多のう胞性卵巣症候群(PCOS)には漢方か鍼灸か?

「多のう胞性卵巣症候群(PCOS)」には漢方薬と鍼灸どちらを選ぶ?

PCOSの漢方と鍼灸・写真1
多のう胞性卵巣症候群(PCOS)に悩むあなたへ、ある時突然指摘された自分の婦人科疾患に戸惑い、将来お子さんを授かれるのかご不安に感じていらっしゃることでしょう。
それに伴う心の疲れは計り知れないものがあると思います。
病気と向き合いながら、生活や仕事、人間関係を頑張っているあなたの姿は、本当に尊いものです。

東洋医学の観点から言えば、
多のう胞性卵巣症候群(PCOS)は体内の不調が関連していると考えられます。
この不調を改善するために、漢方薬や鍼灸は体質を整え、自律神経やホルモンバランスを取り戻す助けとなります。

あなたの心が不安が軽くなる日が来ることを願っています。
そして、笑顔で過ごせる時間が少しずつ増えていきますように応援しています。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)で悩まれるあなたに、最初に「結論」です
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です

それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)と東洋医学

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)の漢方と鍼灸・写真2

多のう細胞性卵巣症候群(PCOS)は、西洋医学ではホルモンバランスの乱れや代謝異常によるものとされていますが、東洋医学では、全身の「気・血・水」」や「臓腑」の調和が乱れた結果と考えます。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)は、東洋医学においては全身の気血水のバランスの乱れが深く関わっています。
そのため、患者さんの体質に基づき原因を探ることが重要です。
以下に主な体質別に説明します。

気滞(きたい)タイプ

気の巡りが悪く、ストレスや情緒の不安定さが影響する体質です。
ストレスや精神的な緊張が続いており、内臓系のひとつである「肝」の働きが乱れ、気の流れが滞っています。
気が滞ると瘀血(血の滞り)が起きます。
その結果、巣卵の血流が悪くなり、ホルモンの調整機能に障害が出ることでPCOSにつながります。

瘀血(おけつ)タイプ

血液の巡りが悪く、血が体内に滞留している状態です。
これにより、卵巣や子宮の機能が低下し、排卵障害が起きやすくなります。
この体質は、冷えや月経不順、月経血に血塊を伴うことが特徴です。

痰湿(たんしつ)タイプ

痰湿とは、水分代謝が滞り、余計な水分が体内に溜まった状態です。
この体質の人は、体重増加、食べ過ぎや運動不足、ストレスなどによって「湿(余計な水分)」が体内に溜まる傾向があります。

腎虚(じんきょ)タイプ

東洋医学では、「腎」は生殖や成長を司る重要な臓腑とされます。
腎虚(腎のエネルギー不足)は、ホルモンの働きや生殖能力が低下します。
腎虚により卵巣機能が弱まり、排卵障害が進みます。
この体質は、冷え性や腰のだるさ、倦怠感を伴うことが多いです。

陽虚(ようきょ)タイプ

体を温める陽気の不足が原因で、冷えが全身に影響する体質です。
冷えによって子宮や卵巣の機能が低下し、血流が滞ることでPCOSが進行します。
手足の冷えが強く、寒さに弱いことが特徴です。

陰虚(いんきょ)タイプ

体を潤す陰液(血や水)の不足により、熱がこもる状態です。
陰虚により、卵巣や子宮の潤いが溢れ、ホルモンバランスが乱れます。
熱が体内にこもることで卵巣の炎症が起き、口乾や寝汗、不眠のような症状が現れます。

まとめ。
東洋医学ではPCOSを、体質ごとに気・血・水や内臓の不調の結果として理解します。
これらの体質が単独で存在する場合もあれば、複数が重なることもあります。

患者さんの体質や生活習慣に合わせて原因を探り、それに応じたアプローチをすることで、全身のバランスを整え、根本的な改善を目指します。
このような視点で患者さんに寄り添いながら治療を進めていくことが、PCOSへの効果的な対応と言えます。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)に効く漢方薬の代表例

PCOSの漢方と鍼灸・写真3
多のう胞性卵巣症候群(PCOS)で悩む人に対して体質別に効果が期待できる漢方薬を挙げ、その理由を説明します。
ただし、漢方薬は実際の体質や症状に合わせて処方されるべきものですので、参考程度に留め、必ず専門家に相談してください。

気滞(きたい)タイプ

適した漢方薬:
・加味逍遥散(かみしょうようさん)

理由:気の巡りを改善し、ストレスやイライラ感を和らげる処方です。
月経前症候群(PMS)のような精神的な症状が目立つ場合に効果が期待できます。

瘀血(おけつ)タイプ

適した漢方薬:
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

理由:瘀血を改善し、血液の巡りを促す効果がある処方です。
子宮や卵巣の炎症や血流の停滞を和らげ、月経痛の軽減が期待されます。
温性の薬であり、冷えがある瘀血体質にも適しています。

痰湿(たんしつ)タイプ

適した漢方薬:
・防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)

理由:体内の余分な水分を取り除き、むくみを軽減する効果があります。
水分代謝が悪く、湿気が体内に溜まりやすい体質に適しています。

腎虚(じんきょ)タイプ

適した漢方薬:
・八味地黄丸(はちみじおうがん)

