鍼灸が鎮痛に効果的である理由|中枢神経編

鍼灸が鎮痛に効果的である理由・中枢編

鍼灸の鎮痛効果・中枢・写真1

鍼灸は、古くから痛みの緩和に効果的な療法として広く用いられてきました。
近年の科学的研究によって、鍼灸がどのようにして痛みを抑制するのか、その具体的な仕組みが明らかになりつつあります。

とくに、脳や脊髄といった「中枢神経系」における鎮痛メカニズムについての理解が進んでいます。

鍼灸による鎮痛メカニズムについては、現代医学的な観点からも様々な研究が進められています

近年では、fMRI(functional magnetic resonance imaging)などの脳画像技術を用いて、鍼刺激による脳活動の変化を調べる研究も進んでいます。
これらの研究により、鍼灸が脳の特定部位を活性化させ、痛みを抑制する効果があることが示唆されています。

鍼灸による鎮痛効果は、末梢、脊髄、中枢(脳)の各レベルで生じますが、今回は、鍼灸が中枢神経系にどのように作用し、痛みを和らげるのかを解説します。

末梢と中枢の違い

まずは前提として、神経系の末梢と中枢の違いを説明しておきます。

神経系は、身体内外からの情報を収集し、分析・統合し、適切な反応を引き出すための複雑なネットワークです。
この神経系は、大きく「中枢神経系」と「末梢神経系」に分けられます。

■ 中枢神経系
中枢神経系は、「脳」と「脊髄」からなります。
神経系の司令塔としての役割を担っています。

◎脳:
複雑な情報処理、思考、感情、運動の制御など、高次な機能を司ります。

◎脊髄:
脳からの指令を末梢へ伝え、末梢からの情報を脳へ伝える役割を担っています。
また、反射的な運動を制御する中枢でもあります。

■ 末梢神経系
末梢神経系は、中枢神経系から枝分かれし、全身に張り巡らされた神経線維のネットワークです。
中枢神経系と身体の各組織を結びつけ、情報の伝達を担っています。

末梢神経系は、さらに以下の2つに分けられます。

◎ 体性神経系:
運動神経と感覚神経から構成され、意識的な運動や感覚(触覚、痛覚、温度覚など)を伝えます。

◎ 自律神経系:
交感神経と副交感神経から構成され、呼吸、心拍、消化、発汗など、無意識的な身体機能の調節を担います。

痛みの伝達と中枢神経系

私たちが痛みを感じるプロセスは、まず「末梢神経」にある痛覚受容器が刺激を受け、その信号が「脊髄」を通じて「脳」へ伝えられることで起こります。
脳がこの信号を「痛み」と認識すると、私たちは痛みを感じるのです。

その中枢神経系には、「痛みを抑えるシステム」が備わっています。
鍼灸は、元々備わっている「痛みを抑えるシステム」を活性化し、痛みの信号を弱める働きをします。
以下に具体的に説明します。

鍼灸が中枢神経系に及ぼす鎮痛メカニズム

下行性疼痛抑制系の活性化

要約すると、
「脳にたどり着く途中で起こる、痛み刺激を減らすシステム」が、鍼灸により活性化させるために鎮痛効果が生まれます

脳には「下行性疼痛抑制系」と呼ばれるシステムがあります。
これは痛みの信号が脊髄を通じて脳へ到達するのを防ぐ役割を担っています。

鍼灸刺激は、このシステムを活性化させ、結果、痛みの伝達を遮断します。

具体的には鍼灸刺激によって、以下の脳の部位から脳にたどり着く前(脊髄)で痛み刺激が減るような処理がなされます。

中脳水道周囲灰白質(PAG)
延髄の大縫線核(NRM)
視床や大脳皮質

これらの部位が活性化されると、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が放出され、脊髄における痛みの伝達を抑制します。
結果として、痛みの感覚が軽減されます。

脳内麻薬様物質(内因性オピオイド)の分泌

体内には、モルヒネに似た強力な鎮痛作用を持つ物質「脳内麻薬様物質(内因性オピオイド)」が存在します。
代表的なものとして、以下の3つがあります。

エンドルフィン
エンケファリン
ダイノルフィン

鍼刺激を受けると、これらのオピオイドが中枢神経系内で分泌され、痛みの信号を遮断します
とくに、PAGやNRMでのオピオイドの放出が痛みの緩和に大きく貢献しています。

セロトニンとノルアドレナリンの増加

セロトニンやノルアドレナリンは、痛みの信号を抑制する重要な神経伝達物質です。
鍼灸の刺激により、これらの物質が増加し、脊髄における痛みの伝達を弱めることで鎮痛効果を発揮します。

扁桃体や前頭前野の関与

「どのくらい痛みを感じるか?」は、心理的・精神的な要素でも変わります。

鍼灸刺激は、痛みの認知や精神(心理)に関わる脳領域(前頭前野、帯状回、扁桃体など)の活動をコントロールする効果があります。
脳の働きを活発にしたり鎮めたりすることで、痛みの感じ方や精神反応を変化させ、鎮痛効果をもたらすと考えられています

脳波の変化

鍼刺激は、脳波にも変化をもたらすことが知られています。
とくに、α波と呼ばれるリラックスした状態の時に出現する脳波が増加することが報告されています。
このα波の増加は、痛みの軽減やリラックス効果に関与している可能性があります。

まとめ

鍼灸が鎮痛効果を発揮するメカニズムには、中枢神経系におけるさまざまな作用が関与しています。
とくに、「下行性疼痛抑制系の活性化」「内因性オピオイドの分泌」「セロトニンやノルアドレナリンの増加」などが重要な役割を果たします。

これらの作用が組み合わさることで、鍼灸は痛みを和らげるのです。

現代医学の研究が進むにつれ、鍼灸の鎮痛メカニズムの詳細が解明されつつあります。

今後もさらなる研究が進むことで、より効果的な痛みの治療法としての活用が期待されます。