、食欲がわかなかったり、食べたものが胃にもたれたりします。
■発汗過多、口の渇き
身体が熱を排出しようと過剰に汗をかくことで、体内の水分が失われ、口や喉の渇きを感じやすくなります。
■不眠、寝苦しさ
身体にこもった熱が脳を興奮させ、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
■イライラ、焦燥感
熱が心(しん)に影響を与え、精神的な興奮状態が続き、些細なことでイライラしたり、落ち着きがなくなったりします。
次に、「燥邪」の影響です。
立秋を過ぎると、徐々に湿度が下がり、空気が乾燥してきます。
この乾燥は、特に東洋医学でいう「肺(はい)」の働きに影響を与え、以下のような症状を引き起こしやすくなります。
■皮膚の乾燥、かゆみ
身体の外側から乾燥が進むことで、皮膚の潤いが失われ、カサつきやかゆみを感じやすくなります。
アトピー性皮膚炎などが悪化することもあります。
■喉の乾燥、咳、声枯れ
呼吸器系の粘膜が乾燥し、喉の不快感、空咳、声のかすれなどが現れることがあります。
喘息の症状が悪化することもあります。
■鼻の乾燥、鼻血
鼻腔内も乾燥しやすく、鼻の不快感や、些細な刺激で鼻血が出やすくなることがあります。
■便秘
腸内の潤いが不足することで、便が硬くなり、排便が困難になることがあります。
■髪のパサつき、抜け毛
頭皮や髪の毛も乾燥の影響を受け、パサつきや抜け毛が増えることがあります。
■目の乾燥、かゆみ
目の潤いが失われ、ドライアイのような症状や、目の痒みを感じやすくなります。
これらの症状は単独で現れることもありますが、複数の症状が複合的に現れることも少なくありません。
例えば、夏の疲れで食欲が落ち、さらに乾燥で喉が渇き、不眠が続くといった悪循環に陥ることもあります。
東洋医学でいう「肺」は、皮膚や粘膜、呼吸器を司る臓腑であり、また「悲しみ」などの感情とも関連が深いとされています。
そのため、乾燥が進むと、肌荒れや呼吸器症状だけでなく、精神的な落ち込みや気分の沈みを感じやすくなる方もいらっしゃいます。
このような心身の不調は、日々の生活習慣や食生活によってさらに悪化する可能性があります。
身体のサインを見逃さず、早期に対処することが、健やかな秋を迎えるための鍵となります。
不調を避けるための東洋医学的な健康法
立秋の頃に起こりがちな不調を避けるためには、東洋医学の知恵を取り入れた日々の養生が非常に重要です。
ここでは、食養生と生活習慣のポイントをご紹介します。
食養生:潤いと気を補い、熱を冷ます
立秋は、夏の疲れと乾燥対策を同時に行う必要があります。
■潤いを補う食材
「燥邪」による乾燥を防ぐため、身体の内側から潤いを補う食材を積極的に摂りましょう。
■白い食材
東洋医学では「肺」は「白」に対応するとされ、白い食材は肺を潤す効果が期待できます。
大根、梨、白きくらげ、百合根、牛乳、豆乳、豆腐、山芋などがおすすめです。
■粘り気のある食材
オクラ、納豆、とろろ昆布、めかぶ、里芋なども、身体に潤いを与えます。
■旬の果物
梨、ぶどう、柿など、旬の果物には水分やビタミンが豊富に含まれており、乾燥対策や疲労回復に役立ちます。
■気を補う食材
夏の暑さで消耗した気を補うことで、全身の倦怠感を和らげます。
穀物: ご飯、もち米など、主食となる穀物は気の源です。
根菜類: にんじん、ごぼう、れんこん、じゃがいもなども気を補い、胃腸の働きを助けます。
豆類: 豆乳、豆腐、枝豆などは良質なタンパク質を含み、滋養強壮に役立ちます。
■熱を冷ます食材
まだ残る夏の暑さによる体内の熱を冷ます食材も適度に取り入れましょう。
きゅうり、トマト、なす、ゴーヤなどの夏野菜は、身体の余分な熱を冷ます作用があります。
ただし、冷やしすぎは胃腸に負担をかけるため、加熱して摂る、または冷やしすぎないように注意が必要です。
緑茶や菊花茶なども熱を冷ます効果があります。
■避けるべき食材
辛いもの、刺激物: 唐辛子、生姜、にんにくなど、辛味の強いものは身体を乾燥させる傾向があるため、摂りすぎには注意が必要です。
揚げ物、脂っこいもの: 消化に負担がかかり、胃腸の働きをさらに低下させる可能性があります。
冷たい飲食物: 冷たい飲み物やアイスクリームなどは、胃腸を冷やし、消化吸収能力をさらに低下させるため、できるだけ常温か温かいものを摂るようにしましょう。
生活習慣:睡眠、入浴、適度な運動
■十分な睡眠
夏の疲れを癒し、身体の回復力を高めるためにも、質の良い睡眠を十分にとることが重要です。
寝苦しい場合は、エアコンや扇風機を上手に活用し、快適な睡眠環境を整えましょう。ただし、冷やしすぎは禁物です。
■ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる
