お灸の煙は有害か?- 安全性と注意点
お灸の煙の安全性
お灸は古くから健康法として親しまれてきましたが、「お灸の煙は体に悪くないの?」と気になる方も多いのではないでしょうか。
タバコの煙と間違われることもあり、その安全性について気になる方もいるかもしれません。
現代では健康意識が高まり、空気の質を気にする方も増えています。
今回は、お灸の煙に関する科学的なデータをもとに、安全性について考えてみましょう。
お灸の煙の成分とは?
お灸に使われる草は「艾(もぐさ)」と言います。
キク科ヨモギ属の多年草であるヨモギを原料としています。
艾(もぐさ)は、このヨモギの葉を乾燥・精製して作られたものです。
ヨモギ自体は、食用や入浴剤、お香など様々な用途があり、もぐさの煙には心を落ち着ける効果もあると言われています。
もぐさを燃やしたときに発生する煙には、以下のような成分が含まれています。
■一酸化炭素(CO)
微量に発生するが、適切な換気をすれば問題ないレベル
■揮発性有機化合物(VOC)
一部の成分は、長時間吸入すると刺激を感じることがある
■芳香成分
ヨモギ特有の香り成分で、リラックス効果があるとされる
一般的な研究では、お灸の煙に含まれる有害物質の濃度は、通常の使用範囲内では人体に害を及ぼすレベルには達しないとされています。
ただし、密閉空間で長時間施灸すると、煙がこもりやすくなるため注意が必要です。
古くから使われるお灸ともぐさの煙
よく比較される「タバコの煙(とくに副流煙)」は、主流煙よりも多くの有害物質を含むことが知られています。
一方、お灸の「もぐさの煙」については、長らく安全性に関する研究がされていませんでした。
最新の研究によると、精製度の異なるもぐさや加工されたお灸を含め、ホルムアルデヒドなど11種類の有害成分の量が測定されましたが、全て基準値を下回る結果となり、お灸の煙は有害ではないと断言できるようになりました。
お灸の煙はタバコのように健康に問題がないとされていますが、ものが燃える際に発生する煙である以上、吸い込む時間と量によっては人体に影響を与える可能性があります。
そのため、以下の点に注意して使用しましょう。
・煙を吸い込む時間を短くする
・吸い込む煙の量を少なくする
・一度にすえるお灸の個数を少なくする
・通気の良い場所や換気ができる場所で行う
また、煙に過敏に反応する方や苦手な方は使用を控えるべきです。
鍼灸師への影響調査:長期曝露による症状
お灸の煙がある環境の長期間いた場合の鍼灸師に及ぼす影響を調査した疫学的研究も存在します。
■研究1 (「鍼灸師における灸煙への長期曝露の症状」2018年)
鍼灸師のお灸の煙への長期曝露が、身体に及ぼす影響を調査した。
最も多かった症状は流涙(32.98%)、最も少なかった症状は喘息(5.24%) であった。
女性は男性よりも咳や流涙の影響を受けやすいことが示された。
また、20年以上の曝露で眼のかゆみの発生率が増加 した。
■研究2 (「お灸の煙の刺激に敏感な鍼灸師の疫学的特徴」2020年)
733名の鍼灸師に対面で調査した。
慢性呼吸器疾患の既往歴がある人、女性、喫煙者、受動喫煙の環境にある人は、咳、喉の痰、喘息、呼吸困難、鼻の乾燥などの症状が出やすいことがわかった。
以上。
これらの研究から、お灸の煙への長期的な曝露は、特定の条件下で健康に影響を与える可能性があることが示唆されています。
ただし、個人の体質や使用環境によって影響は異なるため、注意が必要です。
線香やお香の煙との比較:ベンゼン濃度の懸念
線香やお香の煙からは、大気環境基準を上回るベンゼンが排出されるという研究結果があります。
お灸の煙に関する同様の調査はありませんが、室内で使用する際は換気を十分に行うことが重要です。
無煙灸と煙の出るお灸の違い
近年、ご自宅でセルフケアのお灸をする人も増えました。
セルフケアで使われるお灸は「台座灸(だいざきゅう)」と言い、「せんねん灸」などの商品が有名です。
今までの台座灸は、もぐさを燃やす、煙の出るものでした。
しかし、「無煙灸(炭化もぐさ)」も登場し、煙をほぼ出さずに施灸できるようになっています。
煙の出るお灸との違いは以下の通りです。
■煙の出るお灸
特徴:煙あり・香りと温熱効果が強く、リラックス効果が高い・価格が安い
■無煙灸
特徴:煙なし(もしくはわずか)・室内環境を気にする人向け・香りもごくわずか、価格が高い
無煙灸は煙が苦手な人や、換気がしにくい環境でお灸をしたい人に適しています。
一方、煙の出るお灸の香りにはリラックス効果があるとされており、好みによって使い分けるとよいでしょう。
まとめ
お灸の煙には一部の有害成分が含まれていますが、適切な換気をすれば問題ない範囲です。
ただし安全にお灸を使用するためには、換気に注意し、体質に合わせた使用を心がけるのが一番のようです。
最新の研究により、お灸の煙はタバコのように有害ではないことが示されました。
しかし、煙である以上、吸い込む量や時間によっては影響が出る可能性があり、特に呼吸器系の疾患を持つ方や煙に敏感な方は注意が必要です。
呼吸器系が敏感な方や煙が苦手な方は、無煙灸を選ぶのも一つの方法です。
お灸の持つ温熱効果やリラックス効果を活かしながら、安全に施灸を楽しんでください。
お灸を続けることで、体の冷えや不調が改善されることも期待できます。
ご自身の体質や環境に合わせて、最適な方法を選びましょう。