レジェンド鍼灸師が語る「灸と鍼」
レジェンド鍼灸師が語る
『間中喜雄博士の灸とハリ』(間中喜雄・著)。
昭和46年初版(53年増補)を読みました。
専門書ではなく一般書だからこその、フランクな書きっぷりで興味深く読みましたのでご紹介します。
間中喜雄先生は昭和を代表する鍼灸の先生です。
医師でありながら東洋医学(鍼灸)にも深い理解があり、ご活躍中には鍼灸業界の中心的人物だった先生です。
鍼灸との出会い
間中先生は西洋医師でありながら鍼灸をするのですが、まず、「なぜ鍼灸をするようになったか」という話から始まります。
医師になった頃の間中先生は、『鍼灸・呼吸法・運動法・食事法など色々な医学外の医療のようなものがあるそうだが、本当に効果があるならキチンと医大でも教わり、病院でも使われるはず』と考えました。
だから、これらはインチキに違いないと思い『こんな療法を受ける患者は叱りつけてでもやめさせた方が良い』と考えていたそうです。
しかしそのうち、お灸で実際に治っている患者を見聞きし、鍼灸の研究を知るに従い、自分でもやってみようと思い(西洋医学とは違った面で)鍼灸の効果的なことを体験していったそうです。
・・・やってみたら良かったので信じるようになった。よく聞く話ですね(笑)
西洋医学と東洋医学の違い
西洋医学は、病気の原因を突き止めそれに対して手を打ち、健康を取り戻す方法論をとる。
一方、東洋医学は、患者の身体が表現している症状から、それを健康状態にする為の方法論をとる。
西洋医学は「知識のための知識」の積み重ねで、東洋医学は「実用的な知識」の積み重ね。
「医学」としては西洋医学の方が進んでいるが、「医術」としては東洋医学は相当進んでいる、とみています。
やはり東洋医学は「技術」
「ハリ・灸は一つの技術であるから、だれがやってもじょうず、へたなしにできるというものでもない。しかしどんなにへたな人がやっても、へたはへたなりになおる病気もあるものである」とおっしゃっています。
ふ~む。ちょっと安心できるような…。
われわれ鍼灸師も、常に今あるレベルなりの最善の手を尽くしたいですね。
鍼灸の効く病気
どうやって施術するのか?により、何が適応になるかは変わってくるでしょうが、レジェンド鍼灸師の発言ですので参考になります。
◎非常によく効く
・筋肉痛
・関節痛
・肩こり
・腰痛
・ぎっくり腰
・頭痛
・筋疲労
・消化器のケイレン
・痔疾患
・消化器の不快感
・打撲の痛み
・子供の神経症(夜泣き・夜尿など)
○かなりよく効く
・リウマチの痛み
・胆石痛/腎石痛
・高血圧初期による症状(頭痛・めまい・肩こり等)
・低血圧
・蕁麻疹
・湿疹
・かゆみ
・円形脱毛症
・下痢
・顔面神経麻痺
・月経障害
・神経症
△やってみてよい
・喘息
・嘔吐
・麻痺
・つわり
・歯痛
・心筋梗塞
・腸閉そく初期
・胃潰瘍
・三叉神経痛
・関節炎
☆対症療法としてやっている
・結核
・がん
・脊髄の病気
・麻痺の古くなったもの
全身の治療基本穴
澤田流を引き合いに出し、全身的な治療には基本穴を用いる方法を解説しています。
間中先生は澤田流の基本の基本穴を「百会・陽池・中カン」の3穴としている。
これは「そうなの?」という感じ。「百会」じゃなくて「腎兪」じゃないの?と。
また、全身的基本穴治療には「利点は、どんな病気にやっても、あたらずといえずとも遠からずで、長くやっているときいてくる。じょうず、へたなく杓子定規にやれることである。」と評しています。
しかし別の文章では、「専門家といってもピンからキリまであるが、治療のへたな人は、イ)だれにでも同じような治療法をする。ロ)痛い場所ばかり治療する。ハ)つぼをむやみにたくさんとる。という傾向がある。これは、まだ本当にハリ・灸の勉強が足りないためである。」と耳の痛いお言葉も・・・。
各論の章
よくある一般書のように、さまざまな病気への対処方法を病気別に書いています。
ただし、単に『頭痛に風池・百会』的な病気とツボの対応だけを書くのではなく、実際の症例を出して治療法を書かれています。
それが脈をみて腹をみての選穴・配穴だったり、漢方薬も使うような解説で、鍼灸師である私が読んでも非常に面白いのです。
まとめ
昭和53年発行ですから当然のように中古本で、本自体がかなりボロく、内容もなんとなく時代的にも古めかしいのかなと思って読み始めました。
…が、内容は今に生きるとても面白いものでした。
鍼灸の世界では昭和はまだまだ「現代」ということかもしれません(笑)
二千年の歴史ですからね(^^)/
鍼灸の専門書も同様ですが、各論よりも総論の方が面白いです。
各論はどれもけっこう似たり寄ったりだったり、最終的にはどういう施術をするのか(ツボの取り方は? 鍼はどういう刺し方? お灸はどういうお灸?など)によって再現性が大きく変わってきますので、参考になる面とならない面がどうしてもあります。
総論はその先生の治療のバックボーンを知ることができるので興味深いです。
一生勉強は続きます。