シャワーで済ませがちな夏ですが、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、身体の緊張がほぐれ、血行が促進されます。
お湯にアロマオイル(ラベンダーやカモミールなどリラックス効果のあるもの)を数滴垂らすのもおすすめです。
■適度な運動
汗をかきすぎない程度の、軽めの運動を心がけましょう。
ウォーキングやヨガ、ストレッチなど、心身をリラックスさせる運動が適しています。
激しい運動は、かえって身体に負担をかけ、疲労を増悪させる可能性があります。
■保湿ケア
乾燥対策として、顔だけでなく全身の保湿ケアをしっかり行いましょう。
入浴後など、肌がしっとりしているうちに保湿クリームやオイルを塗るのが効果的です。
■部屋の加湿
湿度計を参考に、必要に応じて加湿器を使用したり、濡れたタオルを干したりして、室内の乾燥を防ぎましょう。
■精神的な安定
「悲しみ」の感情は「肺」を傷つけると言われています。
ストレスをため込まず、趣味に没頭したり、リラックスできる時間を作ったりして、心のケアも意識しましょう。
深い呼吸法(腹式呼吸)も、精神を安定させ、肺の機能を高める効果が期待できます。
これらの東洋医学的な健康法を日常生活に取り入れることで、立秋の不調を未然に防ぎ、健やかな心身で実りの秋を迎える準備をすることができます。
この時期に効果的なツボ(経穴)
上記の健康法(食養生と生活習慣)の効果をさらに高め、立秋の不調にアプローチするために、以下の3つのツボが特に有効です。
■太淵(たいえん)
手のひらを上にして手首の曲がりじわ親指側で動脈の拍動を感じるところが太淵です。
効果: 肺の気の巡りを調整し、肺の機能を高めるのに非常に重要なツボです。
立秋の頃は「燥邪」の影響で肺が乾燥しやすいため、咳や喉の乾燥、皮膚の乾燥、便秘などの症状が出やすくなります。
太淵を刺激することで、肺の潤いを保ち、呼吸器系の症状や皮膚の乾燥、さらには気(エネルギー)の生成を助け、全身の活力を高める効果が期待できます。
また、悲しみなどの感情は肺に影響を与えるとされるため、精神的な安定にも寄与します。
■足三里(あしさんり)
膝のお皿のすぐ下、外側のくぼみに人差し指を置き、指幅4本揃えて小指が当たっているところにあります。
効果: 胃腸の働きを整える代表的なツボです。
夏の暑さで消耗した胃腸の働きを回復させ、消化吸収能力を高めることで、気血(きけつ:生命活動の基本となるエネルギーと栄養素)の生成を促進し、全身の倦怠感や疲労回復に役立ちます。
また、免疫力を高める効果も期待できるため、季節の変わり目の体調を崩しやすい時期に、身体全体の抵抗力を底上げするのに有効です。
食欲不振や消化不良、下痢や便秘など、胃腸の不調全般に効果的です。
■三陰交(さんいんこう)
内くるぶしのいちばん高いところに小指をおき、指幅4本そろえて、人さし指があたっているところが三陰交です。
効果: 下半身の3つの重要な経絡(エネルギーのルート)が交わるツボです。
とくに女性にとって非常に重要なツボとされており、婦人科系の不調(生理不順、子宮筋腫、子宮内膜症など)の改善に効果的です。
立秋の頃は、夏の疲れと乾燥が重なることで、これらの経絡の巡りが滞りやすくなります。
三陰交を刺激することで、血の巡りを良くし、身体全体の潤いを保ち、特に冷えやむくみ、不眠の改善にも役立ちます。
また、脾(ひ:消化吸収を司る)の働きを高めることで、体内の水液代謝を整え、余分な湿を取り除く効果も期待できます。
これらのツボは、指圧やお灸で優しく刺激することで、セルフケアとしても活用できます。
まとめ
暦の上では秋の始まりである「立秋」は、日本ではまだまだ暑さが厳しい時期です。
この暑さと、朝夕の気温差が体にストレスを与えることで、「夏の疲れ」が出やすい時期です。
暑さによる寝不足、冷たい飲食物の摂りすぎ、エアコンによる冷えなどが積み重なって、体にだるさや食欲不振、疲労感をもたらします。
この状態を東洋医学では「気虚(ききょ)」「脾虚(ひきょ)」と呼び、体のエネルギーや消化吸収の働きが落ちた状態と考えます
これらの不調は、日々の食養生や生活習慣、そして適切なツボケアによって未然に防ぎ、症状を和らげることができます。
旬の食材で身体に潤いと栄養を補い、十分な休息をとり、ストレスを溜めないよう心掛けることが大切です。
このような季節ごとの養生を通じて、体のバランスを整えることが、東洋医学における「未病を治す」考え方です
ご自身でできるセルフケアも大切ですが、もし不調が続くようでしたら、鍼灸専門院である当院にご相談ください。
当院では、お一人おひとりの体質や症状を東洋医学の観点から丁寧に診察し、鍼やお灸の専門施術で、根本からの体質改善を目指します。
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