理由:腎を補い、全身のエネルギーを高める効果があります。
冷えが強く、生殖機能の低下が見られる場合に適しています。

陽虚(ようきょ)タイプ

適した漢方薬:
・真武湯(しんぶとう)

理由:体を温め、陽気を補う処方です。
冷えによる卵巣機能の低下や、一時の冷感を伴うPCOS患者に効果的です。
また、むくみや倦怠感の改善にこちらも役に立ちます。

陰虚(いんきょ)タイプ

適した漢方薬:
・知柏地黄丸(ちばくじおうがん)

理由:腎の陰を補い、体内の少しの熱を休める処方です。 陰虚によるホルモンバランスの乱れや、のぼせ、口のふらつき、不眠を伴うPCOS患者に効果卵巣機能を潤し、排卵を助けます。

以上のように、
「PCOSにはこの薬」のような病名からの処方ではなく、「その人の体質・状態にはこの薬」という体質からの処方が勧められます
ですので、同じ病名に悩む人にも異なる漢方薬が出ることも少なくありません。
こういう治療の組み立てをするのが東洋医学です。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)に効く鍼灸のツボ

PCOSの漢方と鍼灸・写真4
鍼灸も漢方薬と同じく東洋医学の一角ですので、考え方は同様です。
その人の体質・状態から適したツボを選択していきます。

気滞(きたい)タイプ

特徴:ストレスや感情の抑圧が強く、月経前の腹部の張りやイライラ感がある。

適したツボ:
・太衝(たいしょう)
理由:肝の気を巡らせる作用があり、ストレスや気滞による緊張を和らげます。
感情の抑圧やイライラ感が強い場合に有効です。

・内関(ないかん)
理由:気の流れを整え、精神安定作用があります。
ストレスや不安によるホルモンバランスの乱れを調整します。

・陽陵泉(ようりょうせん)
理由:肝経の滞りを解消し、全身の気の巡りを整えます。
月経痛や下腹部の張り感を軽減するために使用されます。

瘀血(おけつ)タイプ

特徴:血の巡りが悪く、月経痛が強い。血塊が見られることが多い。

適したツボ:
・血海(けっかい)
理由:血液循環を促進し、瘀血を解消する働きがあります。
とくに月経に関連するトラブルに有効なツボです。

・三陰交(さんいんこう)
理由:女性特有の疾患に広く使われるツボで、血液の巡りを改善し、痛みの軽減が期待されます。
また、下腹部の血流を良くします。

痰湿(たんしつ)タイプ

特徴:むくみやだるさ、体内の余分な湿気が停滞している。

適したツボ:
・水分(すいぶん)
理由:体内の余裕な水分を取り除く効果があります。
消化機能の改善にも役立ちます。

・豊隆(ほうりゅう)
理由:痰湿を解消する主要なツボです。
湿気によるむくみや体の重だるさに効果があります。

・陰陵泉(いんりょうせん)
理由:脾の機能を強化し、水分代謝を改善します。
体内の余分な湿気を取り除くために有効です。

腎虚(じんきょ)タイプ

特徴:疲労感、冷え、腰や膝のだるさがある。

適したツボ:
・腎兪(じんゆ)
理由:腎を補い、全身のエネルギーを高めるツボです。
腎虚体質の人の生殖機能やホルモンバランスの改善に役立ちます。

・命門(めいもん)
理由:生命力を強化するツボとして知られ、腎を温める効果があります。
腰の冷えやだるさにも有効です。

・太谿(たいけい)
理由:腎経の主要なツボであり、腎の働きを助けます。
全身の冷えやエネルギー不足を改善するために使われます。

陽虚(ようきょ)タイプ

特徴:冷えが強く、月経痛が冷えると悪化する。

適したツボ:
・関元(かんげん)
理由:体を温める効果があり、冷え性による痛みや不快感を軽減します。
とくに下腹部の冷えに有効です。

・命門(めいもん)
理由:体を温める陽気を活性化する作用があります。
特に冷え性や生殖機能の改善に有効です。

陰虚(いんきょ)タイプ

特徴:疲労感とともにほてり・熱っぽさがある。

適したツボ:
・復溜(ふくりゅう)
理由:生殖器系の熱をとる効果があります。
上半身ののぼせにも効果的です。

・三陰交(さんいんこう)
理由:陰液を補い、ホルモンバランスを整えることが重要なツボです。
陰虚による排卵障害やのぼせを緩和します。

以上、
「PCOSに良いツボ」も全身のあちこちにあります。
それは「卵巣=下腹部や腰」という考えでなく「体質の異常=全身の問題」と捉えるためで、それを改善するツボは全身にあります

漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)でお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。

もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか

漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。

漢方薬は費用負担が少ない可能性

漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。

他にどんな悩みがあるか?で決める

「PCOS」は様々な原因が考えられますし、「PCOS」のみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。

漢方薬は内臓系が得意ですので、更年期などホルモンバランスの変化や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれ・自律神経の乱れなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。

通院の負担と服用の負担から考える

たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。

どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。

まとめ

最初の結論にもう一度書きます。

「多のう胞性卵巣症候群(PCOS)には漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。

漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。

1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。

2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。

3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。

4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「PCOS」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。

5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。

以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。

ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。

ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。

『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』

漢方薬と鍼灸の違いってなに?

また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)